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この作品は徹頭徹尾ゼルリナです。それをご了承の上お読みください。

韓国語バージョン

目 次
第1章 シルフィール
第2章 ガウリイ
第3章 ゼロス
第4章 リナ
第5章 昔なじみ
第6章 ルーク
第7章 レゾ
第8章 アメリア
第9章 ミリーナ
第10章 ゼルガディス




悲しみの恋人たち

第7章:レゾ

 「ここじゃよ。封印されて以来十余年、誰一人入ったことはないはずじゃ」
 ザッカリーが足を止めたのは、蜘蛛の巣が張ったり、入り口のそばまで雑草に覆われた平屋の建物だった。ただし、魔道の研究に使われていたらしく、壁は厚く石と漆喰で固められている上に、魔道的に強化されているらしい。扉も窓も、呪文で閉じられていて、頑として人が入ることを拒んでいる。
 「ちょっと!これじゃぁ、封印を解かないと入れないじゃない!」
 リナが文句を垂れる。
 老人は平然と。
 「鍵ならゼルガディスが持っておるじゃろうて」
 「俺が?」
 「ここはレゾの研究所じゃった建物じゃよ」
 「!!!」
 赤法師レゾ――
 現代の五大賢者の一人と謳われ、白魔術はおろか、精霊魔術、黒魔術まで究めたと伝えられる伝説的人物。彼はどこの国にも仕えず、各地を放浪しては人々の病を癒して来たが、ここ十年はその姿を見た者も少ない。
 しかし、ゼルガディスはその十年間のレゾを知っていた。彼自身がレゾの血筋だったためだ。しかもレゾの最後の三年間は、レゾの手先として働いていた……
 「俺がレゾの血筋だからと言って、鍵を持っているとは限らない。俺はレゾがこんな研究所をもっていたことも知らなかったからな」
 ゼルガディスが言うと。
 「おぬしの身体にはわずかでもレゾの血が入っておるじゃろう。それに、おぬしがいつも着けているブローチ、それはレゾから与えられた護符ではないか?」
 「そうだが……」
 「レゾの血を引き、レゾの魔力で作られた護符を持つ。これで恐らく封印は解ける」
 「恐らく……って、あなた、封印の解き方知らないの?」
 リナが尋ねると、ザッカリーは呆れた顔をした。
 「おいおい、いくらわしがレゾと親密だったからと言って、魔道士が自分の研究成果を収めた場所の封印まで教えると思うか?」
 「ちょっと待ってくれ。話を整理したい」
 割って入るゼルガディス。
 「ザッカリー、あんたはロード・オリヴァの城で、俺の仕事の代償に、『ほかの者には何の役にも立たないが、お前には非常に貴重なモノ』を提供すると言った。すると、あんたはこの建物の中に何があるのか、知っているのか?それともただ単に、レゾの遺産のありかを知ることだけが、俺にとって貴重だと言うのか?」
 ザッカリーはひょいと肩をすくめ、ちょこちょこと玄関前の階段まで進み、そこに腰を下ろした。
 「わしはこの建物でレゾが行っていた実験の内容を知っておる。何せ、その研究を終了する、とレゾが決めた時、彼はわしにその研究内容の口述筆記を頼んで来たからじゃ」
 「……そんな?」
 「まさか!」
 リナとゼルガディスは口を揃えて驚きを露わにする。魔道士たる者、自分の研究を他人――特に同じ魔道士に明かすことはまずない。研究を奪われる危険があるからだ。それはレゾも同じだろうと二人とも考えていた。
 「わしも驚いたよ。だがレゾは『自分はもうこの研究から手を引く。だが、将来、誰か他人の研究に役立つかもしれないから、成果を残したい』と言うての。それでわしも引き受けたのじゃよ」
 「で?その書き記した研究成果をここに封印したの?魔道士協会に発表もせずに?それじゃ何のために記録したのか、意味がないじゃない」
 「内容そのものが、あまりに片寄っておったのでな。魔道士協会に持って行っても相手は処遇に困ったじゃろうて」
 リナの疑問にザッカリーは淡々と答える。
 「ああ、そうか……レゾは確か自分の眼を開くことに熱心だったから……でも、見えない目を開く研究ならけっこう役に立つわよね……」
