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スイトナーがベルリン国立歌劇場管弦楽団とのコンビでの最後の来日となった1988年の演奏会(6月13日)からの実況録音です。尚この演奏会はスイトナーにとってもこのオケにとっても初のサントリーホールでの演奏となったものです。
演奏は明快な音作りの中にも、悠揚たる流れを感じさせる演奏でとなっています。弦のうたわさせ方やバランスがつねに第1ヴァイオリンのトップが引っ張ってくるように入るため、懐かしい雰囲気だけでなく、オケ全体に素晴らしい流動感が生まれているのもこの演奏の特長だと思います。また弦楽器から派生したような音色と音質を誇る管の音は、まるで檜造りのような趣のある音を奏でており、場所によってはたいへん雅やかともいうべき響きが聴くことができます。そしてそれらがすべてひとつになった全体の音は、音色は明るいのに、響きは腰が低く重厚という、一見相反する要素がじつに絶妙にミックスされた、なんともいえない深みと味
のある音として響いています。
こう書いているとまるでこのベルリンの歌劇場オケのことのみしかふれていないようですが、じつはこのオケの特長がスイトナーの音楽そのものもあらわしており、スイトナー自身はその自分の個性が深く投影されたオケをもって、ある時は落ち着いたたたずまいの演奏を行い、またある時は激しく自己の音楽に対する興を刻み込んでいくといった姿勢をとっていきました。このCDでは後者の姿勢をスイトナーはみせており、特に終楽章での生き生きとした音の交錯、テンポの変化、そしてここという時の金管の強調はたいへん印象に強く残りました。
それにしてもこの演奏ほどスイトナーの指揮姿が浮かんでくるものも珍しいという気がします。あのノッてくると汗びっしょりになりながら、肘から先をぐるぐるまわしながら、さらには頭までまわしだす独特の指揮姿。「このときもあいかわらずグルグルまわしてたんだろうなあ」と思ってしまったものでした。 爆演というより奔演といったほうがいのでしょうか。多少人によってやや興に頼った大づかみな演奏と聴こえるかもしれませんが、音楽のもつ本来のエネルギーをどんどん最大限にくみ出しながら、しかもポイントはうまくしめながら、音楽のわきあがりを圧倒的に生かしたこのブラームス。これはこの指揮者の特長を最大限に発揮した演奏のひとつといっていいと思います。
スイトナーは2002年の5月に80歳を向かえました。この指揮者が日本に最後に姿をみせたのは1989年の11月でした。それ以来この指揮者は健康を害し現在に至るまで来日をしていません。ですがこのCDを聴いているとなにか今すぐにでも来日しそうな不思議な感覚にとらわれてしまいます。スイトナーに70年代80年代その実演や録音に親しんだ方々にとって、そしてその実演に未だ接することができない方々にとって、これはスイトナーを「感じる」ことのできるCDとしても、かけがえのないものになるのではないかという気がしています。
尚、このコンビの1978年来日公演時のモーツァルトの後期三大交響曲もCD化されていますが、こちらの方もたいへん素晴らしい、歌と流れにみちた、モーツァルトのひとつの理想的な演奏を展開しています。
※ブラームスの録音は最初オケの音がややホールの響きの中に埋没したようなかんじがしましたが、演奏がすすむにつれ次第にそういうかんじがしなくなりました。これは耳がただたんに録音になれただけではないような気がします。
※演奏終了時、最後の音が消える寸前に拍手がはじまり、つづいて歓声と会場全体の拍手が続きます。このため音楽の余韻を楽しもうという人にはちょっと厳しい拍手と歓声に聴こえるかもしれません。
※余談ですがこの指揮者のいまのところ最新録音で最後の来日公演から一月半後の録音であるブルックナーの交響曲第5番は、造形的な部分は曲にまかせ自らはこの曲のもつ「隠れた歌謡性」に光をあてることに徹したような、歌謡性に富んだそれでいてけっして雰囲気に流されないたいへん見事な演奏です。随所聴かれる壮麗ともいえる金管のコラールはたいへん圧倒的で、オケの状態も最高でこれを最後にこのコンビが解消してしまったのが、これを聴くたびにあらためて惜しまれる演奏です。 |