| この作品は、「ぴんぽんだっしゅ」さんがまだ「もおきん亭」というタイトルだった頃、「クリスマス」をテーマにしたイラストや小説を集める企画に参加して提供したものです。その後、作品が置かれていたサーバーのサービスが終了したのに伴い、ファイルが削除されたので、QPハウスで復活することにしました。もおきんるいさん、これまでありがとうございました。 ――キューピー/DIANA:2004年9月7日 |
| 昔々、ベツレヘムの地にゼロスという大工の男がおりました。彼は若い黒髪の男性で、いつもにおやかな笑みを浮かべ、人々から好かれていました。 ある日、彼の住む村に、一人の巫女がやって来ました。名をフィリアといいました。 巫女とはいっても、遠く離れた地の火竜王の神殿に仕えていたものが、神殿の長老と意見を異にしたため、出奔してきたのだということでした。 ゼロスは持ち前の腕で、村外れに彼女の家を建ててやりました。 家が完成してからも、ゼロスはよくフィリアを訪ねました。ゼロスは彼女にとても恋をしていたのです。 しかし彼女は一度は神に仕える誓いを立てた身。ゼロスは、自分のような男が彼女の結婚を申し込むなど恐れ多いのではないかと、思い悩みました。 そしてある昼下がり、彼は仕事先の敷地の隅に立つ、柳の木の根元でうたたねをしてしまいました。 すると彼の夢に白く輝く翼のある『御使い』が現われて言いました。 「ゼラス・メタリアムの息子、ゼロスよ。おのれの望みを恐れることなかれ」 目を覚ました時、ただの夢か、とため息をついたゼロスの目の前に、ふわりと一枚の美しい鳥の羽根が落ちてきました。とても大きな白い羽根です。夢に見た『御使い』の羽根にそっくりです。 ゼロスは夢のお告げを信じ、フィリアに結婚を申し込みました。 申し込まれたフィリアは、頬を赤らめ恥ずかしそうな笑顔を見せました。それを見てゼロスは、彼女もまた彼に恋をしていたのだと知り、とても幸せな気持ちになりました。 しかしフィリアは、彼の申し込みに答える前に、秘密を明かさなくてはなりません、と言って、ふだんは彼を入れたことがない寝室に案内しました。 そこのベッドの下から、フィリアは一つの籠を取り出しました。その中で何かが鈍く輝いています。 「これは?」 「竜の卵です」 「どうしてこんなものを持っているのですか?」 「これは、私が授かったものですから」 「!」 「ゼロスさん。この村の方々も知らないようですが、火竜王の神殿に仕える民は、人間ではありません。すべて黄金竜です」 「黄金竜?!ドラゴン・ロードと呼ばれる?では、あなたも……」 「はい。私は神殿から逃げ出した、と言いましたが、追っ手の目をくらますために、こうして人間の姿をしているのです……それを知っても、なお、私を望みますか?」 ゼロスには答えられませんでした。彼女が人間ではなかったことだけでなく、既に卵を生んでいる、ということが、「それでもあなたを望みます」という言葉を封じました。しかし、彼がフィリアを想う気持ちもまだ強く、彼はとても「では、望みません」とは、どうしても言えませんでした。 ゼロスは何も答えず、黙って自分の家に帰りました。 その夜、再び『御使い』が現われましたが、今度は姿が違いました。噂に聞く、海の大きな生き物に乗っていたのです。その『御使い』はこう言いました。 「ゼラス・メタリアムの息子、ゼロスよ。フィリアを妻に迎えよ」 「しかし、彼女はすでに子供がいます。竜の子供です。人間の僕(やつがれ)が、どうして彼女を妻にできますでしょうか?」 「心配はいらぬ。彼女の卵は普通の肉の交わりによって授かったものではない。天の恵みによって授かったものであり、それはかつての神託を実現するためである」 「……ご神託」 「聞け。『闇の星を統べる者。夜を支配する者。共に手を取り、民の王となるべき者を冥府よりこの地に迎えん。そは天より降り来り、処女(おとめ)の胸に眠らん』。 ゼロスよ。