OTC事業の今後の展開と業界動向予測

 ひと頃、保険医療の公定薬価に支えられて我が世の春を謳歌していた製薬業界は、国家財政逼迫のあおりを受けた医療費削減で薬価引下、合わせて新薬開発コストの高騰、国際製薬外資の日本市場への本格参入で、事業環境は一転して厳しい状況に変化してしまいました。
 それに伴い、多くの会社が共存共栄していた製薬業界も、他の主要業種と同様に各社が生き残りをかけて再編が進む流れとなり、OTC事業はその余波をモロに受ける状況に至っています。そこで、我が国のOTC事業環境が今後どうなるか、業界地図がどう変わるか、主要各社がどう対応するか予測してみました。

1. 日本のOTC事業の盛衰に影響する要因

 OTCの上市には国の許認可が必要なため、その事業展開には許可権限を有する行政の動向に左右されるところがあります。そこに外国(特に米国)や業界団体からの働きかけがあり、事業の盛衰には、個々の企業の個別努力とは別に下記のような外的要因が大きく影響します。

1.1. 厚生労働省
 バブル経済崩壊後、国の財政赤字が深刻化し、その中で大きな割合を占める医療費が削減のターゲットになり、医療保険の薬価に支えられて業績を拡大してきた新薬メーカーに牽引されて好調に推移してきた医薬品業界は、一転して前途に暗雲が漂う事業環境になりました。
 医療・医薬品行政を担う厚生労働省は、医療費削減が至上命題となり、21世紀の我が国の主要産業の一つとして医薬品産業育成・新薬開発は支援するものの、薬価抑制・セルフメディケーション推進で保険医療への国家支出を極力減らそうとしています。但し、セルフメディケーション推進の一環としてRx(医療用薬)をOTC(一般用薬)に転用(スイッチOTC)するに際しては、安全性を担保できるか否かが争点となり、安全性上の問題発生が少ない外用剤に関しては進んでいますが、内用剤については遅々として進展が見られない状況が続いています。
 厚生労働省の重要な政策決定には、米国と医師会の意向が強く作用するのが常であり、それに比べてOTC関連の業界団体である大衆薬協会・薬剤師会等の影響力は極めて弱いのが実情です。

1.2. 米国
 自国のルールをグローバルスタンダードとして世界各国に規制緩和を迫る米国の強い圧力は、医薬品分野にも及んでいます。米国は医薬品産業を自国の得意分野・有望産業と位置づけ、国際製薬資本を後押しするスタンスであり、先に食薬区分の撤廃要求、更に新薬審査期間の短縮等に関して日本政府へ圧力をかけてきました。
 米国ではRxは自由薬価なので、特許期間を過ぎると安価なゼネリック(後発品)が一斉に出回り、先発新薬のRxの売上は一挙に激減するので、国際製薬外資はその延命策としてスイッチOTC化して売上減を補填する意向が働きます。それを米国市場に限定せず、世界市場に拡大する世界戦略として日本にスイッチOTCを持ち込む動きになります。

1.3. 医師会
 日本医師会は開業医の団体であり、Rx vs OTC で考えた場合、スイッチOTCは受診患者数減少の誘因となる恐れがあるので、心情的・基本的にスイッチOTCに抵抗する立場にあります。一昔前の武見体制の頃より弱体化しているとは言え、潤沢な資金を有する医師会の政治力は、特に厚生労働省に強い影響力があり、スイッチOTCが進まない最大の要因になっています。
 セルフメディケーション推進に関しても、診断は医師の専業領域であり、素人判断は危険として、その拡大に非協力的な姿勢です。

1.4. 製薬企業の業界団体
 医薬品を製造販売している製薬企業の中で、業界団体として指導的立場にあるのは新薬系大手製薬企業の集まりである製薬協(日本製薬工業協会)です。その収益源がRxであるが故に、Rx vs OTC への対応に際しては、基本的に医師会と同様なスタンスになります。
 OTCメーカーの集まりである大衆薬協(日本大衆薬工業協会)もありますが、大手企業のOTC事業はその殆どがRxの傍系であり、発言力が弱く、OTC振興はお題目に止まり、業界団体として本来の機能を発揮し得ていない実態にあるように思われます。

