カラフル 森絵都著
理論社刊 1500円+税

おめでとうございます、抽選に当たりました、と天使は言った。
そこは「あの世」と「この世」の間にあるところで、言われたのは死んだはずの「ぼく」の魂である。とりあえず自分が死んだことは自覚しているが、自分が誰でどんな死に方をしたのかを思い出すことができない。その「ぼく」に向かって、あなたは生前に過ちを犯した罪深い魂で、本来生まれ変わることができないのだけれど抽選に当たったから再挑戦するチャンスをあげましょう―と天使(しかも「プラプラ」などという、ふざけた名前の天使だ)が底意地の悪いことを言うところから物語が始まる。
チャンスというのは魂の修行なのだという。しばらくの間現世にとどまって誰かの身体にホームステイし、一定期間のうちに自分が生前犯した罪を自覚すること。そうすれば「ぼく」はまた生まれ変わることができるらしい。抽選をするのもステイ先を決めるのも天使のボス、つまり神様だ。辞退したりステイ先を変更することは許されない。何がなんだかよく分からないまま、「ぼく」は「小林真」になっていた。
ホームステイ先の身体の持ち主は、自殺した中学生だ。天使プラプラは「ガイド」と称して「ぼく」にくっついている。必要なときに現れては真についての情報を教えてくれる。それによると真の家族はいわゆる仮面家族でバラバラ、顔も成績もてんでさえないから友達もいない、おまけに初恋の女の子は援助交際をしていて…と、彼を取り巻く状況は思った以上に過酷だ(まぁ、そうでなければ「再挑戦」という意味がないかもしれない)。「ぼく」はその環境の中で魂の修行をすることになった。
 あまり楽しいと言えそうもない生活の中で、真のたったひとつの救いだったであろう「絵」の世界に、いつしか「ぼく」も心惹かれるようになる。魂は入れ替わっても真の身体が絵を描くことを記憶しているから、絵を描くことは苦痛でもなんでもなかった。積極的に魂の修行とやらをこなして新しく生まれ変わろうという気もあまりなく、どちらかというとのんべんだらりとステイしている「ぼく」は、だから絵だけを熱心に描き続ける。
最後にはたいしたどんでん返しが控えていたりもして、テンポ良くサラサラと読める物語だ。だがこの本の一番の魅力は多彩な登場人物たちだろう。たとえばガイドを務める天使プラプラは、天国にいるときと下界の「ぼく」のそばにいるときでは別人かと思うほど口が悪く、「ぼく」と夜毎花札で遊んだりもする。そのうさんくささには笑えてしまうし、また「天使家業もラクじゃない」と妙に同情してしまったりもする。
その天使を筆頭に、ぶっとんだ性格をした真の母親やら平気な顔で援助交際をするマゴギャルやら、まるで真の平凡さを際立たせようとでもしているかのように個性的な人物がよりどりみどりで揃っている。それでも、ちょっと気をつけて周囲を見渡せば「こんなような人がいるなぁ…」と思わされてしまうほどのリアリティがあるのは、丁寧に人物描写がなされているからだろう。
 物語のクライマックスで鮮やかに展開される、軽やかな人生論が爽やかな読後感を誘う。以前、真の目に真っ黒に見えていたであろう「この世」は、よくよく見ればいろんな色に満ちた−カラフルな世界なのだ、と「ぼく」の出した結論がタイトルの由来だ。長いように見える人生も、結局は魂のホームステイだよ、と「ぼく」にさとすプラプラの言葉で何かがふっきれる読者もいるかもしれない。
中学生が主人公の物語ですから中学生に読んで欲しい本ではあるが、中学生のお子さんを持つ親や、もと中学生だった大人にも読んでもらいたい一冊だ。

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