フィリアの純潔を信じ、彼女を娶るがよい。生まれた子には『ヴァル』と名づけよ。されば幼子は汝が民の王となるからである」 「そんな!僕(やつがれ)のような人間が、どうして民の王となるべき赤子の父が務まりますでしょうか!」 「汝はそのように定められているのだ、ゼラス=メタリオムの息子よ」 「……恐れながらお伺いします。前に僕(やつがれ)を訪(おとな)われた御使いもまた、僕めを『ゼラス=メタリオムの息子』とお呼びなさいました。しかし、僕の父は……」 「人の血の繋がりとは別の繋がりを指しているのだ、我々は。そしてその繋がりゆえに、汝は竜の卵より生まれる赤子の父とならなければならぬ」 ゼロスはひれ伏し、『御使い』におのれの宿命に従うことを誓いました。そこで彼の不思議な夢は終わりました。 目覚めたゼロスは、すぐにフィリアの家へ行き、改めて彼女に結婚を申し込みました。二人は村人にも認められた夫婦となり、幸せな暮らしを始めました。 しかし、フィリアが逃げ出した神殿では、彼女と彼女の卵を探し続けていました。できれば長老たちは、その卵が孵る前に殺してしまいたかったのです。彼らは、神殿に仕える自分たちこそが民の支配者であると信じていたので、新しい王の出現を望まなかったのです。 そこで彼らはあちらこちらに使いを送り、新しく住みついた竜や人間がいないか、調べさせました。そしてとうとう、フィリアがベツレヘムにいることが分かったのです。 しかし、その知らせが神殿にもたらされるよりも前に、三人目の『御使い』がゼロスの夢枕に立ちました。 「目覚めよ。そして妻と卵を連れて南へ旅立て。フィリアの卵を殺そうとする者がいる」 氷のような冷たい声で、その『御使い』が告げたので、ゼロスはすぐに荷物を整え、ロバを調達して卵を抱いたフィリアを乗せ、村を後にしました。 ある夜、東の空にこれまで見たこともないような大きな星が輝きました。 火竜王の神殿の長老や神官たちは、それが何の徴候であるのか、議論しました。 しかし、結論が出る前に三人の賢者が神殿にやって来て言いました。 「新たなる王の誕生に祝福を。我々は星に導かれて、その王たる者に拝礼するために参りました」 神殿の長老たちは色めき立ちました。しかし、その卵を生んだ者が神殿の巫女であることを知られるのを恥じ、何も知らないフリをして答えました。 「その幼子はベツレヘムにいるとの神託がある。言って礼賛し、戻ってその様をお伝え願いたい。さすれば我々も後に礼賛に参ろう」 三人の賢者は必ず戻る、と約束し、ベツレヘムの地への通行許可を携えて、輝く星を目指して歩き続けました。 ところでその大きな星をたどって来たのは、賢者たちだけではありませんでした。荒地で羊を放牧していた二人の羊飼いもまた、星を見たのです。しかも、彼らの目の前には『御使い』が現われてこう言いました。 「喜べ、新たなる王がお生まれになった。行って祝福し、その有様を世に告げるがよい」 言われて二人の羊飼い、グラボスとジラスは、羊の群れをそこに置き去りにして出発したのですが、不思議なことに、後に二人が戻ると、羊たちは一頭も欠けることなくそこにいたということです。 とにかく、三人の賢者と二人の羊飼いは、星に導かれるままにまる一日歩き、とある村はずれの農家の厩で、飼葉桶を揺りかごに眠る生まれたばかりの黒い竜と、それを見守る神々しい女性を見出しました。二人には女性の夫と名乗る黒髪の男性が付き添っていました。 三人の賢者は携えた宝物を赤子の竜に捧げて拝礼しました。続いて羊飼いも地にひれ伏して母子を拝みました。 フィリアという母は、賢者のいかめしい様に、赤子の重要な運命を思い知って厳しい表情を見せました。一方でフィリアの夫であるゼロスは、村にいたときと同じにこやかな笑みを称えていました。 彼は三賢者に感謝するため、彼らを厩の外に誘い、そこで地に伏して彼らの訪問への礼と、生まれた子供への加護を願いました。そしてこう言ったのです。 