1.5. OTC国際化
 Rxはハーモナイゼーションが進展し、新薬許可基準の国際的スタンダードが出来上がり、日米欧3極の世界同時発売も可能になって、既に世界的ブランドも確立しています。一方、OTCはハーモナイゼーションの動きは未だ緒に付いたばかりで、各国の法規制がバラバラで、各国毎のローカルな市場となっています。成分・処方・伝統薬など、各国間の差異が大きく、国際基準が未整備な段階です。
 日本のOTCの特徴は、漢方薬の伝統に基づき、配合剤が多く、用量は少な目にして多剤配合により副作用発現抑制・幅広い効能の対症療法型の考え方による処方が売上上位品目となっています。これに対し、欧米のOTCは単味剤が多く、高用量・効能一点集中の原因療法型の考え方に基づく処方が売上上位品目になっており、日本と欧米では大きな差があります。
 更に、日本のスイッチOTC許可に際して、厚生労働省は安全性重視の立場から、また医師会がRxと同じ用量に反対するので、その意向を尊重して減量することが多く、有効性が低下してしまいます。今後、国際製薬外資が日本市場でのOTC戦略に本腰を入れるに伴って、OTC基準の国際化が重要なテーマに浮上するのではないかと考えられます。

 以上、日本のOTC市場に影響する主な諸要因を列記しましたが、今後のOTCを考えた場合に有望な期待できる領域は、既存のOTCの治療領域を拡げるRx転用のスイッチOTCと、生活者の健康の維持・増進を図る保健薬の二つであると考えられます。
 セルフメディケーションの推進には、上記の二領域が含まれ、前者は外資とそれを後押しする米国の動き如何ですが、医師会・製薬協の抵抗で速やかな進展は期待薄のような気がします。
 一方、後者に関しては、先の米国圧力によるdietary supplementの国内受け皿作りに際し、筆者は我が国薬事法に照らして医薬部外品を活用して医薬品領域への取り込みを提言しましたが、食品業界から猛烈な反発を受け、大衆薬協内でも新薬系メーカーを中心に足を引っ張られ、挙げ句の果ては多数派工作をして“和を乱す協調性のない変人”との讒言を所属企業までもが真に受け、業界内で失脚させられたという苦い想い出があります。
 この問題はその後、米国圧力と食品業界の戦略勝ちで、食品機能の拡大となり、特定保健用食品の伸びが著しく、健康志向に基づく保健薬の成長分野が、本来のOTCから食品の方へシフトしてしまった姿になっています。とかく物事は正論が通るとは限らず、世の中は理屈通りには行かないものです。

2. 主要企業のOTC事業の位置づけ

 OTC事業に限らず、会社を売買して儲けるハゲタカファンドは例外として、いずれの業種でも会社は採算が合えば事業を継続し、出来得れば拡大しようと考えているのが常です。事業環境が悪化して収益低下、赤字転落、持続困難予測など、厳しい状況に至って初めてM&Aが現実のものとなってきます。従前、他業種に比べて収益力が高く、恵まれた事業環境にあった製薬業界は、他業種からは垂涎の的であり、参入はあっても、既存各社にとって合併・売却などは全く無縁だったと思います。
 それが一転して、事業環境が厳しさを増す共に、合従連衡、M&Aが横行する現在の状況に至っています。その中で主要各社がOTC事業展開をどう考えているか、業界地図がどう変わるか、業態別に分析を試みました。

2.1. 製薬企業
 OTCを製造販売する内資系製薬会社には、その歴史・発展の経緯・販路から、大別して直販系・家庭薬系・新薬系の3つがあり、他にRx・OTC折衷型もあります。

2.1.1. 直販系
 メーカーが卸を経由せずに、直接小売店へOTCを販売する事業形態であり、大正・エスエス・佐藤が主要3社で、他にゼリア新薬・全薬工業・常磐薬品などがあります。但し、各社ともRxを扱う場合は、直販でなく卸経由で販売しています。
 直販系はOTCが事業主体であり、生命線であるOTCを拡大・生き残りが基本戦略となります。従って、OTC事業の売却は想定外であり、スイッチOTCに配合する品目導入に積極的であり、買収意欲も旺盛です。特に国内OTCトップの大正は、そのポジション確保・強化のため、寡占体制狙いで買収チャンスがあれば意欲的に対応すると考えられます。なお、直販系でも小規模企業の場合は、次の家庭薬系と同じくニッチェ戦略で生き残りを図ると想定されます。

