著者が「蚊學」に取りつかれる発端になった、三重県神島で起こった「深夜の蚊襲撃事件」の顛末に始まるこの本は、どこのページを開いても蚊蚊蚊蚊、蚊だらけで見事だ。いろいろな冒険家が語る「世界の蚊事情」や蚊の字のつく地名・人名・全国各地の蚊の呼び名を集めた「蚊データ」は、思わず勉強になってしまうほどの情報量である。川柳を思いきり曲解していく「蚊談会」は、いつもの「発作的座談会」のノリで抱腹絶倒。
しかし何と言っても圧巻なのは、椎名誠の短編小説「蚊」だろう。部屋の中はもちろんのこと、アパートを一歩出たら蚊が幕になっている、という状況は想像するとけっこうホラーだ。「蚊」は前に新潮文庫から出ていて読んだことがあるが、あれは短編集で、ここまで丸ごと一冊蚊だらけではなかったから、こんなに気持ち悪くはなかったな。水道をひねったら蚊入りの水が出てくるなんて読んでしまうと、給水塔のあるところで水道を使うのをためらってしまいそうだ。うむむ、そうすると私は職場で水を使えないではないか。どうしてくれるんだ椎名誠。
でも、虫が苦手な人は読まない方がいいと思う。蚊が好き、という人はたぶんいないだろうけど。