観光の哀しみ  酒井順子著  新潮社刊 1300円+税
ISBN4-10-398503-8

 観光という言葉と哀しみという言葉のミスマッチに一瞬たじろぐが、旅馴れた人ならひょっとしてタイトルを見ただけで思いあたるふしがあるのではないか。名だたる観光地であればあるほど、行ったときにふと感じる違和感を感じることがある。違和感と言って悪ければある種の怪しさ・胡散臭さと言ってもいい。そこを歩くオノレ自身がなんだかこっ恥ずかしくなってくる感覚は、哀しみと言われてみればなるほどと思う。
 著者が「哀しみ」を感じる場所は、温泉にハワイ、高原に美術館博物館、果てはラブホテルからアウトドアにおけるテント生活までと、非常にありがちかつバラエティに富んでいる。「桜」「紅葉」「大仏」「タワー」をまとめて「見上げもの」と括ったり(梅宮)アンナ旅と(沢木)耕太郎旅、などとカテゴリを作って対決させてみたり、著者の視点は微妙にヒネているというか不思議で面白い。
 また基本的に口が悪い、いや辛辣な人である。私自身も口が悪いつもりでいたのだが、この人には負けた。というか私ごときと比べては著者に失礼だ(褒め言葉である)。独特の視点と語り口でもって、著者は「観光される側」の怪しさ嘘っぽさと「観光する側」の虚しさ恥ずかしさの正体を次々とあばきたてていく。観光する場所・旅行の方法・旅行の相手と、その考察の方法は微に入り細をうがち、時に「それを言っちゃオシマイでしょ、アンタ」と突っ込みたくなるような率直さに満ちている。
 旅行好きな人であれば、読み進むうちにマゾヒスティックな共感を覚えるに違いない。

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