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| 目 次 |
| 第1章 シルフィール |
| 第2章 ガウリイ |
| 第3章 ゼロス |
| 第4章 リナ |
| 第5章 昔なじみ |
| 第6章 ルーク |
| 第7章 レゾ |
| 第8章 アメリア |
| 第9章 ミリーナ |
| 第10章 ゼルガディス |
| 「じゃあリナ、気をつけて……って、お前なら心配はないな」 「ええ、ガウリイ。あなたも大変でしょうけど、がんばってね」 タラス・シティの宿屋の前で、リナとガウリイはごく自然に別れの挨拶を交わした。一緒に旅をするようになって二年以上。別れはもっと感慨の深いかと思われたが、見守るルークにもミリーナにも、二人は淡々として見えた。 ゼルガディスがゼロスの手で魔族と合成され、逃げ出してから三時間あまりが経ち、あたりはすっかり夕闇に包まれている。普通の旅ならこんな時刻に出発することはあり得ない。しかし、リナはゼルガディスの後を追うため、あえて夜の出立を決めた。 一方、ガウリイはタラス・シティに留まり、シルフィールに付き添うと言った。だから二人は別々に行動することになったのだ。 リナはガウリイたちに背を向けると、急ぎ足でゼルガディスが逃げ出した空き地へと向かった。 彼女が一度も振り返らないまま、町外れにたどり着いた時、空からルークが彼女の前に降り立った。しかし、彼女は歩調を緩めない。 「リナ、あんたこれで良かったのか?」 通り過ぎようとする彼女に並んで歩きながら、ルークが問いかける。 「これで、って?」 「ガウリイと別れてゼルを追うって……ゼルを追うのは分かるが、ガウリイを置いていくってのは……」 「ガウリイにはガウリイのしたいことがあるんでしょう。あたしに、それを止めてついて来て、と言う権利はないわ」 「……そりゃまあ、そうだが……俺が分からないのは、あんたたちのどちらも別れて悲しいとか、腹を立てているとか、そういうところが見えなかったことだ」 「へえ?あなたは別れが辛い?」 リナは急ぎ足のまま顔だけルークに向けた。 「当たり前だろう!大切な仲間だったら、別れが苦しいのは当然じゃねえか!もしもミリーナが俺と別行動を取る、と言ったら、俺はきっとミリーナと一緒に居る方を選ぶ」 「あたしとガウリイは、ミリーナとあなたじゃない」 これが強がりを言っているような口調だったら、ルークは驚かなかっただろう。リナのセリフは、まるでずっとそう考えてきたような落ち着いたものだったから、彼はとても驚いてしまった。 「おいおい?どういうわけだ?あんたは前からコンビ解消を考えていたってのか?」 リナはちょっと肩をすくめた。 「ルーク……仲間を思うなら、別れた方がお互いのため、ということもあるのよ」 「お互いの……ため?」 「あなたは、なぜガウリイが、シルフィールの元に留まる、と言ったのか、分かってないんでしょう?」 「…………」 ルークには答えられなかった。彼はシルフィールがガウリイに惚れ込んでいることを知っているだけに、ガウリイが彼女の気持ちを受け入れる、ということ以外の理由が思いつかなかったのだ。そんなことをリナに言ったら、彼女を傷つけるだけ。いくらドラまたでも、多感な少女の気持ちをいたずらに傷つけるのは趣味ではないし、下手に彼女の怒らせたらどんな目にあわされるか分からない。 「ガウリイはね、ゼルの代わりをしようとしているのよ」 「え?」 「ゼルはシルフィールを親切心から助けた。たぶん、彼女に逆境から立ち直ってもらいたかったんでしょう。彼も自分の望まない宿命を負わされた身だから―― でも、もう彼は彼女を支えることができない。たぶん、彼はかつての仲間の誰からも逃げ出したいんじゃないかしら?でも、シルフィールにはまだ支えが必要なのよ。分かる?」 ルークは一つ、うなずいた。 「ゼルがゼロスに細工されるキッカケを作ったのは、直接的にはガウリイだわ。だから彼は、ゼルに対する負い目として、シルフィールを支える責任を担う、と言っているのよ」 「じゃあ、ガウリイはシルフィールのことを、好きでも何でもないってのか?」 「恋愛の対象ではないでしょうね。