源内万華鏡  清水義範著 講談社文庫 \553+税
ISBN4-06-273280-7

 タイトルからすぐに分かる通り平賀源内を追いかけた、小説とも評伝ともつかないヘンな本である。著者のこの手の本は、ほかに『春高楼の』(講談社文庫刊)や『尾張春風伝』(幻冬社文庫刊)などがあって、これらは皮肉も不条理もパスティーシュ(他の作家の文体を使って書く、清水義範の得意技)もない、ごく真面目な普通の歴史小説になっている。
 源内と言えばエレキテル、土用のうなぎ、戯作の親玉と、なんだか三題噺のお題のようないろいろのものをイメージする。それはひとえに私が平賀源内についてよく知らないからであり、私が想像したものは彼が示した才能の、ほんのひとかけら分のイメージにしかすぎない。この本にはもっといろいろな源内、本草学者だったりホラふきだったり山師だったり、タイトル通り万華鏡のようにさまざまな面を持った男の人生が語られる。
 著者の描く平賀源内は派手好きで器用、人付き合いもよくて人気者である。アイデアマンで突拍子もないことを言うが、言ったことを実行して損はしないだけの商才を持っている。そしてなによりも口がうまい。育つ環境が良かったから人としての道を誤らずに生きていけただけの話で、一歩間違えばタダの詐欺師で終わった可能性もある。それでも(これは源内自身がそうだったのか、著者の創作なのか判然としないが)「常に知識欲に燃えるマルチタレント学者」という設定にしてあるあたり、いかにもインテリ好きの清水義範が創りそうな人物に仕上がっている。
 しかし、惜しむらくは著者自身が、源内の八面六臂の活躍ぶりについて来られないようなのだ。評伝にしてはエピソードやキャラクターを作りすぎだし、小説としては個々のエピソードへの踏み込みが浅すぎる。地の文に著者がちょろちょろ出てくるのも、『尾張春風伝』のときは斬新で面白かったが、ここに来てややじゃまくさく感じる。「ヘンな本」と書いたのはそういう理由だ。
 この本を読んでいると、どうにも『面白くても理科』などの教科書啓蒙エッセイのような解説臭さを感じてしまう。しかも教科書エッセイの方は西原理恵子の「え」があって初めて読んでやるかという気にもなるのに、それすらないのでは、もう面白さについてはちょっと絶望的だ。
 「他の部分を切り捨てて、ここだけ膨らませれば、充分面白い話になるのに」と思わされる箇所がいくつもあって、なんだか読んでいてとっても口惜しい。オビにだまされて、痛快な奇人伝を期待するとヒドイ目にあう。源内その人に興味のある人以外は読んではいけない。


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