第一章 なんだかなかなか幸せが訪れない旅路について(前編)
失業保険もとっくにきれ、しみったれた毎日を送るプー太郎の私。
それでも必死で守り抜いた貯金を握りしめ、お供におサルを従えて、
とうとう豪華リゾートへ旅立つ時が来たのです。
出発の朝はしごく快調な目覚めを迎えました。
パスポートよお〜し! 航空券よお〜し! 正露丸よお〜し!
いざ、飛び立つぞ、神々の島へ!
○大混雑の出発カウンター
なんのトラブルもなく空港にたどりついた私とおサル。搭乗手続きを終えれば、空港内のレストランでゆっくりと昼食をとり、余裕をもって出国手続きをし、飛行機に乗り込める時間帯です。なんと順調な旅の始まりでしょう。
ところが、甘かった。J×Lの団体客カウンターは、チェックイン待ちの人々で、十重二十重に取り巻かれているではありませんか。しかも、行列の終わりがどこにあるかも定かではない。そして、その行列がちっとも動かないのです。ああ、夏期休暇シーズンも終わった季節外れだというのに、南の島に行きたがる人々が、こんなにいたなんて……。(つまりは季節はずれではなかったってことですかね)。
無職であることを利用して気ままな旅に出たつもりが、なんということはない、平均的日本人旅行者の一員にしかなれなかったことを思い知り、私はなにやら味気ない思いで行列の最後尾を探し出して並んだのでした。
誰も彼もがリゾートを目指す。うちのおサルでさえも。こういうの、一億総プチブル時代っていうですか? ちょっと違います?
30分以上も並びながら、はかばかしく進まない行列。私達の前には明らかに大学生と思われるお嬢さんがたが並んでおり、バリ島特集の雑誌をみながら、免税店での化粧品購入計画に余念がありません。そのうちビーチでどんな風にすごそうかなどど相談を始めました。
「ねえ、パスポートってホテルに預けていくよね」
「え?ビーチに持ってかないの?だって私のパスポート入れ、耐水性だよ」
「……それ、わざわざ買ったの?」
問われた彼女が恥ずかしげに、しかし自慢げに取り出してみせたパスポートケースは、耐水性、かつチャックがビシバシついており、パスポートをしごく安全に保護してくれるというスグれた代物らしいです。値段は5千円。若いのに、ずいぶん細かいところに神経を使うんですね。でも、ケースごと盗まれたらそれまでですよね。まさか、パスポートを身につけたまま泳ぐ気でしょうか。そういえば、私も初めての海外旅行をしたときは、首にかけられるズタ袋みたいなパスポート入れを持っていった気がしますが、ほんの数百円しかしなかったです。それが5千円とは、やはり日本は豊かになったに違いありません。おお、いやですね。
そんな風に周囲に聞き耳を立てつつよけいな想像で気を紛らわせて、やっとチェックインを済ませました。かれこれ1時間以上が経過しており、私達は15分でなんだか味の良く分からない800円程度のお昼を食べ、不満足なまま日本を飛び立つことになりました。
へっ、どうせ俺たちゃ日本ではただの貧乏人、デフレ極まるバリではせいぜい楽しませてもらおうじゃないかと、いじましくも決意を固めました。
○飛行機にロマンはない
飛行機に乗り込んだ私達がまずしたのは、メニューチェックです。これははずせません。
東京→ジャカルタ間で昼食と茶菓のサービスが、ジャカルタ→デンパサール間で軽食が出るとのことで、私達はうきうきわくわくです。
最初の昼食については、
『当便では「フランス」をテーマにした味覚をとりいれました』と記述がありました。
フランス……。日本の航空会社の飛行機でインドネシアに行くのに、なぜフランスがでてくるのでしょう。よくわかりませんでしたが、こういう見当違いな感じが飛行機のご飯の楽しさだよね〜と自分を納得させて、食事に挑みました。
運ばれた昼食は、確かに一品一品は「マロン風味のパテ、サラダ添え」とか「スライスビーフ 漁師風」とか、おフレンチなお名前がついていました。でも前菜もメインも一緒くたに安っぽいプラスチック容器にセットされてでてくるのですから、フランスもくそもありません。もちろん機内食にそんな文句をつけてもしょうがないのですが、あえて書いたのは、全体的に機内食がまずかったからです。
私はまずいものを食べさせられると、抑えても抑えても腹が立ってしまう性質なのです。“フランスの味覚”とかうそぶかれると、バカ者、フランスに失礼だろーが、とこぶしを握ってしまいます。第一、この飛行機は、私達が本来希望していたガルーダよりも運賃が高いんですよ! 当然サービスの質が高いものと期待してしまった私が馬鹿でした。特に帰りの飛行機で出たそばなんか、手で掴みあげて握ってくっつけたみたいな代物で、とにかくまずかった。しかし、これもきっと好みの問題なのでしょう。ちなみにジャカルタ→デンパサール間で出された軽食は、普通に食べられました。バリ風ロールパンという揚げパンのようなものはおいしかったと申せましょう。
さて、飛行機内で私達が苦しめられたことがもうひとつあります。それば座席の位置です。
禁煙席を希望して果たせず、最初に私達が座らされたのは、一番後部の2シーターの座席でした。普通は3人のところ、気兼ね無く身内だけで座れるのは魅力です。ところが、テーブルになにやらションベン臭い黄色の液体(まさにションベンか?)が付着しており、なんだかとても不潔。とりあえずウェットティッシュで始末しましたが、お次はタバコの煙りに悩まされました。もちろん喫煙席なのですから匂いぐらいはします。しかし、おそらく喫煙席をとれなかった喫煙難民たちでしょう、彼等が一番後ろのトイレ附近、つまり私達の席の真後ろに集まってきて、ぷかぷかタバコを吸うのです。(そこは喫煙コーナーでもなんでもないっての!)絶えず後ろから複数人のタバコの煙りが漂ってきて、空気が淀みに淀むものですから、私達は耐えかねて、席を変えてもらうよう交渉しました。スチュワーデスさんは親切にも、禁煙席にいる喫煙者のカップルを探し出してくださり、おかげで席を交換できました。しかし、最初から喫煙者は喫煙席に、禁煙者は禁煙席に座ることができれば問題なかったと思うんですが、どうしてそうならないんですかね?
次に私達が座ったのはジャンプシートでした。これも前に座席がなくてなかなか広々としているから私がすきな位置です。しかし今回はそう御機嫌にはなれませんでした。近くのトイレの匂いが漂ってくるんです……。ちきしょう、誰か掃除しやがれと叫びたくなるようなトイレ臭が延々続くんです。ああ、衛生大国日本の飛行機でこんな目に合おうとは思いませんでした。一番後部の座席も、ジャンプシートも、へなちょこ旅行ガイドなんかでは「穴場」のように書かれていて、“この座席を指定して、あなたもちょっと旅の上級者気分”とかなんとか嘘くせぇことが書いてあるのを見たことがありますが、皆さん、御利用にはくれぐれも御注意ください。