2.1.2. 家庭薬系
 各社とも殆どOTC専業であり、OTCを卸経由で販売しています。代表的企業がロートであり、太田胃散・大幸薬品・龍角散・宇津救命丸など多くの会社があります。ツムラもここに属しますが、現在はRx漢方が収益の柱になり、実態はRx・OTC折衷型にシフトしています。
 家庭薬系も直販系と同じくOTCが事業主体ですので、拡大・生き残り路線であり、採算ラインと言われる売上500億円を超えたロートは、買収にも積極的に動くと予測されます。ロート以外の各社はそれぞれの特長を生かしたニッチェ戦略で生き残りを図ると考えられます。

2.1.3. 新薬系
 新薬を開発し、卸経由で販売する新薬系大手は、ここ数年で再編が進み、Rx市場は武田・第一三共・アステラスの3極体制に変貌しました。各社ともRxが事業主体であり、OTCは傍系であるため、過去において事業環境が厳しくなるに伴って赤字部門のOTCは、統合時に切り離して子会社化、又は他社に営業譲渡で売却で、本業に集中するスリム化が図られてきています。
 新薬系各社にとって、Rxは生活者との接点がないので、OTC事業は自社をPRする媒体として赤字であっても存在意義があります。しかし、これまで新薬系でOTC黒字は武田だけと言われており、先行き予測から各社とも社内資源をRxに集約して効率化を図り、OTC部門は売却・統合の流れにあります。
 その中でRxトップの武田は、OTCも大正に次ぐ2番手グループのトップで売上500億円以上、次いで第一三共もヘルスケア子会社とゼファーマの統合で500億円ラインをクリア、奇しくも一昔前に西の横綱・武田と東の横綱・三共と称された2社が、競り合う形になってきており、日本の医薬品のリーディングカンパニーとしての矜持から、この2社はOTC事業を継続・拡大の意向にあるのではないかと解されます。今後、取り残された形のエーザイ・塩野義・田辺のOTC部門の売却・統合の動きが出るのではないかと予想されます。

2.1.4 Rx・OTC折衷型
 この範疇に入るのは、新薬系の興和、家庭薬系のツムラで、強いて挙げれば直販系のゼリア新薬もここに位置します。各社ともRxとOTCがほぼ均衡しており、今後両立路線で行くか、どちらかに軸足を移すか、それによりOTC事業を継続・拡大するか、売却・統合するかの経営判断で対応することになると考えられます。
 興和は既に大日本製薬からOTC営業譲渡を受け、拡大路線を歩んでいると考えられます。

2.2. 異業種

2.2.1. トイレタリー
 ライオンは中外からOTC営業譲渡を受け、既に売上500億円を突破し、拡大・買収路線を採ると予測されます。
 家庭用洗剤などトイレタリー分野のトップ企業である花王、雑貨分野でユニークな商品開発で強味を発揮している小林の2社は、その資金力でOTC拡大志向にあると考えられます。

2.2.2. 食品
 味の素・アサヒビール・キリンビール・明治製菓などの食品大手企業は、一昔前までは食品に付加価値を付すため、隣接領域にあって高付加価値のOTCに注目し、積極的に参入を図ってきました。その後、業界として一致団結して動いた戦略的対応が功を奏し、食品機能表示が法制化された結果、従前のOTC保健薬の領域に特定保健用食品として合法的に参入できる途が開かれました。各社とも研究開発の主力を投入し、特定保健用食品の市場が成長する流れにあります。それ故、OTC事業への興味は消失し、社運をかけて特定保健用食品に注力する状況にあり、手持ちOTCの売却はあっても買収はなく、OTC再編には無関係と考えられます。
 大塚製薬は、Rxの輸液、食品のオロナミンC・ポカリスウェットなど、特徴ある製品構成で、独立独歩の製品開発で大きくなってきた会社です。今後も独自路線を継続し、OTC買収には関わってこないと予測されます。

2.3. 外資系
 国際製薬外資が日本市場に参入して既に何十年も経っています。ノバルティス、グラクソ・スミスクライン、ジョンソン&ジョンソン、バイエルなど主要各社とも、Rxについては、市場調査→品目導出・委託販売→合併・提携→自社販売のstep up、そして許可基準のハーモナイゼーションが進み、既に日本市場でかなりのシェアを握るに至っています。
 一方、OTCに関しては、べーリンガーインゲルハイムが2位グループのエスエスを傘下におさめた以外は目立った動きはなく、未だ殆ど成功に至っていない段階にあると考えられます。外資系が日本市場でOTCを上市・成功するには、日本の許可基準での許可取得・マーケティング・販路確立のknow howが必要です。各社とも世界第2位のOTC市場である日本での市場シェア確保を狙っており、そのOTC拡張戦略のポイントは下記3項目と推察されます。