彼にとっては保護するべき存在なのでしょうけれど……それは恋心から来る騎士道精神ではなく、自分で傷つけた友への義務感よ」 「……それじゃ、シルフィールがかわいそうだ……」 「だから、ガウリイは大変なのよ。あの脳みそクラゲがうまくやることを、あたしとしては祈るしかないわ。できれば彼に、彼女を愛して二人で幸せになって欲しい」 「あんたはそれでいいのかよ!」 「今度はどういう意味?」 もう、二人は夕刻にガウリイとゼルガディスが戦った空き地に近づいていた。 「あんたはガウリイのことを好きなんじゃないか、ってことだ!」 言ってしまって、ルークは少し後悔した。だが、リナは相変わらず落ち着いた口調で答える。 「好きだったわ……でも、今は違うの。シルフィールの件がなくても、あたしはきっといつか、彼と別れていたと思う」 「なんで?ケンカしたわけでもないだろう?」 リナは、決闘の場となった空き地に踏み込み、あたりの木々を見まわした。 「う〜ん、なんて言えばいいかしら?少しずつ、少しずつだけれど、彼もあたしも変わった、ということかな。あたしは大人になった。 タラス・シティに来る前に、あたしが名物料理を調べていたら、ガウリイに文句を言われたことがあったの。シルフィールのことを思えば、そんなのんきなことを言っていていいのか、ってね。 あたしは、彼女がどんな目にあっているか、想像しないわけではなかったけれど、ひたすら同情することが彼女のためにならない、と思った。でも、ガウリイはそう考えていなかった。あたしが彼とのズレを感じたのはその時ね」 ルークは、今日の昼、宿屋でシルフィールとゼルガディスについてガウリイとリナに説明したときに感じた、二人の間の歯車のずれのような印象を思い出した。 「ほんのちょっとしたズレだったのかもしれない。でも、あたしはそれがどんどん大きくなって――けして埋められない溝にまで広がるのを見たくなかった。今なら、あたしは彼がシルフィールの元に留まりたい、という気持ちを理解できるし、彼の望み通りにするのがいい、と思えるの。だから、今、別れるのがいいのよ。もっと後だったら、きっとあたしはガウリイに腹を立てるだけだったと思う。彼も、さっきの表情からすると、あたしが行くことを納得してくれているようだったし」 「……そうか。互いに相手の気持ちを分かっているから、納得しているんだな……だが、一つ。あんたはなんであのゼルガディスを追うんだ?ヤツのことを好きなのか?」 「そんなんじゃないわよ。あたしは彼に尋ねたいことがあるの」 にべもなく言っているようにみえて、実は少し声が裏返ったことをルークは聞き逃さなかった。 (素直じゃねぇな……) 心につぶやいたルークの表情に、それが表れたのか、リナが目くじらを立てる。 「何、人の顔見て笑ってんのよ!」 「え?いや、あんたが人を好きになる、なんて想像する方が馬鹿だった、って思ってね」 「何ですってぇ!」 「おおっと、やべぇ、やべぇ。ま、達者でやんな。俺たちはしばらくガウリイを見ててやるから」 リナが振り上げた手から逃れて、ルークはおどけた口調で謝った。リナは手を下ろし、小さく微笑む。 「あいつのこと、お願いね」 「ああ、俺も、ゼルガディスのことをあんたに頼む。本来なら俺が直接言わなきゃならないことなんだが、ガウリイの誤解の種を蒔いたのは俺だ。それを謝る機会がなかったから……」 「分かったわ。でも、あんまり気にしないで。済んだことより、これからを考えるのが大切なんだから」 「ゼルガディスもそう考えてくれたら、ありがたいんだが」 「大丈夫。あたしがそうさせるわよ」 リナの笑顔が輝くのを見て、ルークはこの少女がじきに大人の女性に脱皮することを知った。美しく、生気に満ちた魅力的な女に。大人になった彼女と共に居れば、ゼルガディスもきっと前向きに生きて行けるだろう、と確信して、ルークはリナに手を振り、ミリーナたちの待つ町へと帰って行った。 しばらくそれを見送ったリナは、やがてゼルが走り去った木立の間へと進んだ。 ゼルガディスは割とすぐに見つかった。 何の変哲もない木の根元に膝を立てて座り込み、その両膝に頭を埋めるようにしている。フードとマントにくるまっているので、暗い月明かりの下ではまるで白っぽい岩のようだ。 リナの足音に、ゼルガディスは頭を上げる。 「リナ……?」 「やっと見つけたわ、ゼル」 「どうしてここが?」 