最近の流行なのか、はたまた私が気づかなかっただけでいつの世もそうだったのか、「三国志」が大はやりである。本屋へ行くとすンげェ量の「三国志」本を見かける。それだけ売れる、ってことなのだと思うが、なんだか不思議な気もする。うちの生徒たちも好きですなぁ。ただ、こいつらの場合は、光栄のロングセラーゲームがきっかけのようだ。原作の「三国志演義」にけっこうきっちり準拠した内容なのだそうで、きっちり内容を知っていないとクリアできないらしい。
いや、きっかけなんか何でもいいんだ。そこから「三国志」の豊穣な世界へと踏み出していく高校生たちを、私はあたたかく(?)見守っていくつもりである。読んで、返してくれさえすれば私は文句は言わない。というわけで、就職してから2年半の間に、いろんな生徒から「三国志の本を入れてくれい!」と言われ続け、調子に乗って買い続けた「三国志」の数々を紹介してみることにする。
1.「正史 三国志」 (陳寿著:ちくま文庫刊・全12冊・揃12000円+税)
歴史書の「三国志」。あの、卑弥呼が出てくるのはこの本なんだけど、気がつく生徒はまずいない。その辺の連想が働けば、もうちょっと大学進学率も上がりそうな気がするが、まぁ、細かいことは気にしない。正史の常として、陳寿の筆は淡々としている。むしろあっちゃこっちゃに顔を出す、後世の裴さんが書いた「注」の方が断然面白い。
2.三国志演義 (羅漢中著:立間祥介訳:平凡社刊・5600円+税)
正史の中のいろんなエピソードから取捨選択して、蜀びいきに仕上げた講談。ここからいろんな小説が生まれ、京劇が生まれていった。訳者の立間さんは、この本を出したときに「勝手に話の筋を変えるな!」というお叱りの便りを山ほど受け取ったそうだ。「吉川英治の『三国志』と違う!」だそうだ。こっちの方が原作なんだけどな。中国文学者も大変だ。
3.三国志 (吉川英治著:講談社文庫刊・8冊)
日本人に「三国志」と言ったら、普通この本が思い浮かぶのではないだろうか(最近のコーコーセーたちはどうだか知らないけどね)。それほど有名な小説である。たぶん吉川英治の著作の中でも最高峰に位置する作品ではないかと、私は勝手に思っている。もちろん好みによるだろうけど。さっきもちょっと触れたが、中国で流布している「三国志演義」とこれでは、けっこうズレがある。かなり「演義」に忠実だけど、日本人好みにアレンジしてある、と言った方がいいか。だから、この本を忠実に中国語に訳しても、中国人にはウケないのではないかと思ったりする。
でも、吉川英治の描く女性は、どれも凛としてて、いい女が多いな。貂蝉にしても孫婦人にしても、好きだわー。時代の好みもあったのかもしれないが、作者本人の好みかもしれない。
4.秘本三国志 (陳舜臣著:文春文庫刊・6冊)
かなり特殊な「三国志」だ、という印象を受けた。「あとがき」にあった作者の狙い通り、というべきか。この本では、宗教家が狂言回しになっている。道教の一派「五斗米道」(「黄巾の乱」を起こした「太平道」とは別口)の教母とその弟子、それから当時やっと布教され始めた仏教を信じる西国人が、大陸のあちこちを神出鬼没に旅して歩く。彼らは自分たちの教団が生き延びるために、あちこちの英雄とお近づきになる。だから「演義」に出てくる事件の、あるものは噂として伝えられ、あるものは彼らが目撃したものとして出てくる。しかし、諸葛亮の晩年の「五丈原」の合戦が実は八百長だった、という設定にはのけぞったな。意外な、というかあこぎな、というか…。ははは。ただひとつ難癖を付けるとしたら、「三国志の世界に、横文字はあんまり似合わないよ」というぐらいかな。けっこう気になった。
5.柴錬三国志 英雄ここにあり・英雄生きるべきか死すべきか(柴田錬三郎 著:講談社文庫刊・「英雄ここにあり」3冊、「英雄生きるべきか〜」2冊)
タイトルの通り、英雄がわんさか出てくる。英雄ですからね、色も好む、というわけで、艶っぽい文章も多い。善玉と悪玉がはっきりと分かれて、武侠小説を読むような面白さも楽しめるのではないだろうか。道教の説明などはとても丁寧で分かりやすかった。赤壁の戦いなどは、その辺の知識がないと理解しにくいので、シロート読者としては嬉しい。誰もがそれなりに魅力的(董卓はちょっと…)だけれども、やっぱり一番力が入っているのは劉備、諸葛亮といった蜀漢組だ。そりゃもうアナタ、ほれぼれするぐらい魅力的に書いてあるんだから。劉備なんて、ほとんど神様みたいよ。頭もいいし(学問は苦手だったんじゃ…?)。武術も得意みたいだし。作者にとっての「英雄」とは諸葛亮だったと見えて、相当力が入っている。劉備の死後、とかくだれがちな話を文庫2冊の長さで、しかも緊迫感を失わずに書く(「英雄生きるべきか死すべきか」)手腕はさすがと思わされる。
