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| 目 次 |
| 第1章 シルフィール |
| 第2章 ガウリイ |
| 第3章 ゼロス |
| 第4章 リナ |
| 第5章 昔なじみ |
| 第6章 ルーク |
| 第7章 レゾ |
| 第8章 アメリア |
| 第9章 ミリーナ |
| 第10章 ゼルガディス |
| 「お、お前ら!なんでこんなところに?」 「ああーっ、ミリーナとお供その一!」 タラス・シティの朝の市場で、ルークとミリーナは、昨日、噂話のネタにしたばかりの二人連れに出くわしていた。 「おい、こら!リナ・インバース!俺はお供なんかじゃねえっ!」 「んじゃ、金魚のウンチ」 「て……てめえっ!」 「こんなところでいきなりケンカ?ちょうど彼らに聞きたいことがあったんじゃなかったの?」 リナと顔を合わせるたびに悪口合戦を繰り広げるルークの習性も、ミリーナの一声の前にすごすごと引き下がる。リナはちょっと物足りなげに、それでも一応の勝利に気を良くしてミリーナに軽く会釈した。しかし、ミリーナのポーカー・フェイスは、かえって表情の真剣さを増していた。 「何?聞きたいことって?」 「往来で話すようなことじゃないので、宿まで付き合ってもらえないかしら?」 「急ぐ用事か?俺たちも暇な身体じゃないんだ」 「ガウリイ?」 本当に迷惑そうに、同行を拒むガウリイの態度に、リナがたしなめる視線を送るが、彼はかえってリナにも不平を漏らす。 「昔話をするためにここに来たんじゃないだろう?早くシルフィールの手がかりを探さなくちゃ……」 「シルフィール?!」 素っ頓狂な声を上げたのはルーク。ミリーナも目を見開いている。 「シルフィールについて何か知っているのか?おい、ルーク!」 「あ、ああ……ってぇ、そんなに揺さぶるなって、おい、ガウリイ!」 ガウリイに両腕を掴まれ、がくがくと強く揺さぶられてルークが悲鳴を上げる。 「とにかく、ついて来て」 ミリーナは男二人に背を向け、リナと共にさっさと歩き出した。ルークとガウリイも慌てて後を追った。 「私たちがシルフィールに会ったのはつい昨日よ。この町で」 宿の部屋で、ミリーナは風の結界を張り、話始めた。四人の男女は、思い思いに椅子に腰を下ろしたり、ベッドに座ったりしている。 「で?彼女はどうしてた?今もここにいるのか?」 「待って、ガウリイ。少しはミリーナの話を聞きなさいよ」 リナが性急に話を進めようとするガウリイを押し留めようとしたが、彼は聞く耳を持たなかった。 「彼女の安否を確かめるのが先決だろうが!いっしょに戦った仲間のことが心配じゃないのか!」 「行動の自由を束縛されていたかどうか、といえば、そうではなかったわ。彼女は昨夜、この宿に一人で泊まったくらいよ」 リナに八つあたりに近く言い放つガウリイの態度に、ミリーナは水をかけるような冷静さで声をかけた。 「この宿に!ちくしょう、後一日早く着いていたら……」 「ちょっと待って、ミリーナ?それ、シルフィールに連れが居たって意味?」 リナの質問に、ミリーナはただうなずく。ガウリイは二人の女性を交互に見比べた。 「……あんた、どうして彼女に連れが居たって分かった?」 横で聞いていたルークが尋ねる。 「彼女が一人で宿に泊まった、と言ったからよ。自由を束縛されていない、という言葉と考え合わせれば、彼女と一緒に泊まってもおかしくない人物、彼女の行動を束縛してもおかしくない人が居た、という意味にとれるわ。 ミリーナ、ルーク、あなたたちがあたしたちに尋ねたい、というのは、その彼女の連れのことじゃないの?」 リナの問いに、ミリーナはまたもうなずき、ルークは頭をかいてぼそりと言う。 「まったく……相変わらず切れるヤツだな、このドラまたは……」 「誉められたようには聞こえなかったんだけど……」 気色ばむリナに、しかしルークは応じなかった。ここでまた悪口合戦第二弾をやらかしたら、ミリーナに何と言われるか……。 「ゼルガディス、という人物を知っているわね?」 「ゼル?ゼルが彼女と一緒に居るの?」 思いもかけない懐かしい名前に、リナは驚きの声を上げる。ミリーナはうなずきながら答えた。 「彼女は彼に助けられた、と言っていたわ」 「なるほど〜。