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| 目 次 |
| 第1章 シルフィール |
| 第2章 ガウリイ |
| 第3章 ゼロス |
| 第4章 リナ |
| 第5章 昔なじみ |
| 第6章 ルーク |
| 第7章 レゾ |
| 第8章 アメリア |
| 第9章 ミリーナ |
| 第10章 ゼルガディス |
| アトラス・シティは活気に溢れていた。通りの両側に露店が立ち並び、威勢の良い呼び込みと、店を物色する人々のざわめきが混ざった喧騒に満ちている。 「あっ!珍しい!トゥルスの水!」 リナが魔法屋(マジック・ショップ)の前で足を止めた。 ロード・オリヴァの城での攻防戦の後、ロードは使い物にならなくなった城を捨て、領地の別宅へ撤退することになった。そこで法律的に、城のあった谷の所有権を主張する証拠を揃え、王に訴える手段に方向転換したのだ。戦闘用に雇われた傭兵はその場で契約切れになり、一部の兵はそのままロードの護衛として領地まで同行することになったが、リナとゼルガディスは三日分の給金と、特別の働きに対する褒賞とを受け取り、ザッカリー老人とアトラス・シティを目指す旅に出た。老人が、ゼルガディスに支払いを約束した暗殺の代価を受け取るために。 ちょうど彼等三人がアトラス・シティにたどり着いた時、町の中でも商店の並ぶ地域は最も混み合う時分だった。 「ねえ、ちょっとこの店、見て行きたいんだけれど……ゼル?」 「……ザッカリーが居ない」 「え?」 「人込みではぐれたらしい。俺は探しに行ってくるから、あんたはここで待っててくれ」 「う……うん、分かった」 ゼルガディスは混雑している通りに姿を消した。見送ったリナは、二手に分かれて探した方が良かったかな、などと思いはしたが、後で合流するのが大変だし、この店にはほかにも用があった。 「いらっしゃいませ〜」 愛想笑いを浮かべている店の主人の前に進み、彼女はマントから皮袋を取り出す。中から宝石の護符(ジュエルズ・アミュレット)を一つ出し。 「これ、買って貰えないかしら?」 店の主人とリナの熱を帯びた値付け交渉が始まった。 「はい、毎度ありい!」 リナは、三個の護符と交換に、魔法薬トゥルスの水を手に入れ、ほくほくしている。彼女にとっては、名前は知っているが実物を見るのは初めてだったし、いろいろと研究してみたい魔法薬(マジック・ポーション)の一つだったのだ。 ほかにめぼしいアイテムはないか、と店の中を改めて物色していると。 「いらっしゃいませ〜」 また主人が店の入り口に愛想笑いを送る。つられてそちらを見て。 「ああああぁぁぁぁっ!ゴロツキのルーク!」 「なななな……なにぃぃぃぃっ!なんでてめぇがこんなとこに……って……あれ?」 いつもながら短い黒髪をバンダナで抑え、軽装鎧(ライト・メール)を着けた姿のルークが、セピア色の目をいぶかしげに細めて店内をぐるりと見渡した。 「何よ、変な顔して」 「お前、一人か?」 「あ……ゼルのこと?彼、今、町で人を探しているの。見つけたらここで落ち合う約束になっているから。あなたの方こそ、ミリーナは?愛想つかされた?」 「バカ言うなっ!ミリーナは俺たちのために宿を取りに行ったんだっ!」 「でも、部屋、別でしょ」 「て……てめぇっ!……んじゃ、何か、お前さんはアイツと同室なのかよっ!」 「うん」 「…………ぐっ」 「もう一人、おじいちゃんがくっついてるけどね」 「はぁ?」 結局、リナとルークは二人して、魔法屋の入り口脇に腰を下ろし、それまでのイキサツなどを話し合った。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「こんなところに……」 「しっ、静かに!」 