6.反三国志 (周大荒著・渡辺精一訳:講談社文庫刊・2冊)
田中芳樹の「創竜伝」でこの著作を知った人も多いことだろう。翻訳のハードカバーが出たときに喜んで買った田中芳樹ファンは、私の友人だけではないはずだ。と思う。光栄から「超三国志」の名前で出版されている。地雷は出てくる(いつの話だ?)、司馬仲達は爆死しちゃう、劉禅は暗殺されちゃう、と、とにかく奇想天外な物語である。曹操にだまされて劉備のもとを去ったはずの徐庶が魏へ行かずに済む、という最初の場面からヘンな話だな、とは思っていたけど、どうかなぁ。いちいち史書や「演義」と違うから、全く別の話だと思って読んだ方がいいかもしれない。
7.大三國志 (志茂田景樹著:講談社文庫刊・2冊)
文章がヘタクソで読む気をそぐが、徹底して諸葛亮びいきの視点がほほえましさを誘う一冊。とはいえ「演義」の内容からそんなに離れているわけでもない。諸葛亮夫人の黄氏が、からくり機械の製造に携わっているところが目新しいと言えば言える。これにも地雷が出てくるけれど、「反三国志」に比べれば大人しいもんだ。割と「演義」に忠実に進んできたのに、最後になって諸葛亮が魏を滅ぼしてしまう、というのはやりすぎなんでないかい?と思ったりもした。
8.諸葛孔明 (陳舜臣著:中央公論社刊・1456円×2冊)
ようやく人間らしい諸葛亮に会えた、とホッとした。これも黄氏がからくりを作っているけど、そんなにハチャメチャじゃない。ここに出てくる諸葛亮は、あくまで生活人であって、大天才ではない。だからこそ、真の意味での平和を望むのであって、そんな彼のすすめる「天下三分の計」がとても説得力をもって迫ってくる。劉備の人物造形にも無理がない。
9. 趙雲 (大場惑著:光栄刊・4冊)
「放浪の子竜」、「天翔の騎士」、「江東の策士」、「覇望の入蜀」とそれぞれ題がついている。この人のファンだ、という蜀漢びいきも多いだろう。全登場人物のうちで、もっともおいしいところを持っていくのがこの人ではないだろうか。これはいわゆる「ヤング・アダルト物」と呼ばれる分野で、とにかくテンポよく進むことを旨とする。ちょっと趙雲を持ち上げすぎじゃないかな・・・
とは思うものの、まぁ、及第点かな。一連の光栄「三国志番外編」の中では一番よくできていると思う。ただし、実を言うと、2冊目の「天翔の騎士・趙雲」は未読。これだけ品切れで、いまだに手に入っていない。出版社は重版する気がないと言うし、生徒はせっつくし、で困っていたりもする。実際、劉備の子供を単身救い出した、いちばんおいしい場面が2冊目にある(と思われる)ので、お間抜けさんなことこの上ないのだが。
10.青竜の旅人 関羽 (菊池道人著:光栄刊・1456円+税)
これも「番外編」。関羽を竜の化身とし、それをもって彼が義に篤いことの説明としている。なんか怪しいが、この際細かいことは気にしない。若い、まだ張飛や劉備と知り合う以前の関羽の冒険談。
10.人中の鬼神 呂布 (中井紀夫著:光栄刊・1456円+税)
実は呂布は魔物に操られていたのでした。…と、これまた怪しげな一冊。まぁ、光栄だから無理ないか。吉川三国志でも「魔物に操られているに違いない」と評されている呂布ではあるけれども、だからって本当に魔物を出すとは、あまりといえばあまりな話ではある。魔物のせいにしてしまうのは簡単だ。問題は、魔物を住まわせるに至った心の動きであるような気も、する。
11.私説三国志 天の華・地の風 (江森備著:光風社出版刊・既刊6冊)
すみません、お耽美です…。えぇ、うちの図書館にはあるんだ、これが…。しかも、知ってて入れたんだ…。すみません…。たしかに「三国志」ってのは、野郎ばっかり出てくる物語だから、お耽美が出てきても全然不思議じゃない。不思議じゃないが、でもなぁ。「諸葛亮美貌説」ってのは、誰が言い出したんだろう。「真鉄(まがね)の剣がはじく月の光が、もし形になるとしたら、おそらくこの様になるだろう」などという描写が臆面もなく(当たり前か、お耽美だもんな…)出てきて、読んでる方が恥ずかしくなっちまった。でも、亮のお兄さんはすンげぇ顔が長くて、主人の孫権にからかわれていたとかいう伝説がある。兄弟でそんなに似ないはずはないし、そう考えると亮の顔だって分かるもんか、などと思うのだが。