そうだったのね〜」 にこにこしながら、一人で合点しているリナに、ガウリイが渋い顔を見せる。 「何をはしゃいでいるんだ?まるでシルフィールが見つかったことより、ゼルが見つかったことの方が嬉しいみたいだな」 「ええ?何を言っているのよ。あたしはただ、あの盗賊のアジトが吹っ飛ばされていたわけが分かった、と言っただけよ?」 二人のやり取りに、ルークとミリーナは思わず顔を見合わせた。かつて、高位魔族と戦った時のような、息の合ったところが、この時にリナとガウリイには感じられなかったからだ。何か、歯車がずれているような印象。 ガウリイはリナに言いたいことだけ言って、すぐに話題をシルフィールに戻した。 「で?シルフィールは元気だったのか?ゼルと旅をしているのか?」 「彼女は旅をしているわけじゃなかったわ。この町のはずれにある修道院の宿坊に身を寄せている、と言っていたし」 「修道院に?ゼルもいっしょにか?」 「いいえ。彼は何か探し物があるとかで、時たま彼女を訪ねて来るだけで、ふだんは彼女は一人暮しだそうよ」 「そうか!」 ガウリイが勢い込んで立ち上がる。 「待ってよ、ガウリイ!どこ行くの!」 「決まってる!シルフィールに会いに行かなくちゃ」 「待ちなさいよ!そう簡単な話じゃないわよ、これは!」 「何を言っている!行方不明の仲間に会うのに、簡単も複雑もないだろう!」 リナの言葉に、ガウリイの頬が紅潮した。彼が立腹している様子に、ミリーナが少し眉をひそめながら言った。 「リナの言う通りよ。私が見た限り、彼女はまっとうで正直な性格に見えたわ。それなのに、彼女の身を心配する人に何も連絡しなかったことには、それなりの事情があるわ」 「どんな事情だ?!」 気色ばむガウリイを、リナは「それ見たことか」という目で見ている。ミリーナは二人を見比べ、リナにひたと視線を据えた。 「それを説明する前に、あなたたちがどういう事情で彼女を探しているのか、教えて欲しいのだけれど。実を言うと、シルフィールはあなたたちと別れる前のことは詳しく話してくれたけれど、その後、彼女がいったいどういう窮地から助け出されたのか、などについては漠然としか言わなかった。 リナ?さっき『盗賊のアジトが吹っ飛ばされた』とか言っていたけれど?」 ここでリナは、アメリアから聞いた話と、自分とガウリイがシルフィールの行方の調査を依頼されていることを語った。 シルフィールが盗賊に拉致されていたことを聞きながら、ルークは一つの可能性を思いつき、ミリーナも気づいているかどうか様子を窺ったが、彼女は別に目配せも送らなかった。 「すると……あのゼルガディスはたった一人で盗賊のアジトを潰したわけね……」 「別に難しいことじゃないわよ。相手に魔道士がいなければ、攻撃呪文の一つ二つでカタがつくわ」 「ゼルガディスって……攻撃呪文を使うのか?」 「魔剣士と呼ばれるのは、魔道を使う、という意味だったのね」 低い声で割って入ったルークに、ミリーナが応じる。彼女としては、これからゼルガディスとどう関わるか、まだ結論が出ていない以上、こちらの彼に対する心情をあまり明かしたくなかった。 リナはミリーナたちが単に好奇心だけで尋ねているのかと思い、すらすらと説明する。 「そう、ゼルは精霊魔法が得意なのよ。崩霊裂(ラ・ティルト)も使えるし、剣に魔力をこめることもできるわ。実際に見たことはないけれど、蓮獄火炎陣(ヴレイヴ・ハウル)だって使えるみたい。剣の腕も並大抵じゃなかったわ」 「……詳しいな」 「だって、一緒に魔王と戦った……いや、あれは戦ったというか……一方的にやられそうになっただけだけど……、でもまあ、あなたたちとご同様に魔族との戦いで協力した仲よ」 ルークとミリーナも、リナとガウリイが魔王シャブラニグドゥのカケラの一つを倒したことは聞いていたが、その場にゼルガディスが居たことは初耳だった。もっと詳しく聞きたいと、ルークが口を開きかけた時。 「で?シルフィールのことはっ?!」 ガウリイが我慢できないというように、怒鳴る。一瞬、誰もが沈黙した。 彼にとってはシルフィールのことが一番気にかかっている――それは分かっていたが、ミリーナとルークにとっては、彼女の問題とゼルガディスとどう関わるか、は切り離せないことなのだ。だからもっと背景を詳しく把握してから対処したかった。 