もやもや病と脳血流検査
(2004年7月10日青森県核医学研究会での講演内容の一部です)
はじめに
もやもや病は、1950年代の後半に初めてその存在に気付かれた.しかし、その病因が不明のため、当初、いろいろな病名が付けられた.一般的に「もやもや病」、正式には「ウィリス動脈輪閉塞症」と呼ばれる.頭蓋内の内頚動脈の末端、その近傍の動脈に狭窄や閉塞があり、脳の深部(脳底部)に「もやもや血管」が認めら、この所見が、両側に認められる.脳虚血や脳出血で発症するが、発症時の年齢分布には2つピークがあり、10歳までの子供は、脳虚血で発症することが多く、30-40歳代の大人は、脳出血で発症する場合が多い.女性と男性の比率は、1.8:1で、発生頻度は、10万人に対して3.16とされ、日本で年間に約400人の新たな患者が発生している.
脳血流検査
もやもや病の脳循環代謝の把握は、病態の把握、治療の適応決定、治療効果の判定に有効である.しかし、細かな点では、その結果が一致しない報告も多い.同じもやもや病でも、虚血発症があれば、出血発症もあり、同じ虚血発症でも、その脳血管構築は、個人個人によって全く異なるのが一因である.
正常人では加齢とともに脳血流(CBF)が減少するとされる.小児では、脳循環代謝は著しく亢進しており、大脳半球血流量は、5歳未満の幼児では成人の2-2.5倍と高値で、成長に伴い急激に減少し、10歳前後で成人の1.3倍程度になり、その後徐々に減少する.幼児期の脳血流の高値は、大脳皮質の神経細胞密度と密接な関係にあり、大脳皮質の血流が増加しているが、大脳白質の血流は、年齢によって異ならない [1].
脳循環検査は、X線CTによるperfusion、Xe-CT、MRによるperfusion、SPECT、PETなどで行われる.脳血流の予備能を測定する目的で、acetazolamide(diamox)の静注が使われる.これにより脳実質のpHが低下し、脳血管拡張が起こり、脳血流が57-70%増加する.予備脳が全くない部位では、acetazolamide 投与で、逆に脳血流の低下するsteal現象 (reverse steal phenomenon)が認められることがある.脳神経疾患の脳血流検査で、小脳の血流を正常と仮定して大脳の脳血流を論議することがある(cerebro-cerebellar ratio: C/C ratio).もやもや病の場合、基本的に小脳・脳幹の動脈には全く閉塞性変化がこないため、小脳血流は正常であり、この仮定での脳血流の検討は可能である.大きな脳梗塞が大脳半球にある場合には、crossed cerebellar diaschisisが認められる.
脳血流のstaging
桑原らによりもやもや病における脳血流のstagingが提案されている [2].
1期:安静時、diamox負荷時とも正常
2期:安静時は正常、diamox反応性の低下あり
a: 反応性低下が前頭葉のみ
b: 前頭葉以外にもあり
c: 大脳全般に低下
3期:安静時の血流低下、同部のdiamox反応性低下、CT、MRIでは異常なし、
または軽度白質病変あり
4期:安静時に多発性血流低下あり.同部にCT、MRIで脳梗塞や高度萎縮を認める.
鈴木らの血管撮影分類(1-6期)の進行程度と脳血流検査の結果が、一致する傾向を示すとする報告 [3]があれば、一定の関係はないとする報告もある [2].これは、多くのもやもや病患者が鈴木らの3期に入ってしまうことも一因である.Hoshiら [3]は、1-2期では脳血流が正常に近く、3期で予備能が低下し、4-5期では、脳全体の脳血流・予備能が低下すると報告した.
もやもや病における脳血流と予備能
CT、MRでの脳梗塞部位での脳血流・予備能の低下は、当然であるが、その範囲を超えた広い範囲で脳血流・予備能の低下が認められる.脳梗塞がない場合、虚血の部位(低灌流)は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉が中心で、基底核や後頭葉は、比較的脳血流が保たれており、また小脳の血流は正常とされる [4].前頭葉、頭頂葉、側頭葉では、予備能の低下がある症例も多い.基底核の血流は増加しているとする報告もある.正常脳の脳血流のhyperfrontal patternは失われ、後方循環が優位になる.予備能の低下は、代償性にすでに血管拡張が起こっているためと考えられる.
