昆虫探偵 シロコパκ(カッパ)氏の華麗なる推理
鳥飼否宇著 世界文化社刊 \1400 ISBN4-418-02503-0
ある朝、冴えない中年男はゴキブリになっていた。そんな不条理から物語は始まる。無類の昆虫好き、ミステリ好きという目立たない人生を送っていたのが、目がさめたときには人間でなくヤマトゴキブリになっていたという。突然のアクシデントに、しかし男は「どうせならクロゴキブリのほうが重量感があってイカしていたのに」とマニアックかつヘンな文句をたれている。
その時点ですでに怪しさ飽和状態なのだが、あくまでもそれは物語の始まり、単なる「前口上」にしかすぎない。ゴキブリになったもと人間は、昆虫界の私立探偵事務所で助手として働いている。探偵はクマバチのシロコパκ氏、遊び相手の刑事はクロオオアリのカンポノタス女史。カンポノタスは兵隊アリなので、やけに荒っぽい男言葉でしゃべる女性刑事という設定になっている。妙に昆虫の生態にすりあわせているところがこれまた怪しい。その彼らが殺虫(さつじんと読む)事件を解決する。
物語は連作短編集の態をなし、個々の短編はそれぞれ本格ミステリのパロディである。ゴキブリになった「もと人間」の探偵助手が「あっ、このパターンはいつか読んだ『○○』の…」と叫んで謎の解決に乗り出す。昆虫世界で繰り広げられるミステリの数々は、当然ながら虫虫虫、虫だらけである。「外骨格」と書いて「ひふ」と読む。「婦虫」と書いて「ふじん」と読む。「容疑虫」と書いて「ようぎしゃ」と読む。何気なく見ていれば読み飛ばしてしまえそうなのに、なまじふりがなを振ってあるだけにかえって五月蝿(うるさ)い。あるいはそういう目的でふりがなをつけているのかもしれないが。
サブタイトルにある「華麗な推理」とやらが、いちいちはずれて腰くだけな結末を迎えるところが、なんとも魅力的だ。「昆虫には怨恨やら嫉妬やらという下賎な感情など存在しないのだ」というような、虫の論理についていけないところもまたよろしい。動機らしい動機のないところに殺人事件が発生する余地はあるまい。そもそも昆虫界に「捕食の対象になる」やら「猫や人間につぶされる」という以外に不慮の死なんてものがあるのかとか、ツッコミどころ満載の、異色のパロディ小説である。
ちなみに、私が読みながら最も笑ったのは「前口上」の部分だったことだけ付け加えてご紹介しておく。