遺作集 花見川のハック 稲見一良著
角川文庫 \495+税 ISBN4-04-364101-X

タイトル通りの遺作集である。単行本は著者が亡くなった直後に出版された。他のどの作品よりも自己投影の色合いが濃い。さすがに著者自身も、死期が近いであろうことを意識していたと思わざるを得ない。
実は私は、単行本が出たときに一度この作品集を読んでいるのだが、そのときはあまりにも似通った作品が多いのが鼻について、この本の良さが理解できていなかった。稲見一良の魅力を理解するのは、それなりに人生経験を積んだ大人にしか無理なのかもしれないと思う。
稲見一良の作品を読むにあたって、作家本人についての予備知識があるかないかで、読者の受け止め方は大きく変わってくるに違いない。大阪生まれでテレビ番組制作などに関わってきた人で、肝臓ガンの宣告をうけた後に執筆活動に入った。主に鳥を獲物に狩猟をよくする。1994年にガンでお亡くなりになった。
ガンの摘出が不可能だと知ったあとでデビューした作家は、文字通り血肉はぎ取るように執筆していたのではないかと想像する。だからこの人の構築する物語世界はどれもこれも、著者の体験に基づいた、著者にとってなじみ深い世界であり、描かれる男たちはみんな著者自身である。たとえ舞台がアメリカの森であっても、登場人物がアウトローの殺し屋であっても。登場人物の一挙手一投足、どれをみても読者は彼らの後ろがわに著者本人の姿を透かし視るはずである。
 最後に収録されたわずか2ページの掌編「鳥」は、小説というよりは辞世の句と言った方がふさわしい。一読して涙する人もいるに違いない。


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