 「おぬし、レゾを知っておったのか?」
 今度はザッカリーが目を見開いた。
 ゼルガディスとリナは顔を見合わせる。
 「リナは……俺と一緒にレゾの最期を看取ったんだ」
 「ほう?もう嫁を紹介しておったのか?」
 『そんなんじゃない!』
 声をそろえて反論したそのすぐ後で、二人はまた顔を見合わせてリナは真っ赤になり、ゼルガディスも慌てて視線をそらす。
 その様子を面白そうに眺めていたザッカリー老人が、ふっと目を細めた。
 「目の治療の研究なら、確かに魔道士協会も喜んで受け入れたじゃろう。じゃが、ここでレゾが研究しておったのはそういう類のものではない……平たく言えば、合成獣(キメラ)の研究じゃよ」
 「な!」
 リナは叫び、ゼルガディスは唇を噛み締める。
 「十年以上前……そんなに昔から合成獣(キメラ)の研究をしていたのか……」
 「しかも、ただ合成獣(キメラ)を作る研究ではない。レゾがここでやっておったのは、一度作られた合成獣、つまり一度魔法で生み出されたものを、元の存在に戻す、という研究じゃ」
 今度は、リナもゼルガディスも絶句した。ザッカリー老人は淡々と語る。
 「レゾは、その研究の中から、『普通の状態ではないもの』を『普通の状態』に変換する方法を模索しておったようじゃ。つまり、生まれつき開かぬ自分の目を、普通に開く方法の手がかりをえようと。じゃが、結局は行き詰まって手を引くことになった」
 「……ということは、レゾにも合成獣(キメラ)を元に戻すことはできなかったわけだな?」
 「いいや、小さな動物を核とした合成獣(キメラ)では成功したというておった」
 リナがゼルガディスの肩に手をかけ、ゼルガディスは肩に置かれた彼女の手を握った。
 「しかし、結局その方法では、うまれつきの不具合を治すことは不可能だと分かったので、研究を放棄したわけじゃよ」
 ザッカリー老人は腰を下ろしていた階段から立ち上がり、ゼルガディスを見上げる。
 「どうじゃ?おぬしが人間に戻る方法そのものではないが、魔道を使うおぬしと、そちらの魔法オタクのお嬢ちゃんなら、ここの資料を研究して何らかの手がかりを得られるのではないか、と思うたわけじゃよ。まさにおぬしにとっては金銀財宝よりも貴重じゃが、一般人には何の価値もないものじゃろう?」
 「……ザッカリー!」
 ゼルガディスは一歩踏み出し、手を差し伸べて老人の手を取った。
 「ありがとう!本当にありがとう!俺はずっと長い間、手がかりさえつかめなくてあちこちをさすらって来た。難しいかもしれないが、手がかりになりそうなものに巡り会えたのはこれが初めてだ!」
 心からの感謝の言葉に、ザッカリー老人も顔をしわくちゃにして喜びを表している。
 「ちょっと!まだ浮かれるには早いわよ!」
 ニコニコと笑顔を浮かべたリナが、それでもツッコミを入れる。
 「まずはこの扉!建物に入らなくちゃ始まらないでしょう?それに、ザッカリーが口述筆記した、という資料が本当に無事かどうか――確かめなくちゃ」
 言われて気づいたのか、ゼルガディスが慌ててザッカリーの手を放し、玄関への階段を上がった。
 「……で?」
 扉の前で立ち尽くしたゼルガディスが困ったようにリナたちを振り返る。
 「どうやったら封印を解けるんだ?ザッカリー、呪文か何か、知らないか?」
 「知らん」
 「だぁっ!もう!何をぐだぐだ言ってるのよ!ザッカリー、この扉、レゾの血と魔力を受け継いだ人間が開けられるってわけね?!」
 「多分」
 「じゃあ、ゼル!いい、封除(アンロック)の要領で精神集中して、こう唱えるのよ。『我が行く手を阻む扉よ。我が血と魔力の縁に従いて、我に道を開け』」
 「我が行く手を阻む扉よ。我が血と魔力の縁に従いて、我に道を開け」
 ゼルガディスがリナの言葉を復唱すると、彼の胸についたブローチの宝石が輝き、その光が扉の取っ手に照り映える。彼が取っ手に手をかけると、扉は難なく開いた。