ミリーナはそのことを打ち明けないまま、ガウリイを落ち着かせる方法を選んだ。 「私はさっき、『彼女が連絡しなかったのには事情がある』と言ったけれど、別に確信しているのじゃなく、ただそう思っているだけなのよ。あなたは、私たちがシルフィールと関係がないことばかり話している、と不満なのでしょうけれど、私はまだシルフィールとゼルガディスの関係がよく分からないから聞いているだけよ」 「じゃあ、あんたたちで話してろ!俺は行くからな!」 「待ってよ、ガウリイ!連絡しなかったのがシルフィールの意志だったとしたら、あたしたちが訪ねて行くことはかえって迷惑になりかねないのよ!」 部屋から出て行こうとする彼の背に、リナが呼びかける。ガウリイは扉の前で立ち止まった。 「あなたが言いたかったのはそういうことでしょう?」 リナはミリーナに確かめる。彼女は黙ってうなずいたが、ルークが横から口を挟んだ。 「まあ、あの親切ぶったゼルガディスとやらが連絡しないように言い含めるとか、連絡してやる、とか言っておいて実は知らせていなかった、とかいう可能性もあるが……」 「それは……」 ミリーナが何か言おうとした時、既にガウリイは扉の外に飛び出していた。 「ルーク……余計なことを」 珍しくミリーナが眉をひそめ、非難がましい表情を作る。ルークはちょっと後ろめたそうに顔を背けて言った。 「だって彼女、言っていたじゃないか。ガウリイの力を借りたい、と。彼女は知り合いに連絡したがっているのに、あのゼルガディスが邪魔しているから、こっそりと連絡しようとしたんじゃないのか?」 「あなたはあの言葉を真に受けたの?私は、あれはただ単に、彼女がガウリイと知り合いだということを印象付けようとしただけの方便だと思っているわ」 ミリーナは言いながら立ち上がり、扉に歩み寄る。リナも既に戸口に立ち、いつでもガウリイを追える体勢だ。 「だれが好きな男性に身ごもっている姿を見られたいものですか。今の彼女は絶対にガウリイには会いたくないはずよ」 「……シルフィール……身ごもっているの?」 リナはやや青ざめてミリーナを見上げた。なぜかしら嫌な予感がする。 「……やべえ!早くガウリイを追わなきゃぁ!」 ルークが自分の失態に気づいて慌てふためく。 言うまでもない。リナ、ミリーナ、ルークの三人は宿屋の建物から通りへ出ると、すぐさま翔封界(レイ・ウィング)を使って、一直線に修道院を目指した。 三人が修道院の上空に指しかかった時だ。リナは、ガウリイが金髪をなびかせて走っているのを見とめた。地上の建物を迂回して来たはずなのに、なんという速さ。しかも、彼はただ修道院の建物を目指しているのではなく、あきからにある人物を追っていた。 「ゼルガディス!」 リナの叫びは、風を巻く結界の外には漏れなかった。 ガウリイの走るさらに五十歩ほど先を、白いフードと白いマントをまとった人物が走っている。彼の足がそれほど速くないのは、腕に女性を抱いているため。それでも彼は、なんとか修道院の門をくぐり、門番は直ちに格子扉を閉じた。恐らく、ゼルガディスが「閉めろ」とでも言ったのだろう。 だがガウリイは、やおら抜刀すると扉に斬りつける! 「……あの馬鹿!」 リナはつぶやいて、術をコントロールし、門の内側、修道院の敷地に降り立った。ミリーナとルークは門の外からガウリイを追う。 伝説の斬妖剣(ブラスト・ソード)の前に、重く頑丈な扉も意味を為さない。あっというまに人一人が楽に通れる穴があいた。もちろん、ガウリイの技量あってのことだが。 「ストップ!ガウリイ!これはやり過ぎよ!」 「うるさい!」 両手を広げて押し留めようとするリナを、片手で横に突き倒し、ガウリイは剣を立ち尽くすゼルガディスに向ける。シルフィールは既に彼の腕を離れ、二人の修道女に支えられて建物の中へと入っていくところだった。 「シルフィールを返せ」 「…………」 ガウリイの要求に、ゼルガディスは返答しなかった。ただ、顔を隠しているマスクとードの陰で少し目を細め、相手の本気加減を見極めようとしているらしい。 金髪の剣士が両手を剣の柄に添え、じりじりと間合いを詰めにかかる。 ルークたちは二人の一戦が避けられない、と判断し、周囲にいる修道女や奉仕に来ている村人に被害が及ばないように、防御の態勢に入る。 