世界の医薬品市場・OTC薬市場の規模については、統計の取り方・集計方法によって数値が 異なり、一般に公表されている資料は殆どありませんが、2002年9月にIMSが発表し,業界紙が 報道した数値によると1)、2001年の世界医薬品売上高は,47.6兆円で対前年比+11.9%の伸び、 そして、主要地域のシェアは、北米49.9%、EU24.2%、日本13.1%となっています(表1)。 10数年前には、日米欧3極構造と言われていましたが、その頃と全く様変わりしています。 EUはダウンしたとは言え,程々にシェアを維持していますが、このところ日本の地盤沈下が著 しく,成長力低下で失速しています。その一方で、米国が自由薬価による処方箋薬市場の著し い伸びにより、医薬品市場でも米国が一人勝ちとなり、世界の医薬品市場の約50%を寡占する に至っています。![]()
そして、世界のOTC薬市場については、Nicholas Hallが,2001年に世界全体で498億ドル, 対前年比2.6%成長と報告しています2)。しかし, OTC薬の定義・範囲が各国で異なることから、 正確な統計数値は得難い状況です。そこで、いくつかの情報から類推すると、欧州における 処方・非処方兼用薬の非処方分も含めた非処方箋薬としては、2001年時点で約5.8兆円、非処 方箋薬のみの大衆薬は、約4.9兆円ぐらいではないかと推定されます。 この数値を基にして世界のOTC薬比率を算出すると、非処方箋薬としては約12%、大衆薬と しては約10%になります。 過去においてOTC薬比率は、セルフメディケーションの盛んな米国では,25〜30%、欧州各国 は国により異なりますが20%前後、日本は15%前後と言われていました。それが米国処方箋薬 の著しい伸びにより、OTC薬市場は全体として伸びてはいるものの相対的にシェアダウンした 結果になっています。 我が国のOTC薬比率は、世界の趨勢と同様に落ち込んではいるものの、医療費抑制で医療用 医薬品の伸びが抑えられたため、欧米諸国程に顕著な低下にはなっていません。それ故、以 前は先進諸国に比べて低いと言われていた我が国のOTC薬比率は、2001年時点では12%で、世界 とほぼ同じレベルになっています。
我が国の医薬品生産額については、厚生労働省が、毎年,薬事工業生産動態統計年報を発表 しています。2001年の医薬品生産金額の合計は6.5兆円、うち医療用医薬品が5.7兆円で,シェ ア88.1%を占め、その他の医薬品(一般用医薬品+配置用医薬品)は、7,754億円で,11.9%と なっています。 日本のOTC薬比率は、数年前までは15%前後でしたが、1999年3月にドリンク剤等15製品群が 医薬品から医薬部外品へ移行したこと、並びに1998年以降,一般用医薬品が過去4年間連続し てマイナス成長に陥ったのに対し,医療用医薬品は伸びたことの2つの理由により、約12%に なっています。 このOTC薬比率の歴史的推移を調べると、表2に示すようになります。 旧薬事法では、医療用医薬品と一般用医薬品の区別はなく、OTC薬比率のデータがありませ ん。1961年施行の新薬事法で「医療用医薬品」と「その他の医薬品」に分類され、1965年か ら現行方式で薬事工業生産動態統計が集計されるようになりました。 従って、1965年以前のOTC薬比率は不明ですが、断片的情報を勘案して類推すると、1961年 の国民皆保険実施の前後は、50%を境に変動していた模様です。そして、国民皆保険の実現に より、医療用医薬品の伸びが著しくなり、OTC薬比率は,その後ほぼ一貫して低下傾向を辿っ てきている惨状にあります。
OTC薬を取り巻く社会環境変化の全体像は、図2のようになると考えられます。 我が国は、明治維新以来、欧米にキャッチアップすべく営々と努力し、高度成長時代に世界 のフロントランナーの一員としての立場を築きあげるまでになりました。しかし、東西冷戦後 の世界は、米国の市場原理主義がグローバルスタンダードとなって世界を席巻し、この競争ル ールの変更に我が国は対応遅れとなり、不良債権が累積し、構造不況・長期不況に陥って、未 だ出口が見えない閉塞状態が続いています。加えて、我が国の強みであった筈の国際競争力が, その低下顕在化と言う深刻な事態になっています。 そうした状況にあって、政府は日本再生に向けて、科学技術戦略・知的財産戦略を策定し、 産業再生・バイオ立国を提唱し、ライフサイエンスを重要戦略産業の一つと捉えるようになっ てきました。医薬品産業は、21世紀における我が国の数少ない,前途に希望の持てる戦略産業、 更に中核産業の一つと期待されるようになり、医薬品産業の一翼を担うセルフメディケーショ ンについても、産業政策・雇用対策の一環として、その振興が図られようとしています。 その一方で、産業革命以降の人類の経済活動の活発化は、世界各地で深刻な環境破壊を誘発 し、地球環境の危機は、私達の生活基盤そのものの存続を危うくしかねない状況が迫っていま す。更に、先進各国に共通する高齢化・少子化の問題は、医療費増蒿と年金負担増大を惹起し、 各国の財政運営をより一層困難にしてきています。![]()
OTC薬が今後とも存続し、適正な社会的役割を果たして行くためには、前記のような様々な 社会環境変化に適切に対応して行く必要があると思います。 そして、日本の医学・薬学は、ドイツを範として近代化の道を歩んだため、医薬品のルール は基本的に欧州型となっており、これに漢方薬・配置薬等の伝統薬が加味され、先人の知恵と 努力の結晶としての我が国OTC薬が存在しています。 現在、米国のグローバルスタンダードにより、OTC薬についても国際化時代が到来し、激し く変化する時代の変革期にあります。時代対応として、我が国の経済社会を国際的に開かれた ものにし、競争力を強化するために、規制改革・構造改革は避けて通れない課題となっていま す。 しかし、その推進に当たっては、米国に合わせることが必ずしも国際的ハーモナイズに合致 する訳ではなく、広く世界を見て、我が国の文化と伝統を尊重しながら、日本の医療における OTC薬のあり方とその果たすべき役割、そしてセルフメディケーションのあるべき姿の視点で、 多くの国民の皆様が納得する方向が指向されるべきものと考えます。 最近のセルフメディケーションへの流れを、より強い潮流として行くには、過去の経緯を踏 まえた歴史認識に基づき、国民の皆様の健康維持・向上のために、セルフメディケーションの 利点を実現するためのビジョンと戦略が必要であると思われます。 即ち、セルフメディケーションの推進に関し、生活者メリットを実現し、今後に明るい展望 を拓くためには、OTC新領域展開と新医薬部外品拡大のカテゴリー創生が、そのポイントであり、 行政・関係団体・関係企業は、そのための真摯な努力を傾注して行くことが肝要であると考え ます。引用資料 1) 日刊薬業:2002.9.30 2) Nicholas Hall:OTCNEWS, No.160, 149-152, 2002