リナはにやっと笑うと、自分が歩いて来た木立の方を指差し、『明かり(ライティング)』で照らし出す。見通せる限りの木々は、派手に折れた小枝が垂れ下がり、ゼルガディスが走り抜けた後をトンネルの形に残していた。 「おかげで迷わずにたどり着いたわ。あなたに聞きたいことがあるのよ」 リナは昔のように、ためらいもなくゼルガディスに歩み寄る。その態度に、ゼルガディスは立ち上がって拒否するチャンスを失った。 「聞きたいことって?」 「あなた、シルフィールを修道院に預けてから、一人で探し物をしていたようね?何を探していたのかしら?」 「……それがあんたと何の関係がある?」 ゼルガディスが会話を拒絶しなかったので、リナは彼のすぐ隣に腰を下ろした。 「あたしはね、シルフィールを見つける褒賞として、神殿から持ち去られた宝物の一部をもらうことになっているの。シルフィールは見つかったけれど、彼女の様子じゃ宝物は持っていないようだし、盗賊どもが売りさばいたのならその行方を探して取り戻さないと」 「それで?」 リナは膝立ちになると、ゼルガディスの顔を覗き込んだ。 「あなたが探していたのって、その宝物じゃないの?」 ゼルガディスが苦笑する。 「悪いな。俺が探していたのは『宝物のうちの一品』だ」 「一品?何よ?」 「魔道書だ。合成獣についての記述があると聞いた」 「ふうん……で、その魔道書もやっぱり売り飛ばされたの?」 「ああ、タラス・シティの闇ルートで売られたらしい。しかも闇から闇に転売されて今はどこにあるのか……」 「でも、ある程度までは情報を掴んでいるんでしょう?」 「ああ……」 ゼルガディスは答えながらうつむいた。 合成獣(キメラ)の身体を元に戻す方法が見つかったとしても、魔族と合成された今、何になる? 人間から合成獣に変身させられた時も、己の宿命を呪い、他人を呪ったものだ。今回もリナたちから逃げ出したのは、前の自分を知っている人間たちから、身を隠したかったのに…… (不思議だ……リナと居ると、どうしてこうも落ち着いていられるのだろう?) 「ちょっと!聞いてる?」 突然肩を小突かれた。顔を上げると、少し怒ったような表情をしたリナの顔。 「ああ?……済まなかった。少し考えごとをしていて」 謝ってからゼルガディスは、なぜ自分が彼女に謝罪しなければならないのか、と理不尽に感じた。彼の身に起きたことを知っていながら、同情するでもなく、あくまで自分のペースでことを運ぼうとする強引さ。彼女はそのまま畳み掛ける。 「もう一度言うわよ。あたしはあなたと一緒に、その魔道書の行方を追う。あなたも協力してくれるでしょう?」 「………………は?」 「その魔道書とほかの宝物が一緒に転売されている可能性もあるわ。その筋の情報にはあなたの方が詳しいし、か弱い女の子一人で闇ルートについて調べるなんて危険過ぎるわ」 どこがか弱い、と突っ込みそうになって、ゼルガディスは、それが命取りになる、と黙り込んだ。彼の無言をリナは同意と受け取ったらしい。 「いいわね?じゃあ、今夜はここで野宿して、明日から早速調査に行きましょう!」 「ちょ、ちょっと待て!ガウリイはどうしたんだ?」 さっさとマントを地面に広げて横になる体勢のリナに、ゼルガディスは慌てた。 「ガウリイなら、シルフィールと一緒にいるって」 「…………!」 ゼルガディスは絶句した。そんな彼を見上げてリナは言う。 「悪いけど、先に眠るわよ。適当な時刻に起こして。見張りを交替するから」 「おいっ!」 「何よ?」 「あんた、何考えているんだ?俺は、ついさっき、魔族と合成させられたばかりなんだぞ?」 「それで?」 「……それでって……俺のことが恐ろしくはないのか?」 むしろゼルガディスの方がリナを恐れるように、じりじりと後ずさっている。 「どうして?あなた、別に変わったようには見えないけれど?」 「外見のことじゃない!俺の中の魔族は…………」 「あなたの中の魔族が?」 「……魔族は……」 リナに問われて、ゼルガディスは自分の中の魔族がどのように自分に影響しているのか、自覚していないことに気づいた。確かに、ゼロスへの恐怖は強かったが、あれは自分自身の感情ではなかったのか?ゼロスは魔を眠らせた、と言った。 「……ゼル」 呆然とするゼルガディスの肩に、リナは優しく手を置いた。