 「これは、資料を調べる前に掃除しなくちゃね〜」
 『明かり(ライティング)』の光に照らし出された埃に眉をひそめながらリナが言う。彼女の立つ戸口から見える室内は、左右の壁の間に人一人が立てるくらいの幅を残して、書棚が林立している。向こうに見える壁にも書棚が並び、その全てに魔道書が収められているのだ。床には踏み込むのを躊躇するくらいにほこりがたまっている。
 「ザッカリー、あなたも凄いものね。これだけの魔道書を書き上げるとは」
 リナは隣に立つ老人に言った。
 「わしはただ、レゾが言うことを書き留めておっただけじゃよ。わしは字を書くのが早かったのでな、それでも一年近くかかったよ」
 言いながらザッカリーは埃をものともせず部屋に入り、一冊の魔道書を手に取って戸口のリナとゼルガディスのところに戻る。開いたページの皮紙は日にさらされたことがないためかまだ青白く、文字を記したインクも黒々としていた。
 「たぶん、どの書物もこれのような状態で読むのに支障は無いじゃろう。唯一の問題は、わしが合成獣に関しては門外漢のため、時々用語が分からず、当て字で書いたことじゃ。それと、当然のことじゃが、呪文に関しては理論だけで具体的な詠唱は書かれていない」
 「あ、心配しないで。呪文の組み立てなら得意だから」
 リナはあっさりと言う。ザッカリー老人はにやりと笑った。
 「さすがはリナ=インバース。まあ、おぬしが呪文の組み立てを得意とすることは、さっき、扉を開く呪文を即座に編み出したことからもよくわかったよ……頼むぞ。きっとゼルガディスが人間に戻る方法を見つけてやってくれ」
 リナもゼルガディスも、老人がそれほどゼルガディスの身を案じていた気持ちを初めて聞かされ、少し驚いた。これまでザッカリー老人は、あるがままのゼルガディスを受け入れている雰囲気だけで、彼の境遇に心を痛めている素振りは一度も見せなかったのだ。
 老人は今度は、ゼルガディスに向き直る。
 「……ゼルガディス。レゾの手でこんな姿にされたおぬしにこんなことを言うても信じられぬじゃろうが、レゾはのう、おぬしのことがとても大切じゃったんじゃよ」
 「!」
 「おぬしが生まれた直後、レゾに会った時、彼は本当に幸福そうにおぬしのことを話しておった。レゾがあれほど浮かれている姿を見たことは無い」
 「……ま、待てよ!どうして俺をこの姿にしたのがレゾだと?俺はそのイキサツについては何も話しちゃいないぞ」
 ザッカリーは魔道書が詰まった書棚を顎で示す。
 「わしはレゾが合成獣を元に戻す研究をしていたことを知っておる。レゾがどれほどおぬしを大事に思っていたかも。そのレゾが、おぬしが誰が他人の手でそんな姿にされたのだとしたら、放っておくはずが無いし、おぬしもきっとレゾに助けを求めたはずじゃ。おぬしがレゾの最期を看取るまでそばにいながら、その姿であり続けた理由は一つ。レゾがおぬしをその姿に変えた。それしか考えられん……じゃがな……」
 老人はくるり、と書棚の方に身体の向きを変えた。
 「何がレゾをそんな行為に駆り立てたのかは知らん。じゃがわしは、レゾがおぬしを大切に思う気持ちを最期まで無くさなかった、と思っとる。きっとレゾは臨終の時、おぬしをその姿のまま置いて逝くことが悔しかったことじゃろう。その彼の思いが、ロード・オリヴァの城に居たわしの元におぬしを導いた、と信じたいのじゃよ」
 「……ザッカリー……」
 ゼルガディスは老人の後姿に、ふと、赤い魔道士の姿を重ねた。いつも、心に浮かぶその姿は、底知れぬ恐ろしい笑みをたたえているのだが、この時、彼が見たのは、どこまでも穏やかで優しげな微笑だった。
 一方、リナもレゾの最期の言葉を思い出していた。
 感謝と謝罪――感謝は、彼の魂を魔王から救ったリナへのものだっただろう。だが、謝罪は?魔王に惑わされてゼルガディスを変身させた自分に気づき、深く後悔して彼に謝りたかったのでは?
 「あんたは……レゾの本当の友人だったんだな……」
 「多分、な……わしはレゾの奇妙にお茶目なところが好きじゃった。彼も、わしが彼を賢者としてたてまつるのではなく、本当の意味で尊重してくれている、とわしとの付き合いを喜んでおった」
 ゼルガディスはため息をついた。
 「不思議だ……彼に友人が居たと知って、何となく安心した」
 ザッカリー老人が振り返る。
 「俺は、レゾとの問題にはもうこだわっちゃいない。彼は死んだ。それなのに彼への憎悪に心を焦がせば、解決は見つからず、俺自身が腐ってしまう。そんなのは御免だ。今、俺の心を占めているのは、人間の身体に戻る方法を見つけることと、人間に戻ってリナと一緒に暮らすことだけだ」
 聞いていたリナは耳まで真っ赤になった。
 「もう俺はレゾを憎んではいない。むしろ、この貴重な資料を残してくれたことに感謝している。そして、ザッカリー、あんたのところにレゾの気持ちが俺を導いた、ということも、俺は信じたい」
 ザッカリーは得心した笑みを浮かべ、ゼルガディスとリナの腕を交互に軽く叩いて、部屋から出ると、そのまま廊下を出口の方へ歩き出す。
 「どこへ行く?」
 ゼルガディスが小さな背中に声をかけた。
 「おぬしへの報酬の支払いは済んだ。わしの用は済んだから、もう立ち去るよ。後は仲良し二人でうまくやってくれ」
 「ちょっと待った!」
 「ほ?」
 リナに呼び止められて、ザッカリー老人は振り返った。
 「まだ未払い分があるわよ」
 「お……おい、リナ」
 「未払い分?」
 ゼルガディスはおろおろし、ザッカリーは目を見開く。
 「そう!本来、ゼルの仕事が済んだらすぐに支払われるはずだった報酬がここまで遅れたのよ。その分の利子、払ってもらわないと。そうね。現金で、とは言わないわ。ここの掃除、手伝ってちょーだい」
 どて。
 もうもうと埃をたてて、ゼルガディスとザッカリーが倒れ伏した。

