どすこい(仮) 京極夏彦著 集英社刊 1900円+税
ISBN 4-08-774414-0
おデブさんである。いや、タイトルと、帯にぎっしり書かれた相撲の決まり手の名前を重ね合わせれば力士であることは明白である。それが妙に汗っぽい(ように描かれている)。何だこの暑苦しい表紙は。
帯には、この本に収められた短編の名が著者名とともに書かれている。京極夏彦名義のものは一作しかなく、あとは「南極夏彦」とか「京極夏場所」とか、ふざけたペンネームが揃っている。今までの京極夏彦のイメージとは確実に何かが違うが、手に持ったときに思わず手が震える、従って携帯にはきわめて不向きなあの厚みだけは今まで通りである。
各短編のタイトルはそれぞれ「四十七人の刺客」(池上彰一郎著)、「パラサイト・イヴ」(瀬名秀明著)、「すべてがFになる」(森博嗣著)、「リング/らせん」(鈴木光司)、「屍鬼」(小野不由美著)、「理由」(宮部みゆき著)、「ウロボロスの基礎論」(竹本健治著)のタイトルをもじっている。「リング」と「ウロボロス」はちょっと苦しいが、とにかくデブまたは相撲に関連させたいらしい。それぞれの章の扉にはタイトルを提供させられたもとの作品が紹介されていて、帯にもとの作品の著者が一言づつコメントを寄せている。鈴木光司のコメントがなんといっても一番怖く、且つまた笑える。
各章は(ペンネームをわざわざ変えているとおり)独立した短編である。とはいうものの、ストーリーらしいものは特にない。強いて言うなら「力士」「作家」「忠臣蔵」という三題噺でいくつか書いたんですといった雰囲気がある。だから題材の出し方もかなり苦しく、中には「力士型のきのこ」などというものが出てきて(美味しいらしい)人間に食われていたりもして、すこぶる怪しい。章によっては同じ人をモデルにしたとおぼしき「女性編集者」もまざって、なんだかドタバタ劇の様相を帯びている。それぞれオチもなんとなく決まっていて、…正直に言おう。ヘンである。第一作の著者が第二作の登場人物になる、という具合に、それぞれの短編は必ず繋がっていて(一作ごとにペンネームが違うのは、その趣向のためだろう)最終章で円環をなす。これがまたたいへんに強引なつながり方をしているのだが、妙に笑える。
タイトルが似ているからパロディーかといえばそうではない。では同じ内容の三題噺を文体だけ拝借したパスティーシュかといえばそうですらない。一部、設定を持ってきて換骨奪胎しているものもあるが、そこに上乗せする味付けがアホあほである。「ヤマなし、オチなし、イミなし」の三拍子揃った小説を同人誌用語で「やおい」と言うのだが、この短編集はどれも、まさしく、立派な「やおい」ばかりである(そこまで強調せんでも…)。いや、オチはあるのか、毎度同じ形で出てくるアホなのが。
「すべてはデブになる」の中に、何の脈絡もなく(しかも3カ所も)挿入されている、しりあがり寿によるマンガもなかなかに脱力感を誘う。そういえば小説という言葉は、もともと中国の「大説」(難しい政治の話)に対する「くだらないもの」の意味だったよなぁ、と思い出してしまった。
笑いのツボは私の好みに合わないが、それでも笑えるから許す。何となく脱力したいときにいいかもしれない。