最新の診断、治療の手引き (2001年)


T.概要

1.概念
 ウィリス動脈輪閉塞症は、日本人に多発する原因不明の脳血管障害であり、脳血管撮影で異常血管網を認めることから脳血管モヤモヤ病ともいわれる.発症の年齢分布は二峰性を示し、5歳を中心とする高い山と30-40歳を中心とする低い山を認める.前者を若年型、後者を成人型と区別している.ウィリス動脈輪の狭窄や閉塞による脳虚血が病態の主体であり、若年型では一過性脳虚血発作が、成人型では発達した側副血行路の破綻による頭蓋内出血の割合が増加してくる.

2.疫学
 本邦及びアジア系民族に多い.全国年間受療患者数(1996年)は、約6,000人、人口10万人当たり4.74人である.男女比は1:1.8で女性に多い.患者の約10%にウィリス動脈輪閉塞症の家族歴を認める(1995年全国調査推定).

3.病因
 未だ不明であるが、家族発症例では、遺伝的要素の関与が明らかになってきている.これまで疾患の発症とリンクする染色体は、第3染色体(3p24.2-p26)、第6染色体、第17染色体(17q25)等の報告がなされている.このように複数の染色体の遺伝子産物が相互作用をし、病気の発症と結びついていると考えられるが、その鍵となっている主たる遺伝子座が3pに存在するものと考えられ、現在責任遺伝子を解明すべく研究が進められている.

4.症状
 症状及び経過については、無症状(偶然発見)のものから、一過性脳虚血発作を呈するもの、脳梗塞・脳出血で発症し固定神経症状を呈するものなど、軽重・多岐にわたっている.

 (1) 若年型は一過性脳虚血発作により発症するものが多く、脱力発作(単麻痺、片麻痺、四肢麻痺)、意識障害、感覚異常、不随意運動、痙攣、頭痛などが突発し、短時間で消失する.このような虚血発作は、過呼吸時(激しい啼泣など)あるいは何ら誘因なく反復発作的に出現し、ときに病側が左右交代して現れることがある.発作はその後継続して生じる場合と、停止する場合がある.悪化する症例では精神機能障害、知能低下、失語、全盲等に至る場合がある.成人例のように頭蓋内出血をきたすことは稀である.幼児期早期発症の中には重症で知能予後不良な症例が多いといわれている.

 (2) 成人例は脳虚血病態に加えて頭蓋内出血による脳卒中発作(多くは脳室内出血、その他、脳出血、くも膜下出血)での突然発症例の割合が増加して、約半数みられる.脳卒中の程度、脳障害部位に応じて意識障害、運動麻痺、言語障害、精神症状などを呈する.これらの機能予後は脳卒中の程度に規定され、生命予後はよい.しかし、重症例では発症時急性期に病因死するものもあり、死亡例の大多数は頭蓋内出血である.頭蓋内出血は本疾患の長期予後悪化因子でもあり、最も重篤な病態でもある.

5. 治療
 脳梗塞・頭蓋内出血発症時の急性期には、気道確保による動脈血酸素飽和度の維持、脳圧亢進対策、痙攣抑制、呼吸器及び尿路感染防止などの対症療法を行う.一過性脳虚血発作に対しては、発症時、適度の酸素投与を行い安静を保ち、過呼吸・啼泣を避ける.脳虚血病態に対しては、脳循環代謝を評価した上で、必要に応じた頭蓋外内血行再建術が脳循環代謝の改善、脳虚血発作の防止に有効である.出血発症型に対しての血行再建術の再出血予防効果については研究中である.脳卒中による後遺症に対してはリハビリテーションを行う.
 
U.診断

表1 ウィリス動脈輪閉塞症の診断基準

表2.MRI・MRA (magnetic resonance imaging ・ angiography)による画像診断のための指針 (1995年)

V.治療指針

1.一次医療機関における治療及びその限界点
 ウィリス動脈輪閉塞症の原因は未だ不明であるため、根治的な治療法はない.急性期対症療法と再発防止療法、後遺症に対する対症療法が主体である.
 特に小児の脳卒中発作では本症を疑い、虚血・出血発作の急性期には、輸液、脳圧亢進対策、痙攣抑制、気道確保と血圧維持などの脳循環機能の改善を目指した対症療法を行う.激しい啼泣や必要以上の酸素吸入は症状を悪化させることがあるので注意が必要である.確定診断のためには、脳血管撮影や高解像度MRIが必要があるので、症状が落ち着き次第.二次・三次医療期間への転送が望まれる.

2.二次・三次医療期間等における治療
 まず診断の確定に先立って、急性期には輸液、脳圧亢進対策、痙攣抑制、気道確保と血圧維持などの脳循環機能の改善を目指した対症療法を行う.成人出血例では、重症例では確定診断目的の検査より、状態に応じて、脳室ドレナージや血腫除去術などの緊急手術が優先する場合がある.小児の場合、MRI・MRAの所見が診断基準を満たしていれば、診断目的での脳血管撮影は必要ない.脳血管撮影検査時や手術での全身麻酔時には、脳循環血液量の確保、血圧の維持、動脈血二酸化炭素分圧の保持、貧血時にはその補正など、細心の注意を払い、脳虚血に対する予防対策が必要である.
 ウィリス動脈輪閉塞症の治療法の選択は、1.経過観察、2.内科的治療(血管拡張剤、抗血小板凝固剤、線維素溶解剤、抗線維素溶解剤、抗痙攣剤など)、3.外科的治療(頭蓋外内血行再建術、脳卒中に対する対症療法)、4.内科・外科治療の組み合わせがある.成人では、虚血発症であっても、頭蓋内出血を発生する可能性があるため、抗血小板凝固剤の使用方法には留意すべきである.
 一般的に、脳虚血発症例に対しては、内科的治療をすすめながらウィリス動脈輪閉塞症の確定診断を下し、1.明らかな脳虚血発作を繰り返す、2.脳循環代謝検査において、脳血管反応性の低下、脳循環予備能の障害が認められた場合には血行再建術の適応となる.手術方法には、浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術、種々の間接血行再建術があり、小児では、本症小児特有の血管新生能の豊富さより、間接血行再建術あるいは両者の組み合わせが最も多く施行されており、成人では主に浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が施行されている.
 出血発症例では、出血量・部位に応じて、保存的に治療する場合と、救命や臨床症状の早期改善目的で脳室ドレナージや血腫除去術などの緊急手術を施行する場合がある.出血例に対する血行再建術の再出血予防効果に関しては明確な結論は出ていないが、血行再建により、モヤモヤ血管に対する血行力学的な負荷の軽減が再出血を予防すると考えられており、研究されている.