「こうしてお願いばかりいたしますのは大変心苦しいのですが、どうかお聞き届けください。ちょうどあの子が生まれました時、空に大きな星が現われましたが、それと同時に、僕(やつがれ)に天の声が届きました。それによりますと、賢者様方に通行許可を与えた神殿では、この子供を殺す企みがあるというのです」 「ほう?神殿の長老たちは彼らもいずれ参って新しい王に礼賛すると申していたが」 「恐れながら、それは長老たちの偽りの言葉でございます。彼らは賢者様方よりあの幼子の特徴を聞き、容易に見つけ出して殺せるようにする意図なのでございます」 「さもありなん。だから私は最初から、あの連中に敬意を表することなどない、と言ったのだ」 白いローブを着た賢者が言いました。 「言うなればあれも方便。旅を波風立てぬための」 青いローブを着た賢者が言いました。 「彼らの企みが明らかになった以上、我々に約束を果たす義務はない。このまま、それぞれの国へ戻るだけのこと」 黒いローブを着た賢者が言いました。それを聞いてゼロスは安堵し、さらに賢者たちに感謝しました。 一方、羊飼いたちは自分たちの王となるべき赤子と同じ建物に入ることを許されただけで感動し、何度も地に伏して母子を褒め称えました。 三賢者を見送ったゼロスは、今度は羊飼いらを厩の外に呼び出しました。 「僕たちはこれからこの地を離れなければなりません。しかし、より多くの人々に新しい王が誕生したことを知らしめることも必要です。僕にはそれはできませんが、あなた方にお願いできないでしょうか?」 「はい!わしらはそのために導かれたのでございます」 グラボスが言いました。 「では、特にお願いしたいことがあります」 「何なりと」 「新しい王の様子について語る時は、『古代竜の姿をしている』と伝えてください。間違っても『黒い竜』と言わないように願います。世に言われる『黒い竜』と『古代竜』は、まったく違うのですから」 「分かりました。誓って『新しい王は古代竜の姿をしている』と伝えて回ります」 「オレも伝える!」 ジラスも、たどたどしい言葉ながら、真剣な表情で言いました。 二人の羊飼いも厩を離れ、再び親子三人は静かな夜に包まれました。 黄金竜という人並みはずれた力を持つフィリアも、卵を孵すためにかなりの力を使い、疲れています。ゼロスは彼女に膝枕をし、少しでも楽に眠れる様に自分のマントも羽織らせ、温かくしてやりました。やがてフィリアは寝息を立て始めましたが、それを見下ろすゼロスの視線は、それまでの優しい表情とは少し雰囲気が違っていました。 話は少しさかのぼります。 フィリアを連れて南への道をたどっていたゼロスですが、とあるさびれた村に着いた時、妻が卵が孵る、と言い出したのです。人間の出産とは違い、竜は赤子が自分の力で殻を破って出て来るので、母親の力は必要がないと思われがちですが、実はフィリアはこの卵に毎日自分のエネルギーを注ぎつづけていて、特に孵化の瞬間にはよりいっそうのエネルギーを与えなければならない、と言うのです。ゼロスはすぐに、フィリアと卵が安全に孵化の時を迎えられる場所を探しました。それが村外れの農家の厩でした。 フィリアは精神を集中して卵の孵化を助けるため、ゼロスはその間、厩の外で二人の無事を祈っていました。 が、やがて彼の身にも奇跡にも等しい変化が起きたのです。 外で佇んでいるゼロスには、中の様子は分かりませんでした。しかし突然、彼自身が生みの苦しみにも等しい苦痛に襲われたのです。それは身体の内部から内臓を破り、皮膚も切り裂くような感覚でした。外からのケガとはまるで違う苦しみです。 そしてその苦しみの中で、彼は壁を隔てたところで、フィリアが一心に卵に自分のエネルギーを媒介にして、火竜王の力を注いでいることを知ったのです。それと同時に、自分の身体に何が起きているのかも。 フィリアが導く火竜王の力とは対極に位置する力――魔の力。それが彼の中に眠っていたのです。