ようやく人家の少ない裏路地でザッカリーの痩せた後姿を見つけたゼルガディスだったが、老人は振り返りもせず厳しい声で彼を制した。 「? ? ?」 足音を忍ばせて老人の横に並び、彼が見ている先を見やると…… 「!」 そこでは三匹の毒蛇が、猫ほどの大きさもあるネズミをエジキにしているところだった。一匹の蛇が一匹ずつ、既に飲み込んでいるものもあれば、今、まさに口にくわえているものもある。 「……あんた、毒蛇を持って来ていたのか……」 「いい加減、奴等にも食事をさせてやらねばならん時期なのでな。お嬢ちゃんはわしがこんなものを連れているのを知ったら、即座に攻撃呪文をくらわすじゃろ。だから黙っておった」 「賢明だな……すると俺たちからはぐれたのはわざと、か?」 「そうじゃよ。これだけ人の多い町ではネズミも太っておる上に、獰猛な蛇に襲われる経験はしとらんから、狩りも簡単じゃ」 そう言ううちに、三匹の蛇はエジキを平らげ、丸々とした腹を力任せに押し潰しながら、ザッカリーの方へと這って来た。老人はそれらを可愛い子猫でも抱くように抱き上げ、皮袋に丁寧に収める。 「ザッカリー、あんたは暗殺の代償として、俺に、例の合成獣についての魔道書のありかを教える、と言ったが、この町にどこにある?、そろそろ教えてもらっても良かろう」 「あれはここの闇オークションで売り払われた」 「……ちょっと待て!ここで売り払われた?ということはこの町にあるかどうか、分からないじゃないか!」 「じゃから、それは調べれば分かるじゃろう……ただし」 「ただし?」 「あの魔道書はおぬしの役には立たぬ」 「…………」 「闇オークションにかける前、魔道の知識のあるわしの意見をロードが求めてな、中身を読んだのじゃよ。数々の合成獣の記録ではあったが、それらが作られた技術に関しての内容は乏しく、ましてや、合成獣を元に戻す方法など、手がかりさえなかった」 ゼルガディスは俯いた。覚悟はしているが、やはり落ち込む気分は変わらない。 「……待てよ?ザッカリー?あんたは確か、『ほかの者には何の役にも立たないが、お前には非常に貴重なモノ』と言ったのを覚えているぞ。中身を知っていながら嘘をついたのか?」 ――騙したのだったら許さない。ゼルガディスは拳を握り締める。 「すまん。おぬしをここに連れて来る口実じゃった。本当におぬしに見せたいものはほかにある」 「何だ?」 「とある魔道士の遺産――一般人にはくずの役にも立たぬが、それなりの魔道知識のある者には、宝の山――どうじゃ、興味はあるか?」 「む……」 ゼルガディスはうめいた。魔道書の行方を追っても無駄なら、これ以上、シルフィールの神殿から奪われた宝物を追いかける意味はない。だが、リナはその宝物の一部を報酬として受け取るつもりで旅をしている―― 彼女を納得させるには、それなりのお宝を用意しなければならないが…… 「それは……ここから近い場所か?」 「アトラス・シティから歩いて二日半、といったところじゃ」 「行ってみるだけ行ってみるか……リナが喜ぶかもしれないし……」 少し背中を丸めているゼルガディスの肩を、ザッカリーがいたわるように叩いた。 「まあまあ、そうがっかりしなさんな……ところでゼルガディス、おぬし、あのお嬢ちゃんをそんなに好きか?」 「なっ、何をいきなり?」 「好きならな、それをモノでだけ伝えようというのは考え物じゃぞ。特に、彼女のように誠意を込めておぬしを慕ってくれているような娘には、おぬしも誠意で答えるべきじゃ」 「俺が彼女に誠意がない、とでも言うのか?」 「そうは言わん。だが、おぬしはその誠意をどのように見せている?」 「……彼女には気を使っているつもりだが……」 「彼女はおぬしに気を使ってもらいたいなどと思ってはおらんよ。それぐらい分かるじゃろう?」 