 「まったく……パターンから行くと、わしはあのままおぬしら二人を残して立ち去り、おぬしら二人はやっと水入らずで過ごすはずではないか?なのに、なぜこんなことに……」
 文句を言いながら、老人は窓の板戸を雑巾でぬぐっている。レゾの研究所だった建物は、封印と同時に窓は全て漆喰(しっくい)で塗り込められいた。それを今、ゼルガディスとザッカリーは、漆喰をはがして通気と採光をよくしようと格闘しているのだ。
 すでにここにたどり着いて二日が過ぎていた。
 「……まあ、その分、リナの手作りのシチューが味わえたんだ。俺は、あれはリナ独特の感謝の気持ちだと思う。手料理であんたに礼を伝えたかったんだろう」
 「ふむ……あのシチューがなかなかうまいことは認める。じゃったら、最初からそう言うてくれれば、遠慮無くおかわりできるんじゃがな」
 「はは……じゃあ、今夜は俺から彼女に言っておくよ」
 ゼルガディスにとって初めて手に入った人間に戻る方法の手がかりに興奮しているのか、彼はずっとうきうきとしている。
 「なあ、ゼルガディス……レゾは破滅したのかの?」
 それまでとまったく変わらぬ口調で発せられた言葉に、ゼルガディスが漆喰(しっくい)に差し込んだ金べラを動かしていた手を止めた。
 「……いまさら……聞くのか?」
 「すまん。前はおぬしがレゾを恨んでおるじゃろうから、聞いても答えてもらえんと思うておった。おぬしが、もうレゾを憎んでいない、と言っておったから、それなら、聞かせてもらいたいんじゃ」
 「そうか……しかし、あんた鋭いな。レゾは自ら破滅を招いた……ただ」
 「ただ?」
 「その始末は自分自身でつけた。俺もリナも、今、生きているのは、レゾの良心が最後の瞬間、勝ったからだ」
 「そうか……そうじゃな、そうでなければ、彼の思いがおぬしをわしのところまで導くことはなかったじゃろうて。うん、うん、よかったなぁ」
 レゾの死を「よかった」と表現されるのを聞いて、ゼルガディスは複雑だった。自滅は当然、という思いと、魔王を抑えた強い意志への尊敬……そして、たった一人の肉親への情愛が混ざり合い、自分でも訳がわからなくなる。それでも、このザッカリーと話していると、レゾに対する苦い思いが薄らいでいく気がした。
 「ザッカリー。あんた、ここを出たらどうする?」
 「そうじゃな。田舎ではまだまだ毒蛇の害に悩んでいる地域はある。そういう村に行って落ち着くつもりじゃ」
 「ロード・オリヴァの元には戻らないのか?」
 「あそこに戻っても、わしが本当にしたいことはできんからのぉ」
 百歳を二十以上も越えているはずなのに、まだやりたいことがある、という老人に、ゼルガディスは目を見開いた。
 自分が今やりたいことははっきりしている。だが、その先はどうだろう?リナと一緒に暮らす、としても、どう生活して行くのか?傭兵になるのか?だが、今の自分の魔力は、合成されている邪妖精(ブロウ・デーモン)と魔族のものだ。魔法が使えなくなったらどうする?
 「おぬしは今、目先のことだけ考えておっていい」
 黙り込んだ彼の心を読んだように、老人が言う。
 「若い頃は目先のことを考えろ。わしのように先がなくなったら、その残された時間をどう生きるか、考えなくてはならんが、おぬしはまず、目の前のことだけ考えていればいい」
 「……ああ。じゃあ、まずはこの窓の漆喰(しっくい)はずしだな」
 努めて明るく言う若者に、老人は優しい笑顔を送った。