そして今、フィリアが全霊を込めて「聖なる力」を卵に注いでいる余波により、彼の中の「魔の力」が目覚めたのです。 ゼロスは今、自分が何をするべきなのか、なぜここにこうして、聖なる力を導く竜のそばに自分がいなければならないのか、すべて悟りました。 その途端、かれの口もとの笑みがほんの少し歪んで、いつもの優しげな微笑から、底知れぬ恐ろしさを含んだ笑みに変わりました。その唇を少し動かして、彼はこれまで自分がそんなものを知っていることさえ忘れていた一つの呪文を唱えました。 すると、厩の中でフィリアが身体を強張らせ、卵に力を注ぐ姿勢のまま、気を失いました。「目を開けたまま眠った」と言ってもいいかもしれません。こうしてフィリアに気づかれないようにして、ゼロスはおもむろに、自分自身を媒介にして、今度は「魔の力」を卵に注ぎ込んだのです。 この卵から孵る者が「民の新しい王となる」という神託は確かにありました。しかしその神託は、「民」が誰なのか、人間なのか、竜なのか、また、「王」とは人々を神の道に導く王なのか、それとも滅亡をもたらす支配者なのか、何も告げていませんでした。だから、ゼロスをこの世に送り出した彼の真の王は、その「新しい王」が自分たちの役に立つ様に、ゼロスを誕生に立ち合わせ、「魔の力」を与えることにしたのです。 フィリアが卵に注いでいるのが火竜王の力なら、ゼロス自身の力を注いだのではとても太刀打ちできません。ですから彼は、フィリアと同じように、自分自身のエネルギーを媒介にして、彼の真の王――魔王の力を導きました。 実はこれは、ゼロスにとって、とても苦しく辛い作業でした。魔である彼は、ほかの魔の力を借りることは本当はできないのです。しかし、これが彼の使命である以上、ゼロスは命を賭けてやり遂げました。 立っているのがやっと、の状態でゼロスは厩の外の壁にもたれかかりました。すぐ、フィリアが目を覚まし、自分が眠っていたことも、その間に夫が何をしたのかも知らないまま、また卵に「聖なる力」を注ぎました。 遂に卵から竜の赤ん坊が誕生しました。 新しい命の誕生と同時に、空に明るく輝く星が現われました。三賢者と羊飼いを導いた、あの星です。誰もがそれを、新しい王への神の祝福の印と受け取ったことでしょう。しかし、ゼロスの目には、その星の向こうに、赤い闇をたたえた双眸が見えたのです。それこそが魔王であり、その目が笑っていることから、ゼロスは自分の仕事が魔王を満足させていることを悟りました。 ゼロスは空に映る赤い目を見つめ、そこから新しい力が自分に伝わってくるのを感じました。恐らく、彼が被ったダメージを回復させるために、誰かが彼に力を分けているのです。ゼロスはそれが誰なのか、直感で知っていました。 魔王が作った悪魔、ゼラス=メタリオム。そのゼラス=メタリオムこそが、ゼロスの真の生みの親でした。 「ゼロス?……もう大丈夫です」 フィリアが晴れ晴れとした、それでも少し疲れた声で戸外の夫を呼びました。 ゼロスはいつもの笑顔を作り、いそいそと赤子の元へ進みます。生まれたばかりの竜の赤ん坊は、飼葉桶のワラの中で安らかに眠っていました。 「これが、僕たちの新しい王になる子なのですね」 「……ええ。でも、今はそういうことはあまり考えたくありません。ただこの子の幸せをだけ祈りましょう」 「ご苦労様でした、フィリア。そして、ありがとう」 ゼロスは優しく妻を抱き締め、絹のように滑らかな髪に口づけをしました。フィリアが少し、彼の腕の中で身じろぎしました。これまで、ゼロスがこれほどフィリアに密着したことはなかったからです。彼は卵を大切にするフィリアを思って、彼女を抱き締めることもして来ませんでした。 「疲れたでしょう。明日はもう一日、ここを使わせてもらうことにして、今はおやすみなさい」 彼はそう言って、妻に膝枕をし、彼女の身体を自分のマントで包んでやりました。やがてフィリアは夫の変貌を知らないまま、幸せな眠りに就いたのです。 