ナイフ 重松 清著 新潮社刊 1700円+税

 五つの短編が収められている。連作ではないのだが、一貫したテーマは「いじめ」と「家庭」。子どもの側から語られているのが3編と、父親の側から語っているのが2編で、語り口はどれも、おや、と思うほど淡々としている。ここに出てくる子どもたちは、自分が暴力を受けていることを親に言わない。あくまでも親の望む通りの子ども像を壊すまいとして踏ん張っている。親もまた、うすうす感づいていながらあえて踏み込むのをためらっている。この、ぎりぎりのところで保たれた絆が、ざらつくような読後感を誘う。
 でも、案外そんなもんだよ、という声が聞こえてきそうだ。集団から受ける暴力(殴る蹴る、というだけでなく、言葉や態度も含めて)を前にしたとき、人はあまりにも無力だ。当事者でない限り苦しみは解らないし、傍から差しのべようとする言葉も手も、まるきり見当違いで頼りないものかもしれない。被害者にしてみれば、こういった暴力は嵐のようなもので、過ぎ去るのを待つしかないものなのかもしれない。
 読者はここで無力さを痛感させられるはずだ。だからこそ、激することもなく「いじめ」の状況だけが語られていく文を見ていればきりきりと胸が痛むし、自分の無力さに打ちのめされながら、それでも何気なさそうに子どもに言葉をかける父ちゃんの台詞には涙が出そうになる。タイトルの「ナイフ」は、父親が子どもを守るために密かに買い求めた、おもちゃのようなナイフだが、全編通して見たとき、「いじめ」の象徴であるような印象も受けた。
普通に生活しているからといって、「いじめ」と無縁であるとは限らない。この短編集は、むしろ普通に生活している世のお父ちゃんたちにすすめたくなった。騙されたと思って、是非いちどお試しあれ。


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