読者は踊る  齋藤美奈子著 文春文庫 \676+税
ISBN:4-16-765620-5

 個人的には待望の文庫化である。しかも各章末のコメントが書き足されて、さらにパワーアップしているのが嬉しい。
 サブタイトルには「タレント本から聖書まで」と銘打ってあり、いろいろ話題になったあの本やらこの本やらを齋藤美奈子が元気に斬りまくっている。取り上げられている本はざっと253冊、まずその勉強家ぶりに頭が下がる。
 『妊娠小説』『紅一点論』といった著作から「フェミニズム批評家」というレッテルを貼られることの多い齋藤美奈子だが(永江朗の『批評の事情』ではそのように断定されていた。批評家という人種は分類ラベルを貼って安心したがる傾向がある)、この本のようなフェミニズム色の薄い文章を読んでも口の悪さは相変わらずで魅力的である。書評の書き方にもいろいろあるとは思うが、これほどワルクチにあふれた書評本というのもちょっと珍しい。今まで「ベストセラーを読んでも面白くない」という不満を一度でも持ったことのある人ならば、膝を打ちたくなるような考察がてんこ盛りで小気味いいに違いない。
 しかし著者のワルクチは本(と、その著者)だけにとどまっていない。しばしば矛先はヘンな本の企画を通す出版社へ、そしてヘンな本をついうっかり買ってしまう私たち一般的な読者の方へと向く。なぜなら需要のないところに供給はありえないからだ。ベストセラーを作り出しているのは情報ではなく、いとも簡単に情報に踊らされる読者自身である。
 「私はごくごく一般的な、そんじょそこらの読者」で、「踊る読者」とは自分のことだと著者は言いきっている。踊っているという自覚をきっちり持って、率先して踊る姿勢は見ていて気分がいい。ただしこの人の場合は、世の中の人がのんびり盆踊りなど踊っている中でパラパラを、しかも倍速で踊り狂っているような過激さがある。やんやの喝采を送る人と、敬して遠ざける人の両極端な反応になるのは当然だろう。
 本文中には、芥川賞や直木賞のワルクチも出てくる。自社の賞についてここまで言われてもなお文庫化した、文藝春秋社にも拍手を送りたい。


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