ゼロスが「もう一日留まろう」と言ったのは、赤ん坊を訪ねてくる者がいることを知っていたからです。 彼らとはなんとしても会わなければならない。なぜなら、やってくる者のうち三人は、彼を生み出した悪魔ゼラス=メタリオムとその仲間、ダルフィンとグラウシェラーだったからです。 彼らは、ゼロスが完全に魔として目覚めたかどうか、彼に任された仕事をきちんと果たしたかどうか、見届けるために来たのです。 ゼロスが三人に「神殿に戻らないように」と伝えたのは魔王からの伝言で、それを伝えることで悪魔たちは、ゼロスが魔王の声を聞けるまで覚醒していることを確かめることができました。 一方で、羊飼いを遣わしたのは、フィリアも仕える火竜王の意志でした。 魔王からそのことを聞いていたゼロスは、彼らに災いの種を蒔かせることにしたのです。 「なぜ僕が羊飼いたちに、この子をまごうことなく見分けられる特徴を広めるように頼んだのか、分かりますか?」 ゼロスは眠るフィリアにそっと問いかけました。 「それはね、今すぐではないけれど、『新しい王は古代竜の姿をしている』という噂が火竜王の神殿に伝わるようにするためです。そう……僕があなたと赤子を連れて、安全な場所に逃れたその後に、その噂が届くように、ね」 飼葉桶の中で赤子がうるさそうに尻尾を振り、ゼロスは唇に指をあてて、静かに、と注意します。 「その噂を聞いて、黄金竜の長老たちはどうすると思います? 僕には見えるのです。彼らがいかに愚かな振る舞いに走るのか、が」 そう言ってゼロスは視線を宙に浮かべました。彼の目はもう、厩の光景を見ていませんでした。彼の意識には、少し未来の悲劇がありありと映っていたのです。 長老たちは、自分たちの地位を危うくする者が古代竜の赤ん坊であることを知り、赤子だけを殺したのでは古代竜に復讐される、と考え、すべての古代竜を殺し尽くすことを決め、実行するのです。そうすれば、新しい王もいなくなり、その復讐をする者もいなくなる。そう考えて。 不意を討たれた古代竜たちは、なぜ自分たちが襲われるのか理由も知らないまま、一匹一匹、殺されて行きます。ベツレヘムからナザレへかけて、一匹の古代竜もいなくなるまで。 その殺戮の記憶は、やがて語り伝えられ、長じたヴァルの耳にも入るでしょう。それまでにゼロスは、彼が誇り高い古代竜の一族であることを十分に教えておかなければなりません。同族の悲劇を知った彼が、やがて黄金竜を皆殺しにすることをすぐさま決心できるように。 「その時、フィリア、あなたはどうするでしょうね? あなたが命がけで自分の一族である黄金竜から守ったヴァルが、やがてあなたの同族を滅ぼす日が来たら……狂うでしょうか?それとも自ら命を絶ちますか? 安心してください。その時は僕があなたに、苦しまずにすむ方法で安らぎを与えてあげましょう。 不思議なものですね?こうして本来の姿に戻ったというのに、僕は……あなたが僕の妻であることが当たり前のように感じるのです。すべてが終わる日まで、僕はあなたとヴァルを守り通す……それは僕の仕事なのですけれど……どういうわけか、その仕事をできることが嬉しいんですよ。分かりますか?」 彼はフィリアの髪をそっと撫でました。 「あなたにも、人間らしい……いや、竜のあなたには変かもしれませんが、人間の姿を続けるつもりでしょうから、人間らしい、と言って構いませんね――幸福な暮らしをさせてあげてもいいですよ。そう……いっそのこと、心だけでなく、身体でも真の夫婦になってもいいかもしれません。 今すぐではなく、僕の作り主、ご主人様の住まう土地に落ち着いてからゆっくりと……」 翌朝ゼロスは、ロバに赤子のヴァルを抱いたフィリアを乗せ、南へ向けて出発しました。彼の創造主、ゼラス=メタリオムの居城がある土地、群狼の島を目指して―― |
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