12.白井版三国志遊戯 STOP劉備くん! (白井恵理子著:角川書店ASUKA
KOMICS刊 既刊3冊)
前述「天の華・地の風」のパロディ4コマ漫画。…というふれ込みで雑誌「小説JUNE」に連載していたはずが、いつの間にか「吉川三国志」のパロディにもなっている。お耽美は、この人の作風に合わないようだ。全登場人物が4頭身で出てきて、けっこう可愛い。全員どっかキレてて変だし、文句なしに笑えるバカ本(この「本」はボン、と濁ってお読み下さい)である。ただ、ギャグ漫画の常として、巻数を重ねるごとにぎこちなくなってきた。がんばれ、白井恵理子!私は密かに応援している。
13.三国志 (久保田千太郎作・園田光慶絵:講談社漫画文庫刊・10冊) えー…。何を言おうかな。「演義」に忠実か、といえばそうでもなく、だからって独自に世界があるか、といえばそうでもない。つかず離れず、といったところか。絵もあまりきれいとは言えないし、どこを褒めたらいいのやら…。コメントに困る一冊だった。
14.三国志 (横山光輝著:60冊)
20代前半の方々なら、高校の図書館でお目にかかっているかもしれない。吉川英治の「三国志」を、割と忠実に漫画化した大作である。学校図書館の経営なんて、紛失本をおそれていては何もできないのだが、こればっかりは冊数が冊数なだけに、受入も面倒そうだし、でもアッという間になくなりそうだし、というわけで、実は職場の図書館には入っていない。読み比べをする以上、避けて通るわけには行かなかったので、一応出してみた。
15.孔明死せず (伴野朗著:集英社文庫刊・680円+税)
これもまた、怪しいことこの上ない一冊。五丈原で死んだはずの諸葛亮は、実は鍼治療で病気を治していたらしい。鍼、というのが怪しすぎる。で、また例によって蜀による漢王家の復興がなされる。こういうのも「シミュレーション小説」って言うのかなぁ?私は、バカ本だと思うのだが。
16.諸葛孔明がゆく (榛葉英治著:歴思書院出版・かんき出版発売・1600円+税))
体裁は小説っぽいんだが…。史実に基づこうとしたにしては、諸葛亮がオバケみたいに何でも分かっているし、「演義」の通りか、といえばそうでもない。何を目指して書いたのかさっぱり分からない。怪書である。
17.赤壁の宴 (藤水名子著:講談社刊・1456円+税)
うわぁ、これもお耽美系だ。でも、プラトニックだし、周ユ(たびたび間抜けでごめんなさい、ATOK9に入っていないんです)の片思いだし、ということで、許そう。この本では、珍しく劉備が人間くさい。抜け目のなさそうな要注意人物になっていて、うむ、なるほど、と思わされた。作者は中国マニアで、若い人からウケがいい。結構骨太な物語を作る人だと思っていたが、こんなのも書くんだな。驚いた。
18.物語 三国志 (芦田孝昭著:社会思想社現代教養文庫刊・560円)
各本の原点「三国志演義」を手軽に読める本。かなり古いから、まだ書店で手に入るかどうか、ちょっと自信がない。だいたい教養文庫なんて、今まで大学内の書店でしか見かけたことがない。でも、平凡社のでかい本なんかいらない、という方にはいいんでないか、と…。頑張ってお探し下さい。
19.三国志 (寺島優原作・小島利明構成・李志清作画:スコラ漫画文庫シ リーズ刊)
どういういきさつで出版されているのかてんで分からない、という点では怪書かもしれない。いわゆる劇画で、今までご紹介にあがったコミック版「三国志」とは絵の雰囲気が違う。これも買う気は最初からなくて生徒から借りて読んだだけ。パッと読んだ限りでは、「演義」と大差ない気がした。ごちゃごちゃ人の手が入っているから、何か違うかもしれないんだけど。
20.蒼天航路(李學仁原作・王欣太漫画・講談社モーニングKC刊既刊13冊)
これはかなり曹操びいきの一冊。する事がハチャハチャだけど、彼自身の中で筋が通っているから気分がいい。美男だし。劉備も「実際こんなもんだったろうな」と思うぐらいには怠け者で怪しくて、いい。野郎ばかり出てくる「三国志」は、よっぽど描き分けをしっかりしないと、読み手がウチの生徒程度だと「この人はどうしてこんなに態度をコロコロ変えるんだろう(曹操と劉備の区別が付いていない)」などと言われてしまうことになる。これは、その辺も合格。登場人物それぞれが、色々なことを考えている様子がよくわかる。図書館に入れる予定は、いまのところ、ないけど…。どうでもいいけど、この曹操が大槻ケンヂに似てるな、と思ったのは私だけ?
