もやもや病は、原始内頚動脈の進行性、閉塞性の動脈症である



Interventional Neuroradiology 9:39-45, 2003


といっても、何のことかはよく分かりません.これは少し解説が必要ですが、脳神経外科医にとっても少し難解です.人間の血管の(特に、動脈の)個体発生は、 系統発生に似た経過をとります.分かりやすく言うと、人間の脳動脈系の発達、つまり受精の瞬間から大人の脳動脈の形に進化して行く過程が、系統発生、つまり、魚類、 両生類、爬虫類、そして鳥類、哺乳類への進化(水中生活から地上生活へ)の過程に似ているということを言います.

発生の初期では、人間でも鰓(えら)の動脈の一部(6対ある鰓弓動脈branchial arteryの内、第3鰓弓動脈)から形成される原始内頚動脈primitive internal carotid arteryが発達しますが、本来は脊髄の動脈である椎骨動脈は発達しておらず、そのため重要な役割はありません.この原始内頚動脈が成人の内頚動脈に発達していく過程が、もやもや病での閉塞の進行のパターンに、時間的にも空間的にも非常に良く似ています.例を挙げますと:

1. 原始内頚動脈は、魚類でも単純なものが存在し、系統学的な進化とともに分化していく. → もやもや病では、閉塞性変化の始まりの中心は、内頚動脈の頭蓋内の末端である.

2. 原始内頚動脈が、脳動脈の形成に主に関与し、椎骨脳底動脈系の発達は、時期的に遅れる.椎骨脳底動脈系に属する後大脳動脈は、内頚動脈の枝である前脈絡叢動脈の一部が、進化の途中で椎骨脳底動脈系に移行される.→ もやもや病では、内頚動脈系に主に、閉塞性変化が起こるが、椎骨脳底動脈系にそのような 変化は、はじめは起こらない.遅れて起こる場合は、発生学的に内頚動脈の枝である後大脳動脈に起こる.また脳底動脈には閉塞性変化は来ない.

3. 原始内頚動脈は、後交通動脈を中心にして発生学的変化は、末梢に向けて分化が進行する.→ もやもや病では、内頚動脈末端を中心に閉塞性変化の始まり、そこから末梢に向けて変化が進行することが多い.

4. 脳動脈の発生の初期には、内頚動脈と椎骨脳底動脈系を短期間結ぶ原始三叉神経動脈、原始舌下神経動脈などが存在する. → もやもや病では、原始三叉神経動脈、原始舌下神経動脈などの遺残原始動脈の合併が多い.

何を言いたいかというと、もやもや病の病因論を論ずるときに、必ず後天性と先天性という話が出てきます.上記のような血管発生ともやもや病の進行の類似性を考えると、少なくとも遺伝子のレベルでもやもや病になる要因があり、それが実際に病気に発展するかどうかに関して、後天的な要素が関与しているであろうことが推測されます.


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