夢色の大通りで  今江祥智著   理論社刊 1600円+税

 著者は児童文学界の大御所である(もういいジジィだもんなぁ)。大人が、子どもが、男が女がという「立場」を存分に活かして、自在に物語を構築していくのを得意とする作家だ。例えば女の子だったはずの語り手が、物語の途中からいつのまにやら男の子に変身してしまったり、その男の子を見つめる保護者役の中年男性の視点がさらりと書き込まれていく、というくらいの芸当は平気でする。人は個性によってでなく、立場によっていろいろと「視点」を持つものなのだと実感してしまう。この人の本が、立場を越えて大人にも子どもにも読まれ得るのは、そのあたりが秘密かも知れない。
 こうやって文字にしてしまうと、ものすごく難解な物語を書いている人のように見えるが、実際に読んでみれば、随所にちりばめられた擬音語・擬態語のたぐいや色彩感覚に溢れた文章はいかにもみずみずしくて美しい。生粋の関西人ということもあって、関西弁をフルに活用したせりふまわしも(この人が翻訳する絵本も、頑として関西弁だ)、物語からいらざる緊張感をとりのぞくのに役立っているようだ。方言にも敏感で、それぞれ舞台になる土地の方言をおろそかにせずにしっかり書いてくれるのがうれしい。私は子どもの頃、大阪弁と京都弁の違いをこの人の本で学習した。
この本はもう何年かぶりの著作になる。理論社などという、子どもの本の専門出版社から出ているから児童文学に分類されてしまうけれども、初出が「飛ぶ教室」という教育・児童書籍関連の雑誌(今は休刊)だから明らかに年輩の方を対象にして書いた短編集である。軽やかで小粋な物語がウリの人なのに、ここ数年元気がなくて、出す本出す本なんだか書き手の息切れを如実に感じるものばかりだったのだが(トシかいな)、久しぶりにいいものを出したな、と思った。適度に力の抜けた好著である。
 全部で16篇の物語が収められているが、一貫して出てくるのは生と死である。キーワードというよりはどちらかというと主人公に近い。何かのミュージカルのように「死」そのものを擬人化しているわけではもちろんない。が、登場人物の死に様を通して人生がはっきりと見えたり、生きっぷりを描くことによって裏側に透けて見える「死」が見えてきたりと、いちいちが芸の細かい短編集である。中には「えっ、これで終わりかよ!」と叫びたくなるような理不尽さを覚える作品もあるにはあるが、生も死も理不尽さに満ちたものであるからには、うむ、これもまたあり得る話、と頷かされてしまう。なんだか作者の掌の上で遊ばされているような感覚も味わえる。
どれもいい話揃いだが、中でもルイ・アラゴン、イヴ・モンタン、ポール・エリュアールをそれぞれ主人公に据えた3篇は、作者自身が数十年来好きで集めたり追いかけたりした人物を物語化したとあって、他の章とは気合いの入り具合がちょっと違う。ただただ圧倒された逸品だった。私としては、素敵なご夫婦の話「うちの人」や、実在の弁護士さんをモデルにした「小さな弁護士さんの話」がお気に入りだ。
全篇を通じて、絵画的な魅力に溢れる一冊である。


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