「…………」 「おぬしは、彼女がおぬしの気持ちを分かっている、と思って手を抜いておる。もっとはっきり、彼女におぬしの気持ちを伝えろ。まったく、そういう不器用なところまで似おって……」 言いながらザッカリーはゼルガディスの先に立って歩き出す。若者は老人の最後の言葉が何を意味しているのか、と、いぶかりながら、黙ってついて行った。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ところでさ……ガウリイのことだけど」 「……ええ」 魔法屋の入り口のすぐ外、舗道の端に並んで腰を下ろして、ルークとリナは話し込んでいた。 「俺たちがタラス・シティを離れる頃、ヤツはシルフィールと正式に婚約した……」 「……そう」 リナがため息混じりに相槌を打つと、ルークは少し彼女の方に身を乗り出した。 「あんたはそれでいいのか?」 これにリナは、びっくりして大きな目をさらに大きくして。 「いいわよ。全然、構わないわ」 あまりにあっさりと言うものだから、ルークは何も言えなくなった。 「……何があったの?」 「えっ?」 「だから、ガウリイが何か言ったの?あなたが私に、ガウリイとシルフィールの結婚に異論を唱えることを期待していた、その理由は、何?」 「……まいったね」 ルークは頭を掻いた。 「ガウリイは、結婚については何も言わなかった。だが、俺たちが出発する、と言うと、……その、なんだ……『羨ましいな。また旅に出られて』って……」 「ふうん?……でもそれだけで、なんであたしがガウリイの結婚に反対したらいい、と考えたの?」 「だってよ……ガウリイはずっとあんたと旅をしていたんだろ?ヤツはまた旅に出たい、ってのは、つまりあんたと一緒の旅がまたしたい、ってことなんじゃないのか?」 リナは軽く肩をすくめた。 「違うでしょ。ガウリイがいつから傭兵をやっていたのか聞いたことはないけれど、彼、あたしと会う前からああいう暮らしをしていたと思うわ。サイラーグにも昔行ったことがあったそうだし。だとしたら、もう放浪が身についているのよ、彼」 「……つまり、一所に留まるのが辛い、と?」 「あなた、ミリーナが望んだら、今すぐ、どこかに腰を据えられると思う?自分で」 「俺は、ミリーナが望むなら、どんなことだって…………」 ルークは断言できなかった。ミリーナはそんなことを望まない、望んで欲しくない、と思っている自分に気がついて。 「あなたはミリーナが自分よりも大切なのでしょう?それなのに、今の『宝探し屋』がやめられない。ましてやガウリイは……保護者の義務感だけじゃ、ね……」 「……そこまでガウリイのこと、分かっているなら、なんで……」 「今のあたしなら、ガウリイとはいい友達になれるでしょうね。たぶん、ガウリイもそのあたりは分かるんじゃないかしら?とにかく、彼がもしシルフィールの許しを得て旅に出ても、あたしは彼に保護者になってもらう気はないわ」 「シルフィールがガウリイの旅を……許すか?」 「ガウリイが望んだら、ね。彼女、そういう人よ。そして彼が帰って来るのを信じて待ち続けるの。ガウリイもきっと、そんな彼女のところにいつか帰るわ」 「保護者の義務感で、か?」 リナは両手を伸ばして伸びをした。 「……旅の空で彼女のことを考えて……そして自分には彼女がふさわしい、彼女のそばに居たいって思って……そして帰る…………彼、そういう風にしか気づくことができないと思うわ。自分の気持ちに」 「…………そう……かも知れねえな……」 ルークがあぐらをかいた膝に目を落とした時、二人の前に一組の影が近付いて来た。 「お前は?」 顔を上げたルークの目に、背の高い白いマントに身を包んだ男と、反対に小さく痩せた老人が映った。 「ゼルガディス!」 