水の都の王女(上・下) J・グレゴリィ・キイズ著
ハヤカワFT文庫刊 660円+税×2

神住む森の勇者(上・下) J・グレゴリィ・キイズ著
ハヤカワFT文庫刊 740円+税×2

ファンタジーは苦手だ、と言いながら結構読んでしまうあたりがいかにも無節操でいい加減だが、これはいい。面白かった。
主人公その1のペルカルという少年は、多神教の世界に生きている。身のまわり、ありとあらゆるものに神が住んでいる。ある日、彼は「小川の女神」が「大河の神」に飲み込まれるのを知り、単純にも「大河の神」を殺そうとたくらむ。この世界では、人間と神がほぼ対等で、神を殺すという発想もさして珍しくはないようだ。
さて、このペルカルは、自分のたくらみのために大河の下流を目指す。下流には「大河の神」を唯一神とする王国があり、主人公その2のヘジという王女がいる。この王国では、王族が「大河の神」の生まれ変わりであるという信仰を持つ。ある日ヘジは「大河の神」の試練を受け、その結果神への生贄にされることになった。その運命から逃れるために、ヘジは古文書で「大河の神」の歴史を調べ、王国から逃げようとたくらむ。ヘジがペルカルと出会い、王国から逃げ出すまでが「水の都の王女」、それから彷徨の末にペルカルとヘジが「大河の神」を殺すまでが「神住む森の勇者」で語られる。
ヘジは知的好奇心に溢れる子供で、この王女に古代文字を教える教師が登場する。正式には王室図書館の司書をしており、本の管理や目録づくりをしている。ぶっきらぼうだが優しくて、けっこう食えない爺で、すっかり気に入ってしまった。この古代文字というのが表意文字で、単純な文字を組み合わせて別の意味の文字が作られるあたりは漢字そっくりである。ヘジが自分でそのことに気づくあたり、私自身が漢字を覚え始めた頃のことを思い出してしまった。王室図書館でヘジの知識が徐々に増え、ある日突然知識が繋がって謎に近づいていくあたりの場面はなかなかに見応えのあるヤマ場だ。それに比べると、主人公その1であるはずのペルカルがおばかで、おばかなのはいいけどちょっとカゲがうすくて感情移入しにくくて、困った。
物語には巧妙に伏線が張り巡らされ、途中で謎が解けたり、逆にとんでもない背負い投げを食らったりする。合計すれば4冊もあるのだが、長さを感じさせることなく読み手を引きつけてやまない。  著者は人類学の学者さんだそうだ。言われてみれば、ペルカルを中心とする多神教の部族の世界観は、「先住民」と呼ばれている少数民族のそれに似ている。これらの部族が一神教の部族から「蛮族」呼ばわりされているあたりも現実そっくりでリアリティがある。特に「神住む森の勇者」では、アイヌの熊送りの儀式「イオマンテ」に酷似した祭りが出てきて驚いた。  言語学・民俗学・民族学のどれかに興味のある人なら、なお楽しめるかもしれない。

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