突然、はじかれたようにガウリイがダッシュした。ゼルガディスは応戦せず、身体を開いて斬撃をよける。位置取りが逆転し、シルフィールが入って行った建物に近づいたガウリイは、一瞬、彼女を追うか、ゼルガディスと戦うか、迷った。それは、相手にとって十分過ぎる隙だった。 「影縛り(シャドウ・スナップ)!」 ゼルガディスが投げたナイフが、ガウリイの影を地面に繋ぎ止め、彼自身の身体を呪縛する。 「くそっ!……リナっ!俺を自由にしてくれ!」 この術は、影があって初めて効果が出る。太陽が雲にかげったり、別に強い光をあてて影を消せば身体の自由を取り戻せる。リナだけでなく、ルークもミリーナもそれは知っているが、今、ガウリイを野放しにすることははばかられた。いきなり斬りかかられたゼルガディスに対してだけでなく、問答無用に門を破られた修道院に対しても、ガウリイの行為は許されるものではないからだ。 「リナ、ガウリイのことは私たちにまかせて。あなたはゼルガディスに事情の説明を」 促したのはミリーナだった。だが、リナがゼルガディスに歩み寄るよりも、修道院の建物から走り出て来た下働きの女性が、ゼルガディスに何事が耳打ちする方が早かった。彼はその女性と一言二言、言葉を交わすと、女性を先に行かせ、リナに言った。 「シルフィールの容態が悪い。俺はこれから彼女を町へ連れて行く。悪いが話は後だ」 その真剣な口調に、リナは黙ってうなずくしかなかった。ゼルガディスは彼女に背を向け、建物に入って行った。 ルークとミリーナはガウリイから剣を取り上げた。 「おとなしくしないと、役人に突き出されるわよ。あなたがやったことは、立派な不法侵入なのだから」 ミリーナに言われてガウリイは不満そうにうめくが、いかんせん、身体の自由が利かない。二人はまだ、彼の呪縛を解いていなかった。 修道院の裏手が騒がしくなり、やがてゼルガディスが一台の荷車を馬に引かせてやって来た。もちろん、荷車にはシルフィールが横になっており、二人の修道女が付き添っている。 「彼女、大丈夫なの?」 リナは荷車を覗き込んでゼルガディスに尋ねた。シルフィールは顔まで毛布にくるまっていて、表情は見えない。 「分からん。早く専門家に診せないと」 「でも、彼女、身ごもっているんでしょう?」 リナはできるだけ小さな声で言った。ゼルガディスが目を見開き、彼の耳に届いたことは分かったが、付き添いの修道女にはぶつぶつ言っているくらいにしか聞こえなかっただろう。 「あたしたちもついて行っていいかしら?」 ゼルガディスはちらりとガウリイを見やり。 「いいだろう。ガウリイも医者の家で暴れることはないだろうし、修道院もこういう狼藉者にはとっとと出て行ってもらうのがありがたかろう」 「じゃあ、医者の場所を教えて。あたしたちは後から行くから」 だが、ゼルガディスが告げたのは魔法医院ではなく、産婆をしている人物の家だった。 「予定よりやや早いが、出産が始まってしまった。もう使いは出してあるから、準備をしてくれているはずだ」 「分かったわ。早く行って!」 リナは自分が付き添う、とは言えなかった。自分は痛みに弱い。他人が苦しむのも見ていられないのだ。そんな自分がシルフィールのそばに居ても、役に立たないことを知っている。むしろここ数ヶ月、彼女を支え続けて来たゼルガディスが居た方が、彼女も心強いだろう。 ゼルガディスとシルフィールが出発し、リナがミリーナたちのところに戻ると、ルークが心配げに尋ねた。 「シルフィールはどうした?どこか具合が悪いのか?」 「お産が始まったんですって。今、産婆さんのところへ運んで行ったわ」 「どうしてついて行かないんだ!」 まだ身動きできないガウリイがわめく。 「無理よ。女性だからといって誰でもお産に立ち会えるとは限らないわ。私だってそんな経験はないし、ましてやリナは若過ぎるわ」 ミリーナがたしなめるが、ガウリイは黙っていられない。 「何もお産を手伝うだけじゃなくて、そばについていてやることだってできるだろう!なんだってそんなに冷たいんだ!」 「あなたのせいよ、ガウリイ!」 突然、リナがたまりかねて叫ぶ。ガウリイが一瞬怒りを忘れた顔をした。 「あなたがここで何をしたのか分かっているの?あなたに申し開きができるの?