叫んで立ち上がり、そのまま硬直するルークを尻目に。 「ちょうどこの店でルークに出会ったのよ。ミリーナも一緒だけど、宿に居るらしいわ」 「そうか……遅くなって悪かった」 「いいのよ、おかげでいろいろな話もできたし。ねえ、ルーク」 リナに話を向けられて、ルークはようやく、自分が何をするべきなのか、覚悟を決めた。 「済まなかった!許してくれ!」 ゼルガディスに頭を下げる。 「…………は?」 間の抜けた反応に、ルークは戸惑いながら。 「だから……ガウリイがあんたのこと誤解したのは、俺のせいだから……だから謝って……おい、リナ=インバース!あんた、俺が頼んだ伝言、伝えなかったのか?」 「あ?ああ、だって〜。あんまり楽しい毎日だったから、わざわざ嫌なこと思い出す暇なんてなくてね〜」 「おい……リナ……(汗)」 ゼルガディスがうろたえる。 ルークは軽く頭を振って渋い顔をして見せた。 「ああ、そうかよ、そうかよ。仲のいいことでけっこう!まったく、こちとらずっと気に病んで来たのが馬鹿馬鹿しいぜ」 「あたしは言ったはずよ、『これからを考えるのが大切なんだから』ってね」 ルークの表情が、ひどく驚いたものから、彼には似つかわしくない優しげな笑顔に変わった。 「そう……だな。俺とミリーナにとっても、ガウリイにとっても、あんたたちにとっても、大切なのは未来なんだよな……」 彼はシャツで右手をこすると、その手をゼルガディスに差し出した。 「俺はミリーナのところに行って、明日から仕事を探す――たぶん、あんたたちと会うことは無いだろうが。達者でやってくれ」 ゼルガディスはごく自然に、ルークの手を取った。 「ああ、あんたたちも」 ルークはリナとザッカリーには手を振っただけで、通りの向こうに姿を消した。 「俺たちも宿を取るか」 「うん」 その夜、ゼルガディスは宿の部屋でリナに、予定を変更してアトラス・シティの郊外の村に向かうことを告げた。ザッカリー老人は階下の居酒屋で飲んでいる。 「魔道書は俺には役に立たないそうだ。それよりは、そのある魔道士の遺産とやらの方が魔道的価値もありそうだし……結局、神殿の宝物を探すのは諦めることになるが、いいか?」 「あたしは構わないわよ。ゼルが行きたいところに行くから。お宝に巡り会えたら、それはそれでラッキー、ってとこね」 思ったよりも簡単に彼女が同意したので、ゼルガディスはほっとした。 「ところで……これを……」 彼は懐からリボンのついた小さな包みを取り出し、リナの手を取ってその包みを受け取らせる。 「何、これ?」 「気に入って貰えたらいいんだが……」 少し照れくさそうに俯いている様子に、リナは真っ赤になり鼓動が早くなった。 「プ、プレゼント?本当?」 「……ああ」 「嬉しい!何かしら?」 彼女は急いでリボンを解き、包みを開ける―― 中には緑の皮箱に、赤い宝石のついた指輪が一つ。 「綺麗!ありがとう!」 箱から指輪を取り上げ、目の前にかざしたリナは、その指輪の内側に文字が刻印されているのに気づいた。 「……Zから……Lへ……って、これ、まさか!」 あたふたしている彼女を、ゼルガディスはそっと抱き締めた。 「……俺のそばに居てくれ。一生」 「……ゼ、ゼル」 「あんたを好きだ。離さない。だから……」 「……うん」 「だから……結婚してくれ。……今は約束だけでいいから」 「うん!うん!」 リナは涙をこぼしながら、何度も彼の腕の中でうなずく。ゼルガディスの手が彼女の頬の涙をぬぐい、顔を上げさせる。 互いの瞳を見詰め合い、同じ喜びを分かち合っていることを確かめて、二人は唇を重ねた。いたわりながら、相手を強く欲する口づけがいつまでも交わされていた。 |
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