1. はじめに
宇宙の語感は、何となく俗世間と無関係の浮き世離れした感じがあり、このス トレス一杯、不条理・不合理に満ち満ちたおかしな世の中の憂さを忘れさせる、 一服の清涼剤のようなイメージがあります。 そして、現実離れした、一切の妥協を許さない,深淵且つ厳然たる宇宙の原理と 自然法則そのものの世界は、未知のロマンと知的興味を掻き立ててくれます。 2004年1月末に開催された文部科学省の「大学と科学シンポジウム」で,「ビッ グバン宇宙の誕生と未来」について聴講する機会がありました。 天文学は、理論物理学と観測技術の長足の進歩により、私が学んだ数十年前と はすっかり様変わりしていると共に、新たに未解明な部分が,ビックリするほど多 いことが解ってきていることに驚かされました。 宇宙は、私たちの生きている基盤であり、ルーツそのものでもあるので、その 本質を知ることは大変興味深いことです。シンポジウムで拝聴した話を中心に、 インターネットで追加調査し、関係図書も若干抄読して、分かりにくい話を自分 自身が理解し易いように下記のように整理してみました。
2. 宇宙の誕生と未来 〜われわれはどこから来てどこへ行くのか〜
宇宙の創世は、アインシュタインの一般相対性理論に基づき、ビッグバン理論 で説明されています。1929年にハッブルが宇宙の膨張を発見し、その後の観測値 から逆算して世界に始まりがあった、火の玉宇宙から始まったことが定説になっ ています。 しかし、なぜ火の玉宇宙? それ以前は? の疑問が残されています。 この疑問を解決するのが、力の統一理論に基づくインフレーション理論であり、 力の統一理論は、自然界の4つの力(重力、電磁気力、強い核力、弱い核力)を 統一しようとする理論です。ビッグバン直後,4つの力は統一されていましたが、 その後,進化して現在のように4つに枝分かれしたと考えられているとのことです。 宇宙の始まりは、“真空のエネルギー”に働く宇宙斥力によって加速度的な急 激な膨張があり、その膨張が終わるとき,“真空エネルギー”が“熱エネルギー” として解放され、火の玉エネルギーとなったとされています。 即ち、時間・空間が存在しない“無”にも量子論的揺らぎが存在し、その揺ら ぎから真空のエネルギ−に働く斥力、トンネル効果によって宇宙は誕生し、直ち に急激な膨張、インフレーションを起こしてマクロな宇宙へ成長したと考えられ ています。 宇宙創世は,観測値の解析から137億年前とされており、その30万年後の姿を、 1992年に米国NASA打上のCOBE衛星が捉えました。宇宙は膨張しているので、遠く を観測すれば過去が見えることになります。 この時点では、星・銀河は未だ誕生しておらず、ビッグバンのエネルギーによ る宇宙背景輻射として、原始宇宙のまだら模様の姿が描き出されました。 一方、20年ほど前から、宇宙には光や電波では見ることのできない「暗黒物質 =ダークマター」に満ちていることが解ってきました。その量は,星や銀河などを 形成している普通の物質の30倍もあり、その正体は未だ未解明です。 更に,1988年に宇宙を加速的に膨張させている“宇宙斥力の発見”があり、最近 の観測で,宇宙には「暗黒エネルギー=ダークエネルギー」が満ちており、その斥 力によって,宇宙はいま加速度的に膨張していることが発見されました。 従って、宇宙は創世記のインフレーション後、緩やかに膨張し、現在第2のイン フレーションの時代を迎えており、約60億年ほど前から再び加速度的に宇宙は膨 張し、遠方の世界は地平線の彼方にどんどん消えて行ってしまっている状況にあ ります。そして、宇宙の未来はどうなるのか、宇宙の根源・全体像とも未だ解明 途上にあるため、現段階では,不透明な状況にあるようです。
3. ビックバンと超ひも理論
一般相対性理論は、宇宙を理解するための理論的枠組みであり、大きく重いも のの物理学、それに対し、量子力学は、分子,原子,クオークのような最小のスケ ールの理論的枠組みであり、小さく軽いものの物理学です。 そして、宇宙誕生の瞬間である「ビッグバン」のゼロ時点で宇宙の大きさがゼ ロになると、温度と密度は無限大になり、一般相対性理論に根ざした理論的宇宙 モデルでは、量子力学上の説明が不可能になります。 この物理学の2大支柱である一般相対性理論と量子力学の衝突・矛盾を解決し 得る理論として提唱されているのが、「超ひも理論」です。 「超ひも理論」によると、ビッグバンと物質の関係は下記のようになります。 「ビッグバン」の瞬間に微少な塊から、宇宙全体が飛び出してきました。