脳底部に異常血管網を示す疾患群をめぐって


1965年の8月号の「脳と神経」という脳神経外科,神経内科,精神科の医師向けの雑誌に「もやもや病」の特集が組まれています.おそらく.この特集がまとまった発表の最初のものと思います.





編集を担当した佐野圭司の「私見」に続いて8編の論文がまとめて載っています.

1.大脳基底核のTelangiectasiaについて. -私見- 佐野圭司 (東京大学医学部脳神経外科)

2.脳底部内頚動脈血管腫様奇形. 西本 詮,杉生了亮,万波徹也 (岡山大学医学部脳神経外科)

3.小児の急性反復性一過性片麻痺.特に脳底部網状血管像を呈した症例. 福山幸夫,鈴木義之,瀬川昌也 (東京大学医学部小児科)

4.内頚動脈・脳底部異常血管像を示した5症例についての考察.森安信雄,西尾 崇 (日本大学医学部第一外科)

5.脳底部内頚動脈血管腫奇形の剖検例について.牧 豊,中田義隆.(千葉大学医学部神経科)

6.日本人に多発する脳底部網状異常血管像を示す疾患群の検討.鈴木二郎、高久 晃、旭 方祺、古和田正悦.(東北大学脳疾患研究施設・脳神経外科、同医学部葛西外科)

7.多彩な側副血行を伴うウィリス環閉塞症.野村隆吉.(国立名古屋病院脳神経外科)

8.小児にみられた脳底部血管閉塞症.竹内一夫,小林 茂.(虎の門病院脳神経外科)

9.“頭蓋内に異常血管網をしめす症例群”についての私の考え方.工藤達之 (慶應義塾大学医学部外科,脳神経外科)


解説

佐野圭司のコメントでは,この病気は奇形説と側副血行説があるがどちらか分からないとしています.また,彼が最初にこの病気に気付いたのは1959年9月としています.この第1例は,23歳の男性で脳出血で発症したようでした.また,第2例の5歳の男児には,前頭部から試験開頭が行われ,病理標本がとられ,毛細血管の拡張(telangiectasia)を観察しています.

西本 詮らは,自験例3例を報告し,それまでに報告のあった類似症例21例と併せて,まとめを行っている:若年者・女性が多い.運動不全麻痺や意識障害が起こり,若年発症では,知能低下が多い.両側性内頚動脈サイフォン部狭窄,脳底異常血管網,前および中大脳動脈狭窄または閉塞である.彼らは,胎生期の胎長11-12mmの血管構造ともやもや病の血管構造が類似していること,若年者に多いこと,両側性であることから,この病気は先天性であると推察している(奇形説).もやもや血管の発達は,若年者の方が多く,成人になるほど発達が少ないことを観察・推察している.

福山幸夫らは,小児の片麻痺を起す疾患の中で,この症状が一過性で反復して現れる一群があることに気付き,第1例(1歳10ヶ月女児)を1961年に報告している.この症例を含め5症例の小児例を報告し,発作が強く泣いた時・あつい飲み物に息をかけて冷やすときに多いなどを観察している.

森安信雄らの症例は5例とも出血発症で,典型的な血管撮影所見に加えて,1例で動脈瘤の合併を報告しています.彼らも発生早期の血管構造との類似性に着目し,奇形説を唱えている.

牧 豊らは,剖検例の所見から,奇形説を唱えている.9歳の小児症例に対して脳底部の血管腫を疑い15グレイの放射線照射を行った.剖検では,硬膜下血腫,脳萎縮があり,前・中大脳動脈は閉塞していないが,その外径は,1.2-1.5mmで,内膜の肥厚が著明であった.中大脳動脈からは暗赤紫色の外径0.8mmの壁のきわめて薄い血管が多数分岐していた.これらの血管は静脈性血管にみえ,rete mirableを形成しているとしている.たくさんの血管があるにも関わらず,側副路として不十分であったのが不思議であるとしている.

鈴木二郎らは,「日本人に多い、若年に多い、女性に多い、家族(兄弟)発生がある 、脳虚血が多いが、脳出血、くも膜下出血もある、片麻痺、意識障害、言語障害、けいれん、不随運動、精神症状、知能障害などの症状を呈する、腎動脈に狭窄のある症例がある、 血液データにはあまり特徴的な所見がない、両側の頸動脈に狭窄、閉塞所見がある、いろいろな段階の異常血管網がある」といった臨床所見を報告している.彼らは,内頚動脈が何らかの原因で閉塞し,側副路が発達したものと考え(側副路説),その原因に炎症(特に扁桃腺炎)が多いと考えた.

野村隆吉は1956年に第1例を経験したとしている.血管撮影で,眼動脈からのethmoidal moyaや外頚動脈からの硬膜動脈からの側副路も観察している.彼は,胎生期を含めて幼若期にウィリス環の閉塞がきたため,側副路が発達したと考えた.

竹内一夫らも,内頚動脈サイフォン部の閉塞に伴う側副路として異常血管網が発達したと考えた.2例とも,頚動脈周囲交感神経叢剥離術を施行している.血管炎の関与も推定している.

工藤達之は,先天奇形説を否定し,二次的な側副路説を唱えた.彼の側副路形成のメカニズムについての推論はすばらしく,この疾患(もやもや病)に限らず,動脈硬化性内頚動脈閉塞でも異常血管網が同じメカニズムにより側副路として発達するとしている.これは,類もやもや病での観察に一致する.また,病態解明のために,詳細な血管撮影,繰り返しての血管撮影や病理標本の必要性を強調している.