もやもや病の予後




もやもや病の長期予後についての報告は多くはありません.虚血発症のもやもや病患者さんには、手術をした方が、しないよりも予後が良いと信じられていますが、手術群と非手術群をランダムに比較した報告はなく、その意味では手術した方が予後が良いというエビデンスはありません.そのような研究は、手術をした方が予後が良さそうなのに、非手術群を設けることの非倫理性があるからです.出血症例に関しては、手術群と非手術群での予後の差があまりなく(ないと信じられ)、科学的に証明すべく2群を設けて予後の違いについて現在、研究が行われています.


少し古い論文になりますが、小児もやもや病患者の長期予後についての報告についてまとめてみました.

Kurokawaらは小児もやもや病27例(11ヶ月から4歳11ヶ月)の非手術例の予後を検討しました.観察期間は、4年以内(13例)、5-9年(5例)、10-15年(9例)でした.11例が手術治療を受けましたが、その時点までの予後を検討しています.一過性の脳虚血発作は発症より4年間に多く認められ、その後は減少しました.知能の悪化や神経症状は、時間とともに増加しました.予後に男女の差はありませんでした.予後は、正常が5例(19%)、一過性脳虚血発作や頭痛が時々おこるのが9例(33%)、軽度の知的障害や運動障害が7例(26%)、青年期になり特殊学級や両親による介護や施設を必要としたのが3例(11%)、24時間の介護を必要とした2例(7%)でした.若年で発症したほど、また発症時に高血圧があると予後は不良でした.

福山らは、一過性脳虚血発作型の小児もやもや病患者さん19例(男性6人、女性15人、平均年齢22歳)の臨床経過と日常の活動性と神経学的所見を検討しました.平均観察期間16.5年で予後良好の患者さんは31.6%のみでした.非手術症例11例中、予後良好は3例(27.3%)で、手術例6例中4例(66.7%)に手術効果を認めたため、一過性脳虚血発作型の小児もやもや病の予後は必ずしも良好ではなく、症状の持続する場合は手術治療が有効であるとしました.


平成12年度の研究班の報告書に熊本県、岡山県、宮城県での長期追跡調査の報告がありましたのでまとめました.

森岡らは、54例(男性19、女性35)の長期追跡を報告した.発症年齢の平均は男性20.3歳、女性26.9歳、追跡期間は平均17.2年であり、初回発症時には、虚血発症の症例(33例)で軽度の障害、特に高次機能障害が見られる傾向にあった.長期経過中では、出血発症例(21例)において脳血管障害が70%以上の症例にみられ、中でも頭蓋内出血が高率に認められた.これに対し虚血発症例では経過中の発作は一過性脳虚血発作を除くと少なかった.中年で出血発症の場合、頭蓋内出血を高率で起こし、若年で発症した場合経過中の脳血管障害は少なかった.虚血発症例に対して血行再建術が31半球に行われ(直接吻合7、間接吻合24)、1半球(間接法)に5年後出血が見られ、一過性脳虚血発作が3半球でみられた.出血発症例に対し8半球(直接法2、間接法6)で血行再建術が行われ1半球(間接法)に2年後出血が認められた.モヤモヤ病の長期予後に最も影響をするのは経過中の出血であり、中年以降に出血で発症した症例が最も出血の可能性が高く予後が悪化しやすいと考えられた.

大本らは、88例(男性26例、女性62例、平均年齢19.2歳)の長期追跡(平均追跡期間21.2年)を報告した.男女比は1:2.3であり、出血発症22例、虚血発症58例(一過性脳虚血発作42例、脳梗塞16例)、痙攣発作・頭痛8例であった.54例(出血5例、虚血46例、他3例)が手術治療を受け、34例は保存的治療が行われた.一過性脳虚血発作を含まない再脳卒中が9例(8出血、1脳梗塞)におこった.虚血発症群で手術を受けた46例で再発作はなかったが、非手術の12例で、1例の出血、1例の脳梗塞がおこった(統計学的に有意差あり).出血発症で保存的治療をおこなった17例中5例に再出血がおこった.予後は手術治療群で良好な傾向にあったが、統計学的に有意差はなかった.

吉本らは、145例(男性58、女性87、平均年齢25.3歳)の長期追跡を報告した.85例が一過性脳虚血発作で、24例が脳梗塞、2例が痙攣で、1例が不随意運動で、33例が脳出血で発症した.33例の脳出血発症例の内、4例が初回出血で死亡した.残りの29例の内、6例が再出血し、4例が死亡した.112例の虚血発症例の内、10例(小児7例、成人3例)で再発作(一過性脳虚血発作を除く)がおこった.内訳は、脳出血2例、脳梗塞6例であった.再出血は中年で起こることが多かった.脳梗塞再発までの期間は平均3年であった.虚血例での血行再建術の脳梗塞再発予防効果は、手術群、非手術群と統計学的な有意差はなかった.


もやもや病患者さんの長期予後に関して、虚血発症例では、機能予後、生命予後は比較的良好のようです.また、出血発症例では、再出血により機能予後、生命予後ともに不良のようです.これらの報告から、必ずしも虚血発症の症例が血行再建術を受けているわけではないことと、また吉本らの報告では、血行再建術の有用性が統計学的に有意差がなかったとしているのは驚きでした.確かに、血行再建術が有用な症例が多いと思いますが、必ずしも全例に必要かは分からないような気がします.現在、出血発症例に対して血行再建術の有効性が検証されていますが、虚血発症例に対して、あたかも全例に血行再建術が有効であるように考えて良いものか、個人的には疑問に思っています.

出血発症のもやもや病の自然史

もやもや病は治癒しますか?