あたしはそれを修道院長や施設長に説明して謝罪して……あなたをおとがめなしにしなければ、ここから出発できないのよ!それとも、あなたを見捨てて、牢に放り込まれるままにしておけばいいとでも言うの?!」 ガウリイはいかに自分が逆上しているかを思い知らされ、黙り込んだ。 「まったく……あたしの保護者を自称しているなら、被保護者に保護されなきゃならないようなこと、しないでよ……」 そう言うリナの悲しげな声を、ミリーナはこの後、ずっと忘れられなかった。 結局、ガウリイが壊した門扉の弁償やら、修道院長からのお説教のおかげで、リナとガウリイ、ルークとミリーナがゼルガディスの告げた家にたどり着いたのは、もう夕方近くなってからだった。 彼らと入れ違いに、修道女が二人、出て行ったが、片方は明らかに生まれたばかりの赤子を籠に入れて抱えていた。リナ、ルークとミリーナは立ち止まって、その修道女の後姿を見送ったが、ガウリイは一人で建物に入った。 ゼルガディスが、シルフィールの病室で彼らを待っていた。ほかに患者や妊婦はいなかったが、彼はフードもマスクもつけたままだった。 「今は眠っている。話はできない」 「彼女は無事か?」 ガウリイがベッドで眠るシルフィールを覗きながら尋ねる。 「ああ、やや早めの出産だったが、経過そのものはスムーズだった、と産婆が言っていた。一日休めば動けるようにもなるし、三日もすれば修道院の宿坊に戻れるだろう。もっとも、遠出をするだけの体力の回復には一カ月かかるが」 「そうか……赤ん坊は?」 ガウリイの質問に、彼以外の四人、リナ、ゼルガディス、ルーク、ミリーナに緊張が走る。しばらく絶句したゼルガディスは、答えないまま扉まで行き、ガウリイを手招きした。 「表に来てくれ」 自分がデリケートな話題に触れたことを知ったガウリイはおとなしく従った。 「里子に出した?!」 「声が大きい。少しは気を使え」 産婆の家から一ブロック離れた建物の陰で、ゼルガディスとガウリイが言葉を交わしている。 「だって……ついさっき産まれたばかりだろう?それで里子?じゃあ、シルフィールは赤ん坊を一度も抱いていないんじゃないか?」 「抱いたら別れが辛くなる。これはもうずっと前から決めていたことだ」 「ずっと……前から?」 「そうだ。彼女は赤ん坊を産むか堕ろすか、悩んでいた。産んでも育てられない。しかし罪もない命を殺すことは罪悪感が強過ぎる。結局、彼女が選んだのが、産んですぐに里子に出すことだ。今ごろは修道院の手配で、この町以外の子供のいない夫婦の手に渡されているはずだ」 「お前……もしかして、そのこともお前が手配したのか?」 「そのこと”も”?」 「彼女が修道院に身を寄せられるように手配したそうじゃないか」 「ああ……シルフィールは彼らにそんなことまでしゃべっていたのか」 ゼルガディスは、視線をガウリイから建物の角に隠れているルークに移した。ルークはミリーナに言われて、二人が往来でケンカなどしないように見張るために来ていたのだ。 「貴様……見下げ果てたぞ」 「え?」 ガウリイの低い声にゼルガディスが振り返ると、その頬にガウリイがはずした手袋の片方が叩きつけられた。 「決闘だ!俺は貴様を許さん!」 「何?」 「シルフィールを身ごもらせた挙句、彼女からその子供を取り上げる真似までして!俺は彼女の名誉の為に、貴様を殺す!」 「…………」 「決闘なら立会いが必要だろ?俺が引き受けていいぜ」 ルークもまた、シルフィールへの同情が高じて、ゼルガディスに腹ふくるる思いを抱いていた。ガウリイの腕なら、魔道と剣を兼ね備えた魔剣士でも敵ではない。彼がこの人非人を退治するのを見届けられるならもっけの幸いだ。 「……俺はシルフィールの名誉とやらを汚した覚えはない」 ゼルガディスが押し殺した声で言う。 「逃げるのか!」 「だが、彼女に対して負い目がないわけでもない。ガウリイ、お前が決闘という方法でしか納得できないのなら、彼女もそれを望むだろう」 「彼女の望みのために決闘を受けると言うのか?貴様なんぞに彼女の名を口にする資格はないぞ!」 「……ここはあまりに町中だ。少し離れよう」 ゼルガディスは静かに言って、ガウリイとルークを町から少し外れた空き地へといざなった。 |
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