ドミノ  恩田陸著  角川書店 \1400+税
ISBN4-04-873302-8

 その日、東京駅周辺では、あらゆる運命が収束しようとしていた。
 保険会社の部長は1億円の契約書を手に東京へ向かう電車に乗っていたが、その電車が事故でストップ。今月の締めまであと一時間しかなかった。
 その会社の女子社員は、大好きなお菓子を買うために八重洲口にやって来ていた。彼女は熱血柔少女だった。
 その会社の部長は、契約を取りにいった千葉県で、電車がストップして立ち往生してしまった。千葉は、そこの課の女性社員が昔「走って」いた界隈だった。
 女優志望の少女は、ミュージカルの端役オーディションに挑んでいた。まさかあの常連ライバルも同じオーディションを受けるとは思ってもみなかった。
 俳句が趣味の老人は、インターネットで知り合った仲間との「オフ会」のために長距離バスに乗って東京駅に来た。待ち合わせ場所がマイナーな場所だったために迷ってしまい、仲間への土産を入れた「どらや」の紙袋を手に右往左往していた。
 その俳句仲間たちはみんな警察OBだった。彼らはちっとも待ち合わせ場所に現れない俳句仲間を「捜索」するために動き出した。
 大学ミステリ連合の学生達は、幹事長を決めるために推理勝負をしていた。映画の結末当てでは決着がつかずに、ホテルの喫茶店で「人間観察」勝負をしていた。
 若い男は彼女と別れるための口実として、美人のいとこを連れて待ち合わせ場所であるそのホテルの喫茶店に入ろうとしていた。
 彼女は若い男に、別れ話へのささやかな仕返しをするために、変装したうえでホテルの喫茶店で待っていた。逃げる途中で着替えをするために、大きな「どらや」の紙袋を持っていた。
 学生達が観た映画の監督は、日本を舞台にした次回作のヒントを得るために内緒でペットを連れたまま東京に来ていた。同行していた配給会社の女は巫女さんでもあった。
 爆弾作りの男は職人気質で、みずからの作った爆弾を「作品」と称していた。彼が属する過激派グループは、その日東京駅を吹き飛ばすつもりで集結していた。彼はこの日のためにこつこつ作った自作の時限爆弾の試作品を「どらや」の紙袋に入れていた。と、ふとしたことからその爆弾を入れた袋が俳句老人の持つ紙袋と入れ替わってしまった。
 なにしろ主要登場人物だけで28人もいる大所帯である。まだまだいっぱいアクの強い人間(と、動物)が出てくるのだが、とても紹介しきれない。これらの人間があるところで関わり合い、別のところで別の人間たちが袖すりあいながら、同時多発的にいろいろな偶然が起こる。その偶然がまた別の偶然を呼び、物語は「大風が吹けば桶屋が儲かる」式に、どんどんあらぬ方へと転がっていく。ひとくちに言えばパニックものというのだろうが、場面展開がスピーディーでコミカルだ。なんとなく三谷幸喜の傑作パニックコメディ映画『ラヂオの時間』を彷彿とさせる。いいなぁ、こういうアホあほというか馬鹿馬鹿しい話は大好きだ。
 恩田陸といえば雰囲気だけで読ませるミステリものがなぜか人気なのだが(私はこの人が書く、その手の作品は苦手)、この本はちょっと一線を画している。『六番目の小夜子』や『光の帝国』などが好きな、正統派の恩田陸ファンは読まない方がいいかもしれない。それくらい雰囲気が違う。
 何も考えずにゲラゲラ笑いたいときにはおすすめだ。


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