患者と医師の視点のズレ



このページを立ちあげてから、もやもや病の患者さんとのやりとりで、患者さんと医師の関心のズレと言うか視点のズレを幾度か感じました.これらを箇条書きにまとめました.診察・診療の参考になれば幸いです.

診察・治療を受ける病院・医師について:患者さんの(その家族の)一番の関心事は、もやもや病についての事細かな説明ではなく、いったいどこで治療を受けたらベストなのかと言うことです.これは、当たり前のことですが、患者サイドから見るともやもや病に限らず、何の病気でもそうですが、安心して治療を任せることが出来る病院・医師を知りたいと言うことです.医師サイドから見ると、不安に満ちた患者さんを診察するのですから、自分の病院に(自分に)もやもや病の治療を任せてもらってもらっていいのか、はっきりさせる必要があります.あまり、もやもや病の患者さんを診察・治療したことがない場合は、治療に慣れた病院・医師に紹介すべきと考えます.また、患者サイドも医者にお任せではなく、病気に対する知識をもって、自分で判断する時代になっています.不明な点は、納得行くまで説明を聞くようにしたいところです.

もやもや病についての説明・理解:ことさら難病であること、稀な病気であることが強調されて患者さんに説明されることが多いようです.一般の脳神経外科病院では、一年に一人のもやもや病の患者さんも診察しないこともあります.これは、”稀な病気”=”自分(医師)の外来にもやもや病の患者さんが稀にしか来ない”という場合も多いと思います.患者サイドから脳神経外科の病院を見る場合、どこの病院でも同じようにもやもや病について理解した医師がいるとは考えず、逆に、病院によってもやもや病の患者さんの治療経験は全く異なると考えた方がいいでしょう.また、どの大学病院も、もやもや病の治療に慣れていると考えるのも間違いです.具体的に、担当の医師にもやもや病の治療経験を聞くのがいいと思います.

キーワード: 難病、原因不明、進行性の病気、稀な病気

もやもや病専門の脳神経外科医:もやもや病専門の脳神経外科医が日本にいるでしょうか?日本には、5000人以上の脳神経外科の専門医がいますが、特にもやもや病に関心を持ってずっと治療に当たっている医師は、残念ながら非常に少ないと思います.また、もやもや病の患者さんとの付き合いは一生であるとの認識を持った医師も少ないでしょう.自分が手術した患者さんは、責任があるのでちゃんと外来で経過を見るわけですが、転勤などによって、担当の医師が変わった場合、外来カルテからだけでは伝わってこない情報もあり、本当は良いことではないですが、あまりもやもや病に関心がないと、簡単な診察・説明で外来を終わるため、患者さんも病院から足が遠のくといった悪循環になりかねません.この病気とは一生付き合うわけですから、医師も患者さんと一生付き合おうと言ってあげたほうか良いように思います.

日常生活についての説明:脳神経外科医は、過呼吸が虚血発作を誘発することは皆知っています.しかし、具体的に、患者サイドからこの過呼吸を考えると、私が(私の子供が)縦笛を弾いていいのか、マラソンをしていいのか、水泳をしていいのか、サマーキャンプへ行っていいのか、妊娠していいのか、などの説明・指導が欲しいということです.少し、医師サイドとしての弁明をすると、例えば、マラソンを許可した場合、脳虚血発作が絶対におこらないという保障はないわけですから、アクシデントがおこった場合、医療訴訟にならないかといった心配が心の中に必ずあります.またMRI、脳血流検査などの情報では、かならずしも、このような発作の予測は難しいこともその理由のひとつにあげられます.日常生活上の制限は、個々の患者さんによって異なるのは当たり前でしょうが、ここまでしても安全ですよという情報、根拠が乏しいため歯切れの良い説明が難しいわけです.クリアーカットな説明は困難ですが、医師サイドは出来るだけ具体的に説明するように心がける必要があると思います.


外来では分からないこと:患者さん自身やその御家族の病気に対する漠然とした不安は、医師にはなかなか分からないことです.病気自身がよく分かっていないことや、患者さんが病気についてよく説明されていなかったり、理解が不十分であったり、いろいろな理由があると思います.将来はどうなるのか、何に注意したら良いのか、兄弟や子供は大丈夫かなど、実際に答えがないことが多く、また一般論で、統計的なデータを示されても、私はどうなのか、どうなるかといった疑問への答えにはなっていないようです.漠然とした不安で落ち込んでいたり、またお子さんの場合、学校で周りにはうまく理解されず孤立したりすることもあるようです.短い外来の時間では、細かいことまで気がつくことも少なく、また脳神経外科医がアプローチするのは無理なこともあるようです.


爆弾をかかえているようなもの:脳神経外科の疾患の中に脳動脈瘤があります.破裂するとクモ膜下出血を起こし,約50%の患者さんで,命に関わったり,障害が残ることがあります.もやもや病の患者さんでもこの脳動脈瘤が合併することがあります.この病気の説明をするときに,脳神経外科医の中には「爆弾をかかえているようなもの」と言う医師がいます.これは,一部,合っていますが,患者さんにとっては,とても重荷になり,場合によっては,大きな苦痛と不安を与えるだけで,何のプラスにもならないため,私は決してこのような説明はするべきでないと考えています.出血発症のもやもや病の患者さんも,血管吻合といった確立した治療法がないため,そのような説明がされることがあるようですが,同様な理由で,このような説明は慎むべきだと考えています.私は,これがいいかどうか分かりませんが,「残念ながら,今は決め手となる治療法はありません.この病気は,場合によっては,再出血をする場合がありますが,外来で経過を追ってみましょう」と説明しています.


医師の書くお悔みの手紙