 (1) 自社OTCを日本へ拡販;自社ブランドを世界ブランドに育成し、売上増を図る。
 (2) 自社RxのスイッチOTC発売;特許切れRxの延命策としてスイッチOTC、それを世界戦略として日本市場に投入する。
 (3) 成果を出すためにM&A;各社とも市場参入のための準備段階はほぼ終了していると考えられるので、次のstepとして投資回収・利益計上のために時間短縮・規模拡大に向けて、日本市場の許可・マーケティングのknow howを持つ日本OTC企業買収に動く可能性が十分考えられます。

3. 買収・合併の成否に関係する要因

3.1. 製品構成・所持品目
 Rxの場合は、M&Aで統合効果が出るよう、双方品目の薬効群が重ならない組み合わせが望ましいとされています。Rxは医師がユーザーであり、製品の選択権が医師にあるので、単純に考えて病院・医院にセールスするに際し、1薬効群に複数品目あるより、各薬効群に1品目づつある方が販売効率が良くなるからです。
 一方、OTCの場合は、ユーザーは生活者であり、薬剤師の推奨販売もありますが、生活者がマスメディアで知った、或いは自らの使用体験に基づくブランド志向が強く働きます。それ故、各社とも高コストのTV宣伝を中心に、ブランド競争に走っていますが、一度知名度が確立したブランドはそれ自体が売れ筋商品になります。それ故、1社で同一薬効群の品目を複数保有しても、Rxほどマイナス要因にはならず、むしろ品揃え上有利になる側面もあり、重複問題は少ないと考えられます。
 従って、OTC品目の薬効群重複は、Rxのように買収・合併の支障になるとは考え難く、買収意欲の高い会社は、チャンスがあれば殆どの場合、触手を伸ばすと予想されます。

3.2. 企業風土・社
 会社で仕事をするに際し、誰しもが雰囲気の良い職場で気分良く働きたいものです。M&Aは被買収企業の社員にとって人生に関わる一大事であり、これまで通り仕事を継続できるのか、日々の生活はどうなるのか、心配が尽きないものです。
 人が個々のDNAによって千差万別であるように、企業もその歴史・構成する人間に拠って社風が形成され、結婚と同じように入社してみないと解らない未知の部分が多いものです。それでもある程度名の知れた企業は、世間の風評や知人・友人らの話である程度その内実が予測できます。
 買収・合併の話が浮上した時、買収される側の社員に拒否反応が多いと、日本では経営者が社員の心情に配慮する場合が多いので、成立は甚だ難しいと考えられます。
 製薬企業間であっても、直販系・家庭薬系・新薬系では、そのシステム・雰囲気に乖離があり、企業風土が異なるように見受けられます。異質なものを買収なら良いですが、買収される側はマッピラと拒否する社員が大半だと思います。また、異業種・外資に買収される場合も不安が先立つと考えられます。
 ここで、新薬系企業間では社風に近似性があり、製薬協の仲間としてお互いに親近感があるように見受けられます。事実、これまでの製薬業界再編の大きな動きとして、山之内と藤沢が合併してアステラス、そのOTCはゼファーマに、三共と第一が第一三共、第一三共ヘルスケアになり、新薬系メーカー間で再編が進展してきています。今後更に、この流れの延長線上の動きも、可能性として大きいのではないかと思われます。

3.3. その他
 人がそれぞれプライドを持って生きているように、企業にもプライドがあり、社格と言うべきようなものがあります。会社は、業績に未だ余裕があり、いくつかの選択肢が可能な場合は、自社の面子が立つM&Aを選択します。製薬企業で言うと、その歴史と研究重視の視点から新薬開発力がある新薬系が格上との風潮があり、更に医薬品の方が食品・雑貨より風上というような根拠なき自尊心のようなものがあります。こうした社格は結婚における家柄のようなもので、当事者間の考え方次第ですが、意外にM&Aの大きな障害になることがあると考えられます。
 他に、OTCでは各社間の販路の相違も、被買収企業社員にとっては極めて大きな不安要因になります。自分が培ってきた経験・スキルが生かせる職場が失われることに抵抗感が大きいのは当然のことです。
 OTC国際化の潮流の中で、適切に自ら生き残り、今後の事業の展望を拓くため、友好的にM&Aを成就させるためには、買収側が被買収側に不安を与えないよう、その社内資源を失うことなく活用し、win-winの形を創造して相乗効果が出るような場づくりと配慮が欠かせないと思います。