ゼルガディスはその手を思わず片手で握り返す。 「俺は……本当に変わっていないのか?俺は俺のままでいられるのか?魔族のように、他人の苦しみや悲しみを食ったりしないのか?」 「ゼル。あたしは今まで、魔族と合成された人間を何人も見て来たわ。自我を破壊されて魔族に憑依された人間は、外見まですっかり変わったし、自我を保ちながら魔族の力を手に入れた人間は、外見は変わらなかったけれど、独特の雰囲気を持っていたの。あなたにはそのどちらもない。多分、ゼロスがやったことは、傷の治療のためだけ、であなた自身を変えるためではなかったのよ」 「……しかし……」 ゼルガディスはリナの手を自分の肩からはずさせ、両手を顔の前で組んでまるで祈るような格好をした。 突然、彼の手の間に、炎が生まれた。リナはそれを見て眉根をひそめる。 「俺は今、何の呪文も使わなかった。ただ念じただけで、炎を出すことができた……これが魔族の力――俺は、もう人間には戻れない……」 ぺしいいぃぃぃぃん! リナのスリッパはたきがゼルの後頭部にヒットする。 「な……何をっ!」 「あんたねぇ!何をさっさと諦めているのよ!魔族の力を得たって、あなたがあなたであることは変わらない。さっきも話した、自我を保ちながら魔族の力を得るために、あえて自分から魔族と仲良くなった人間は、自分の野望の意志は変わらず、強力な魔力を使ったわ。あなたはその魔族の力を利用して、自分の目的を果たせばいいじゃない!何も魔族に寄生されたからって、あなたがこれまでの目標を捨てる必要も、魔族みたいな行動を取る必要も、何もないわ!」 ゼルガディスはいきなり殴られた怒りも忘れ、目を丸くしてリナを見つめている。 「あたしはね、ある男が魔族と同化したのを見たことがあるの。彼は、あたしとガウリイに復讐するために、やはりあたしたちに復讐したがっていた魔族と一緒になったのだけれど、その時、一人の人間の中に、人間としての自我と、一緒になった魔族の自我が同居していた。でもね、結局は自分の子供を殺したくない、という人間の自我が勝って、彼はあたしたちに復讐を果たせないまま死んだの」 ここまで言って、リナはゼルガディスの襟首をぐいと掴み、自分に引き寄せた。 「あなたの中の魔族は、ゼロスが眠らせたって言ったじゃない。たとえそいつが目覚めたって、あなたの魂は勝てるはずよ。諦めたりしないで!」 しばらく二人は互いの目に見入っていたが、やがてリナはゆっくりとゼルガディスの襟を掴んでいた手を放した。 「あなたが混乱するのも仕方がないでしょうね。なまじ魔族と戦ってきただけに……でも、もっとあなた自身を信じて」 「…………」 「少し横になったら?休んだ方が頭もすっきりするでしょうし」 「でも、あんた、さっき、先に休むって……」 「あたしは大丈夫。見たところ、あなたの方が休息が必要なみたいよ」 リナに促されて、ゼルガディスはおとなしくマントにくるまり、地面に横になった。事態の急変に興奮して眠れないのではないか、と思ったが、予想以上に疲れていたのか、すぐに彼は眠りに落ちた。リナは寝息を立て始めた彼を見て、安心したようにため息をついた。 それから小一時間も経った頃だろうか。突然、ゼルガディスが苦しそうにうめき出した。リナが彼を起こそうと小突いても、寝返りを打ってうめき続ける。 「ゼル!目を覚まして!」 「うわっ!」 彼の目を覚まさせたのは、彼女の叫びよりも、彼自身の恐怖の叫びの方だったらしい。怯えた目であたりを見回し、リナを見つけると小刻みに震える手で自分の顔を覆ってしまった。 「どうしたの?!ゼル!」 「魔族が……目を覚ました!俺の中で暴れている!俺を食いつぶそうとしている!助けてくれ!」 この時、ゼルガディスは、またスリッパでどつかれると思っていた。そうして活を入れられると。しかし―― ふわり 柔らかく温かい腕が彼の肩を抱き、顔を上げると目の前に栗色の髪がすり寄って来た。 「……リナ?」 甘くどこか懐かしい香りが鼻腔をくすぐる。リナが彼を抱く腕に力がこもった。 「大丈夫。あたしがここに居る。あたしがあなたを信じてる。あなたは魔族なんかじゃない」 彼女の悲しみと切なさが、彼の中の魔族に流れ込んで行く。その温かな思いは、けして魔族にとって美味ではなかった。 