豚が飛んだら  ロビン・シスマン著 ソニー・マガジンズ \1600+税
ISBN4-7897-1683-X

 まずは主人公の名前に笑った。北欧神話の愛と美の女神、フレイアである。その彼女が、プロポーズされるとばかり思っていたディナーの席で、同棲していた恋人にいきなり振られるという手厳しい皮肉で物語が始まる。彼女は住む場所を失い、困って長年の男友達の家に転がり込む。男友達のジャックは売れない作家で女たらしで、主人公に一目置いている。かくして奇妙な「同棲」生活が始まる。
 主人公はカリカリに痩せた北欧系イギリス人、(もちろんテロ前の)ニューヨーク在住で画廊の仕事をするキャリアウーマンを絵に描いたような女だ。知的でエネルギッシュでプライドが高い。そして少々以上に辛辣である。一方、転がり込まれた男友達はといえば、のんべんだらりとスランプに苦しんでいる「一発屋」作家で、書評とエッセイと大学の文章講座で生計を立てている。二人は友だち以上の何ものでもない。と互いに信じている。…と書けばだいたい察しがつくことだろうが、この本のテーマのひとつは「男女間の友情は成り立つのか」という謎である。ありがちな話ではある。
 ただ、この物語をあり地獄、ちがーう、「ありがち」地獄から救っているのは、主人公フレイアのかわいくなさ加減である。男友達を容赦なく責めたて、勝手に尖りまくって家族その他の気配りを受けつけようとしない。仮にも愛と美の女神の名をもらっているのだから、もうちょっと愛嬌があってもバチはあたるまいと思うが、読みすすめるに連れてかわいげのなくなっていく主人公というのも珍しい。その性格が家庭環境に由来する歪みであるというのも非常に分かりやすくていい。事情が分かってみれば、あれほどかわいくない女も妙にいとおしく見えるから不思議だ。ニューヨークという街には突っ張った女がよく出てくる。そういうお土地柄なのだろうかと思う。
タイトル「豚が飛んだら」とは「そんなことはあるわけがない」という意味のスラングだそうだ。原題は「Just Friends」、ということは意訳すれば「豚が飛ぶようなことがあれば、キミとボクは恋人になれるだろうね」という意味で、どうやらこの本では豚は飛んだらしい。なんとなく釈然としないが、ハッピーエンドだから良しとしよう。
 実はこの本、『ブリジット・ジョーンズの日記』を読んでいたく気に入った嬢ちゃんが「こういう雰囲気の、ほかにない?」ときいてきたので、彼女にすすめるべく読んでみた本である。出版された時期も『ブリジット・ジョーンズ』の映画化が決まったころだし、この物語も映画化されるというし(後悔時期未定)、あからさまに「柳の下の二匹目のナントカ」なんだけども、まぁ細かいことは気にしない、ということで『ブリジット・ジョーンズ』がお気に召したかたにおすすめ。


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