前述のように幼児の脳循環代謝は、著しく亢進しており、1-5歳の頃がそのピークとされ、脳血流量は100ml/min/100g近くに達する.このためもやもや病により脳血流が低下した場合、同じ程度の虚血であっても、成人の場合よりも虚血症状が顕著である.もやもや病における年齢と脳血流の関係は、成人では比較的正常に近いとされるが、小児の場合は低下しているとされる[4-6].しかし、若年のもやもや病で、10歳未満と10歳以上を比較した研究では、前者の方が脳血流は有意に高いとされる [7].またPETを使った研究で、小児もやもや病における脳血液量(CBV)は成人もやもや病におけるそれより有意に高く、また脳血流の低下した部位では、成人では酸素摂取率(OEF)の上昇は認められないが、小児ではOEFは有意に高いとされる [6].
虚血発症のもやもや病の病態
虚血性のもやもや病の発症機転が、脳灌流圧の低下による血行動態的虚血(hemodynamic ischemia)であるとされている.しかし、脳血流検査での虚血病巣と実際の脳梗塞の部位が、必ずしも一致しているとは言えず、単に血行動態的メカニズムのみで症状を呈しているとは言えず、塞栓性のメカニズムの関与も考えられる.もやもや病患者の異常な脳血行動態を考えると、もやもや病の患者での脳梗塞部位が正常人での脳のwatershed zoneに当たるとしても、もやもや病患者の実際のwatershed zoneになっているとは言えない.また、病理学的に内頚動脈の狭窄・閉塞性病変に壁在血栓があることが知られており、この血栓と脳梗塞の関係が示唆される.小児もやもや病で、一過性脳虚血発作の頻度が年齢の上昇とともに減少するのは、脳循環代謝が10歳未満の方が、10歳以上よりも大きいためであるとされる[7].
虚血発症のもやもや病に対する外科的治療
成人のアテローム動脈硬化性病変における血管吻合術の脳梗塞予防効果を検討する研究では、Powersのstage 2の患者に対する吻合術の有効性が検討されている.つまり安静時脳血流の低下(80%以下)と予備能低下(血管反応性が10%以下)を示すmisery perfusionの患者に対して、バイパス手術の有効性の検討が行われている.この成人のmisery perfusionの手術適応を、そのままもやもや病に適応することはできない.一過性脳虚血発作が頻発する場合でも、脳血流は比較的正常の場合もあれば、逆に、脳血流低下・予備能低下があっても臨床症状がない場合もあり、単に脳血流検査だけでバイパス手術の適応を考えるわけにはいかない.
血管吻合後の脳血流は、直後には一過性の血流低下がある場合やcrossed cerebellar diaschisisが認められることがあるが、術後3ヶ月を過ぎると、脳血流や予備能が改善することが多い [8].また、バイパス手術後でも開頭域以外では、低潅流部位が残存する場合もあり、それが症候性であれば同部位への追加手術を検討する [9].
文献
1. 小川 彰、中村信之、杉田京一、他: 小児の脳循環.その正常値と局所脳循環分布.脳神経 39:113-118, 1987
2. 桑原康雄、松島俊夫、福井仁士:Willis動脈輪閉塞症(もやもや病)の脳血流SPECTによる病期分類.神経内科 54:328-333, 2001
3. Hoshi H, Ohnishi T, Jinnouchi S, et al: Cerebral blood flow study in patients with moyamoya disease evaluated by IMP SPECT. J Nucl Med 35:44-50, 1994
4. Takenouchi S, Tanaka R, Ishii R, et al: Cerebral hemodynamics in patients with moyamoya disease. A study of regional cerebral blood flow by the 133Xe inhalation method. Surg Neurol 23:468-474, 1985
5. 小川 彰、中村信之、桜井芳明、他:Moyamoya病の脳循環. 脳神経 39:199-203, 1987
6. Kuwabara Y, Ichiya Y, Otsuka M, et al: Cerebral hemodynamic change in the child and the adult with moyamoya disease. Stroke 21:272-277, 1990
7. Tagawa T, Narutomi H, Mimaki T, et al: Regional cerebral blood flow, clinical manifestations, and age in children with moyamoya disease. Stroke 18:906-910, 1987
8. 小西 徹、長沼賢寛、本郷和久、他:もやもや病のIMP-SPECT所見.治療前後における比較検討.脳と発達 23:446-452, 1991
9. Sato H, Sato N, Tamaki N, et al: Chronic low-perfusion state in children with moyamoya disease following revascularization. Child’s Nerv Syst 6:166-171, 1990