21.龍狼伝 (山原義人著:講談社マガジンKC刊)
生徒に借りただけだからなぁ…。今、何冊目まで出てんだろ(興味のなさを如実に示す)。「三国志」はオトナの男の話だと思っていたのに、中学生なんか放り込んで大丈夫?とトホホな一冊。タイムスリップで物語が始まる。中学生が軍師になっちゃったり、幻術を使っちゃったり、おーい、ついていけんぞー。道教でも幻術は出てくるから、幻術そのものを眉唾とは思わないけれども、どうかなぁ。私には、ちょっと…。
22.新釈 三国志 上・下 (童門冬二著:日本経済新聞社刊・1456円 +税×2冊)
コミックばかり続いたから、そろそろ普通の本に戻ろう。でもワルクチは言うぞ。これは、ねぇ…。要するに、「演義」のスジを、古今の歴史事件や現代の人物像を引き合いに出して解説しようと試みた本。だと、解釈した。いかにも文芸書です、という装幀と「新釈」の文言に騙されてしまった。ぜーんぜん目新しいことも書いていないし、引き合いに出してある事件・人物も「ちょっと違うんでない?」と思うものが多い。童門冬二、というあたりで気がつけばよかった。大はずれ本だ。
23.覇道三国志 曹操の壮心やまず (雑喉潤著:東京書籍刊・1553円 +税)
日本人に「三国志に出てくる人で、一番好きなのは誰?」ときくと、だいたい諸葛亮か曹操か、に分かれるんだそうだ。この人は朝日新聞の記者だったそうだが、大学の専攻で中国文学をしていたとかで、この手の本をたまに書いている。これは徹底して曹操びいきの評伝。少し創作も入っているような気がする。「まぁ、こんなもんかな」という程度の一冊。
24.眞説 三国志 (坂口和澄著:小学館刊・2700円+税)
およそ「真説」「新釈」「新説」と名乗る本は、ほとんどが眉唾なんであって(私だって学習はする)、あまり真剣に見ないけれど、これはうれしい期待外れ本だった。正史「三国志」と講談「三国志演義」の間に横たわる溝を埋めよう、という意図で書かれた列伝である。国別、エラい順で分かりやすいし、これはちょっといい。
25.歴史スクープ 三国志新聞 (三国志新聞編纂委員会編:日本文芸社刊 1262円+税)
出版された当時は、あちこちの学校図書館で「なんじゃ、こりゃ!」と騒ぎになった(本当だよ)。正史「三国志」を新聞仕立てにしよう、というけっこう乱暴な本だが、面白いから許す。見開き1ページで4〜5エピソードを紹介している。見出しの立て方はどっちかというとスポーツ新聞風だが、コーナー名はいかにも新聞ぽくて笑いを誘う。4コマ漫画はちょっといただけないが、ところどころにある広告も楽しい。マニアにはウケること間違いない。
26.SF三国志 (石川英輔著:講談社文庫刊・583円+税)
タイトルと表紙の絵を見て、「わっ、バカ本だ!」と思ったのだが、けっこういける。SFの道具はごちゃごちゃ出てくるのに、きっちり「演義」の世界が描かれている。あるいは逆か?「演義」の世界を宇宙空間に移している上、きっちりSFになっている、というべきか。SFにはくらくて、よく分からないからこんな言い方しかできない。「演義」でいう、「赤壁の戦い」までを翻案してある。得難い本と言えば、言える。
27.三国幻獣演義 (秋月達郎著:ASPECT刊・1100円×既刊3冊)
麒麟だとか青龍、白虎といった伝説上の獣が、いろいろ、ごちゃごちゃ出てきて、なんとも怪しい。でも、女武者がたくさん出てくるから華やかだ。いまのところ、話の筋が大幅に脱線してはいなさそうなのだが、なにしろ幻獣だからねぇ。ある程度まで脱線しては、遠回りして「演義」の進み方に戻る、ということを繰り返しているように見える。これからどうなるだろうな。楽しみではある。
28.興亡三国志 (三好徹著:集英社刊・1600円+税×5冊)
雑誌「ビジネスジャンプ」に連載されていた小説である。「曹操を中心に