戸惑う魔族を意志の力で押さえ込みながら、ゼルガディスはしっかりと、細く小さな身体を抱き締めた。 ようやく葛藤が静まると、ゼルガディスはわざとリナの顔を見ないようにして立ち上がった。 「ゼル?」 「俺は……一人で行く」 「どうして!」 「俺は……あんたの優しさに応えられない……俺と居たら、あんたは不幸になるだけだ」 「いんばぁす・すくりゅぅぅぅ・くらぁぁぁっしゅ!」 どげしっ! リナのひねり入りキックがゼルガディスの後頭部に炸裂し、彼は無様に地面に転がった。 「なぁに、カッコつけてるのよ!あたしが幸せになるかどうかはあたしが決めることよ!人にどうこう言われたかないわっ!」 「……あ、あのなぁ……こういうシリアスなシーンで、やるか、こんなこと……」 「んじゃぁ、あたしが『よよ』と泣き崩れて『行かないで〜』とか言うのを背中に聞きながら立ち去る、なぁんてシーンを演じたかったわけ?言っておくけど、そういうメロドラマのヒロインは、あたしは願い下げよ。あたしは欲しいものは断固手に入れる!それがあたしなの!」 「……欲しい……もの?」 リナはビッと彼を指差す。 「あなたよ」 「…………」 「あたしはあなたと居たいの。あなたがあたしをどう思おうと構わない。ただ、あなたと居たいのよ!」 彼女の真剣なまなざしに、決意の固さを読みとって、ゼルガディスは目を逸らした。 「……俺だって……あんたと居れば、少なくとも魔族に食いつぶされることはないだろう……だが……ダメだ。俺は……自信がない」 「言ったはずよ。あなたの事情がどうあれ、あたしはあなたと居たい、って」 ゼルガディスはうなだれ、黙っていたが、やおら彼女の膝にしがみついた。 「俺は……寒くてたまらないんだ。寂しくて苦して……恐ろしい。そんなところに優しくされたら……俺はあんたから離れられず……いや、あんたを放したくなくなってしまう」 「あたしもあなたを放したくないのよ」 「だが……俺はこんな身体だ。分からないか?俺だって男だ。好きな女性がそばに居たら……抱き締めるだけでは満足できない。だがそうすればあんたを傷つける。俺の身体は……」 「……馬鹿ね……そんなことでためらっているの?」 「……リナ!」 ゼルガディスがリナを抱く腕に力がこもり、彼の息遣いが衝動を抑えようと荒くなる。リナは一度身震いしたが、やがて彼の肩を手でそっと押し、放してくれるように促した。彼はためらうと同時に恥じ入った表情で、彼女を抱く腕を緩めた。 身動きができるようになると、リナはひざまづいて俯いたままの彼の顔に両手を添え、自分に向き直させる。そこには、悲しみと情念が渦巻く瞳があった。 じっとその目に見入り、彼女はまぶたを閉じて彼の唇にキスをした。 初め、ゼルガディスは彼女を押し戻そうと肩に手をかけたが、彼女が追いすがってくると、彼女を愛しく思う気持ちが心の中で爆発した。固く抱き締め、性急過ぎるくらいに熱い大人のキスを求める。リナは少し苦しそうに小さく顔を振ったが、彼の情熱から逃げようとはしない。 やがてゼルの手がリナの身体を愛撫し始め、ゆっくりと二人は夜に溶け込んだ。 ゼルガディスにはその叫びが聞こえた。 彼が抱くリナの声ではなく、彼の中で彼を食いつぶそうとしていた魔族の叫びが。合成獣であることの悲しみと苦しみ、信頼していた人に裏切られたことの絶望、魔族と合成されたことの恐怖、それらをすべて、リナへの愛が癒してくれる。彼女を愛することが、彼の心を幸福で満たし、彼女から愛される喜びが希望を生む。それらの強い感情が、彼に閉じ込められた魔族を切り刻んで行く。 (これで終りだ。お前はもう終りだ!) 生まれて初めて経験した満ち足りた時間の最後に、ゼルガディスは彼の中の魔族の自我が粉砕され、小さくいじけていくのを感じた。 彼の腕を枕にして眠るリナの髪を指に絡めると、それが二人を結ぶ絆の象徴であるかのように感じて、彼はそっとその髪に口づけした。 |
本文中でリナが語った、「リナとガウリイに復讐するために、やはりリナたちに復讐したがっている魔族と同化した男」の話は、アニメには取り入れられなかった、原作第6巻「ヴェゼンディの闇」のエピソードです。 |
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