宇宙に は眼に見えない微細な次元がたくさんあり、折りたたまれてギッシリ巻き込まれ た空間次元が何段階も存在し、時空の次元を1つ加えると全部で10〜11の次元があ るとしています。 そして、物質を構成する根源は点ではなく、微少な一次元の糸状の輪から成り 立っているとのことです。その輪ゴムのような“ひも”は、振動し,躍動しており、 その組み合わせによってあらゆる力と物質が形作られると考えると、あらゆる力 と物質が説明可能になります。即ち、4つの力を統一する枠組みを提示できるこ とになり、それにより一般相対性理論と量子力学の矛盾が解決できるというのが 「超ひも理論」です。 ビッグバン直後の10の-44乗秒に、統合されていた4つの力のうち,先ず重力が枝別 れし、次に10の-36乗秒後に強い核力が枝分かれ、更に10の-11乗秒後に残った弱い核 力と電磁気力が枝分かれし、4つに進化したと考えられています。 超ミクロの世界では、距離と時間のスケールを限りなく小さくして行くにつれ て、莫大な量の活動がますます激しくなり、相対性理論に基づくエネルギーと質 量の互換性原理に従い、粒子が発生と消滅を繰り返します。即ち、エネルギーの ゆらぎが十分大きければ、粒子と反粒子を生じ、一瞬後に合体・消滅してエネル ギーに変わります。 そして、ビッグバン直後には、その高エネルギーによって,エネルギーから粒子 が生成され、このとき同じ割合で反粒子も生成しますが、10の-3乗秒後には粒子と反 粒子は反応してエネルギーに変わって消滅します。しかし、10億分の1の割合で粒 子の方が多く、この時に残った粒子が,現在の宇宙を形成しているとされています。
4. インフレーション理論の進展と観測
標準的ビッグバンモデルは、1960年代に認知され,宇宙が誕生して約1秒以降の 宇宙の進化を良く説明しています。そして、宇宙のごく初期の10の-36乗秒以降を上 手く説明するモデルとして、1980年に提唱されたインフレーションモデルがありま す。 ビッグバン直後は高エネルギーのため、エネルギーから素粒子が生成され、10 万年後までは,陽子,電子など電荷を持つものが自由に飛び回っていたので、光子 は電荷を持つものと相互反応を起こし、光は直進できませんでした。 10万年後に宇宙温度が1万度に下がって、陽子と電子が結合して水素原子ができ ると、電荷を持つものが飛び回らくなり、電波が直進できるようになりました。 そして,宇宙温度が3000℃程度まで下がった30〜40万年後に可視光となって、光 が電子に邪魔されなくなり、不透明から透明に変わりました。この時点が「宇宙 の晴れ上がり」と言われています。 20世紀の最後の数年間に、宇宙観測は飛躍的に進歩しました。 NASAが,2001年に打ち上げた観測衛星 WMAP(ダブルマップ)による宇宙誕生後、 約40万年の宇宙背景輻射(宇宙マイクロ波背景輻射)を観測した結果は、観測可能 な最古の宇宙地図の作成になりました。 その解読により、宇宙の組成が判明しました。現在の宇宙の運動エネルギーが 重力エネルギーと丁度釣り合う宇宙のエネルギー密度を測定すると,宇宙の組成は、 次のようになります。 通常の物質(バリオン) 4% 星,銀河,生物を構成する物質。 暗黒物質(ダークマター) 23% 未知の素粒子。宇宙の重力の大半を占める。 暗黒エネルギー(ダークエネルギー) 73% 宇宙全体を一様に満たしている万有斥力。 即ち、宇宙の果てを観測することで、新しい階層が明らかとなり、判明してい るのはたった4%で、宇宙の96%の部分を理解していなかったことが解ってきました。 人類は、銀河系という1つの銀河の中に存在しています。銀河系は約2千億個の 恒星と星間物質が円盤状に集まったものです。そして、太陽は、直径約10万光年 の円盤の中心から約3万年光年の位置にあり、中心の周りを公転周期約2億年で回 っています。 宇宙空間には、平均して一辺を1000万光年とする立方体の中に1個の銀河が存 在し、宇宙全体で約1000億個の銀河があると推定されており、それぞれの銀河が 約1000億個の星の集まりです。 スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)は、米国ニューメキシコ州アパッチ ポイント天文台に観測地があり、専用望遠鏡と大型モザイクCCDカメラを用いて、 銀河探査のための米・日・独の国際共同プロジェクトが推進されています。 現在、25億光年までの銀河宇宙地図を作成中であり、2005年半ばに計画完了の 予定です。
5. ダークマターの正体は何か?
