もやもや病の病名の由来について




1950年代に当時の数少ない脳神経外科施設から未知の病気についていろいろな病名が付けられて報告されていました.列挙すると以下のようになります.


両側頸動脈形成不全症 (竹内一夫)、ウィリス動脈輪不全症 (工藤達之)、脳底部網状異常血管像を呈する疾患群(鈴木二郎)、モヤモヤ病(鈴木二郎)、 脳底動脈内頸動脈血管腫様奇形 (西本 詮)、脳底部動脈の両側奇形性血管腫 (牧 豊)、Wilis動脈輪閉塞症 (工藤達之)、 脳底部異常血管網症 (西本 詮)、Cerebral juxta-basal telangiectasia (佐野圭司)、Cerebral arterial rete (半田 肇)

この他に、もやもや血管の血管撮影での所見からニックネームで,「あのモヤモヤ(した異常血管網をもった疾患)」とか「あのチリチリ(した異常血管網をもった疾患)」 とかとも呼ばれた時期があったそうです.

これらが,一般には,モヤモヤ病(東北大学の鈴木二郎による)と呼ばれ,正式にはWilis動脈輪閉塞症(慶応大学の工藤達之による)と呼ばれるようになるわけです.


さて,Willis動脈輪閉塞症のWillisですが,カタカナで書くと「ウィリス」とか「ウイリス」と書かれます.これは,麻疹,風疹やAIDSの原因であるウイルス, 英語で書くとVirusとは,もちろん関係はありません.


脳解剖学者のThomas Willis (1621-1675)の名前から取ったものです.このThomas Willisですが,イングランドのWiltshireに1621年に生まれ,オックスフォード大学で古典と医学を学び,同大学で1660−1665年まで自然哲学を教えています.1666年からロンドンに移り,内科医として開業をしました.彼は,1664年に脳の解剖書 "Anatomy of the brain, with a description of the nerves and their function" を出版していています.この中で,脳神経を9対に分類し,また脳底部の動脈について 詳しく記載しています.この脳底部の動脈のリング状の連続・吻合により一部に閉塞や狭窄があっての脳に対して確実に血液が供給できる構造になっていることを 報告しています.この動脈のリングは,正式には大脳動脈輪と呼ばれますが,一般にWillisの動脈輪と言われています. これ以外にも数多くの業績を残したWillisですが,もやもや病の正式病名に彼の名が残るとは本人も考えも及ばなかったと思います.


このページの内容は,西本 詮,後藤 昇の論文を参考にしました.