 一週間でレゾの研究所は普通の生活ができる程度にまで片付いた。
 老人はそろそろ潮時、と立ち去り、リナとゼルガディスは、手分けして大量の魔道書の内容の確認作業に入る。
 「けっこう、きちんと論理立てて整理されているから、読んでいけば理論のマスターは割りと簡単そうだわ」
 「だが、凄い量の文書だな?これを全部読破するのか?」
 「し方がないわよ。多分、この半分は魔道理論に関するもので、後の半分は実験記録だと思う。でも、実験に使われた呪文や儀式については、たぶん、理論的なものしか書かれていないでしょう……場合によっては、アトラス・シティの魔道士協会まで行って、参考文献を参照する必要があるかもね」
 「だが、俺はあまり大きな町には……」
 「もちろん、あたしが行くから気にしないで」
 「行き帰りに『盗賊いぢめ』する楽しみもあるし、か?」
 「そうよ!生活費だって捻出しなくちゃね」
 「……俺も少しは蓄えはあるぞ」
 「じゃあ、『盗賊いぢめ』の稼ぎは、あたしのこづかいってことね。たぶん、あたしたちも実験をすることになるし、だとしたらいろいろ道具や薬もいるだろうし」
 「……悪いな、何から何まであんたに頼っちまうみたいで」
 リナは勝気な笑みをゼルガディスに向けた。
 「気にしないで。これは、あたしにとって大きなチャンスなのよ」
 「大きなチャンス?」
 「あの現代の五大賢者、赤法師レゾが成功させた実験をあたしも成功させ、さらにその研究を完成させてあなたを人間に戻す――これに挑戦して成功すれば、あたしは本当に赤法師レゾに匹敵し、超えることもできるかもしれない。それが魔道士としてどれほど重要か、わからない?」
 「…………」
 「あたしね、見たことがあるの。あたしがまだあなたに追いかけられていた時よ。あたしはある宿屋で部屋に火炎球(ファイアー・ボール)を投げ込んだ。黒焦げになったはずのその部屋を、レゾは小さな宝珠一つ、呪文一つで、あたしが火炎球を投げ込む前の状態に戻したの。自分の目が信じられなかった。白魔術・黒魔術・精霊魔術を極めた魔道士の力ってこういうものなのか、ってね。もちろん、あたしにも得手不得手はあるわ。でもね、できるかできないか、挑戦してみたい。そのための投資なんだから、あなたは気にしないで」
 「じゃあ、俺はあんたの魔道研究のダシか?」
 「そうよ。今ごろ気づいた?」
 「そういえば、前にも魔法の道具(マジック・アイテム)扱いされてたな……不覚にも忘れていたよ」
 冗談の応酬でリラックスし、二人は熱心にレゾの遺産の解明に取り組み始めた。



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