ななつの子 加納朋子著
創元推理文庫刊 520円+税
創元推理文庫から出版されているのだからたぶんミステリーなのだろうが、死体も何も出てこない、爽やかな連作短編集である。
主人公は日本文学を専攻する女子短大生である。本が好きで絵を見るのが好きで、のびやかな感性を持っている。その主人公が何気なく立ち寄った書店で『ななつの子』という短編集を衝動買いしたところから物語は始まる。それは読む人の郷愁を誘うような雰囲気をまとったミステリータッチの小説らしい。主人公はその小説がいたく気に入って小説の作者に「勢いで」ファンレターを出した。作中小説の『ななつの子』が日常の中のささやかな謎解きが主題になっているためか、ファンレターの中には主人公がちょっと引っかかった謎を書き込んでいる。
そういったストーリーの流れ上、@主人公の日常生活Aその中で浮かんだ、ささやかな謎Bそれに関連して主人公が思い出した、作中小説『ななつの子』に納められている短編の紹介C(主人公が出会った謎を書き記した、主人公の手紙)Dそれに対する小説家の返事(主人公が提示した謎に対する解答)という複雑な構造の物語になっている。このうちCの部分が直接語られることはないけれども、小説家からの手紙は常に「拝復」と始まっている。
本文の中では殺人事件が起こるわけでもなく、主人公が引っかかる「謎」もたいへんささやかである。それは例えば植え込みの中をちょこちょこと動き回る謎のお婆さんだったり、例えば主人公自身がなくなっていることに気がつかなかった写真が、昔の同級生から郵送されてくるといった事件だったり、画廊でであった不審な男性と、不審な画廊のオーナーだったり、ちょっと漫然と暮らしていれば見落としそうな物事ばかりである。それらを見落とさない主人公の視線はいかにもみずみずしく、彼女の人生にはまだ「退屈」の文字はないのだろうと想像させるに充分である。そこへ作中の小説が柔らかく溶け込んでいるのがなんともこころにくい。
一見連作短編集なのだが、最後の七作目に至ってそれまでの物語が一気に収束し、物語中最大の謎が明らかにされる。とはいっても、これもたいへんに爽やかな謎であり、与えられる解答はいかにも初々しいラブ・ストーリーへとつながっていく。作者の手際が光る好著である。
どれも私好みの物語だが、作者自身の「人を見る視線」が窺われてほのぼのさせる「バス・ストップで」が特にいい。
「本のときどき通信」へ戻る
トップページへ戻る