2003年2月にNASAの人工衛星「WMAP」による宇宙マイクロ波背景放射の観測結果 が発表され、宇宙創世後40万年後の初期宇宙の揺らぎが画像で示されました。 その解析により、先に記したように,宇宙の年齢は137億年であり、宇宙に存在 するエネルギー密度の内訳は、光を発している通常物質はわずか4%に過ぎず、光 を発していない「暗黒物質」が23%,残りの73%は「暗黒エネルギー」であることが 判明しました。 一方、銀河は,その中心部に質量が集まっているので、太陽系の惑星運動に見ら れるように、中心から遠い星は,近くの星よりゆっくり公転する筈です。 しかし、実際に渦巻き銀河の回転速度を観測してみると、殆ど同じ速さで公転 していました。即ち,太陽系より遙かに壮大な銀河では,遠くの星を中心に強く引 き寄せる,何らかの重力が存在していることになります。 それ故、円盤状の銀河全体をすっぽりと球状に包んでいる「暗黒物質」の「ハ ロー」の存在が推定されています。 暗黒物質は、電磁波では見つかりません。通常の「素粒子」に比べてかなり重く、 他の粒子との相互作用が非常に弱い,安定な粒子とされ、その候補として有力視さ れているのが「ニュートラリーノ」です。超対称理論に登場する未発見粒子で,電 気的に中性で、質量が陽子の100倍程度とされ、現在その検出が試みられています。 なお、物質を構成する最も基本的な粒子が「素粒子」であり、一昔前までは、 元素を構成する陽子,中性子,電子でしたが、近年、陽子,中性子は,+2/3e電荷と -1/3e電荷を持つ2種のクオーク(アップクオークとダウンクオーク)3個で構成 されていて、+e電荷の陽子,ゼロ電荷の中性子となっていることが発見されました。 即ち、アップクオーク2個とダウンクオーク1個の組み合わせで陽子、アップク オーク1個とダウンクオーク2個の組み合わせで中性子となります。 現在の素粒子は、原子核で強い相互作用を持つ「クオーク」と弱い相互作用を 持つ「レプトン」であり、レプトンには,-e電荷の電子,ゼロ電荷のニュートリノな どがあります。 更に、クオークとレプトンには、性質は全く同一で質量のみ大きな第2,第3世代 が存在することが知られています。
6. 私たちの体を作っている元素はどこから来たのか? 〜銀河の化学進化〜
ビッグバン後の初期宇宙では、非常に高温状態で、陽子,中性子,電子がバラバ ラの状態で飛び回っていました。 その後の宇宙膨張と共に温度が下がって,最初の3分間で,水素,重水素,ヘリウム, リチウムが合成されました。続いて、宇宙線と星間物質の衝突で、リチウム,ベリ リウム,ホウ素が生成されました。 宇宙はしばらくの間、これらのガスで満たされていたとされています。 その後、ビッグバンの100万年後頃から、膨張を続けていた宇宙空間の所々で ガス濃度が高くなり、原始銀河が形成され、次いで星の誕生へと続くことになり ます。 星と星の間には,希薄なガスと塵からなる雲が存在し、星間分子雲と呼ばれてい ます。星間分子雲は、極低温で可視光では見えませんが、電波や赤外線でその分 布・構造が観察できます。1980年代から、電波観測,赤外線観測,X線観測が急速 に発展し、新しい星の誕生が観測されるようになりました。 星間分子雲は銀河系質量の10%を占め、先ず分子雲コアができ、その後,10万年 で原始星、更に1000万年で恒星になります。即ち、星間雲は星のゆりかごと言う ことになります。 その中で、50億年後頃から星が誕生し、星は高温高圧の中心部で、超高温下の 核融合反応により、水素から順に、周期律表の軽い元素からより重い元素へ順送 りで元素が変成・シフトして、炭素,酸素,ネオン,マグネシウム,珪素,イオウ,鉄 までが生成されました。 鉄は安定なので,更に重力による圧が加わると、星の進化の最後に超新星爆発が 起こります。その時の膨大なエネルギーにより、更に重い元素である、チタン,マ ンガン,クロム,ニッケル,亜鉛,金,銀,鉛,ウランなどが生成しました。 これらが星間物質となって、次世代の星の組成は、重い元素の比率が増えて行 きます。こうした宇宙の壮大な歴史の中で、太陽系惑星の地球の組成ができ上が り、その中で生命の誕生、人類への進化があったと言うことになります。