不滅のサウンドハウス
キューピー/DIANA

 この作品を書いたのは1998年頃のことです。当時はまたインターネットではなく、ニフティサーブ(現@nifty)のアニメフォーラム「創作活動館:Slayers Create」に発表していました。その後、同じニフティのメンバーだったMilkさんがサイトを作った際にお祝いで寄贈しました。しかし、2004年8月Milkさんのサイトが消滅したため、QPハウスにおいて再公開することにしました。Milkさん、これまでありがとうございました。
――キューピー/DIANA:2004年9月6日   



   <プロローグ - Prologue ->

「アンデッドぉ?そいつらがなんで、ディスコなんか占拠すんのよ?」
「そんなこと分かるわけないですよ、ジュルジュル」
「とにかく、ヤツらがいなくなってくれりゃ、いいんです。ジュルジュル」
   あたしの目の前には、二人の依頼人がいる。一人はデブ、一人はメガネ。コウとマサ、と名乗ったが、さっきから響いている汚い音は、あたしの美貌に目がくらんだ二人が垂らしているヨダレの音だ。ああ汚い。
   あたしはリナ=インバース。旅の天才美少女魔道士。栗色の髪につぶらな瞳。華奢な身体つき。世の男の目には「可憐な少女」に映る自信は、たっぷりある。
   だが、彼らにとっては残念なことに、あたしには連れがいる。
   見た目にはとびきりハンサムで、長身の剣士。名前はガウリイという。見た目だけでなく、剣の腕は超がつく凄腕である。彼は自称「リナの保護者」。彼がいる限り、変なヤツらはあたしに指一本触れられない。
「で?あたしたちに、そのアンデッドを始末して欲しい、って話なんでしょ?さっさと済ませてよ。こっちだって暇じゃないんだから」
   年上のガウリイを差し置いて、あたしが話を進めるのには訳がある。こう言っちゃなんだが、ガウリイは頭を使うのが得意ではない。こういう駆け引きは、ぜ〜んぶ、あたしが仕切らなければならないのだ。
「まあまあ、そう邪険にしないで。彼らは本当に困っているんですから」
   口をはさんだのは、その依頼人をあたしたちのところへ連れてきた、黒髪の神官。名前をゼロスという。
「はい、そうです。ジュルジュル。今までにも、魔道士や僧侶にお願いしているんですが、いっこうにアンデッドのやつら、動こうとしなくって、ジュルジュル」
「じゃあ、あなたが引き受ければいいじゃないの。アンデッドなんて、目じゃないでしょう?ゼロス」
   ゼロスは、一見やたらとにこやかな若い男に見えるが、実は魔族である。それも、そんじょそこらにいるようなヤツではない。赤眼の魔王シャブラニグドゥの腹心の一匹、獣王ゼラス=メタリオムの秘蔵っ子の神官――獣神官(プリースト)なのだ。
「そりゃ僕だって、アンデッドに対抗する魔法は知っています。しかし、それを使うと建物まで吹っ飛んでしまう。それはできないんだそうです」
「建物を壊すな、ってこと?」
「そうなんです、ジュルジュル。それが条件なんです、ジュルジュル」
「僕にはそんな器用な真似、できません。でもリナさんなら、建物に被害を出さずに、アンデッドを浄化することもできるし、ガウリイさんの剣だってあるでしょう?だから、お二人を紹介することにしたんです」
「礼金ははずみます。どうか、アンデッドをやっつけてください。ジュルジュル」
「礼金ねえ。安くないわよ、あたしたちは。他の連中といっしょにしないでね」
「大丈夫。スポンサーがついてるんです、ジュルジュル。成功したら、お二人に金貨千枚ずつ差し上げます。ジュルジュル」
   金貨千枚!これはおいしい仕事だ!
   こうして、あたしとガウリイは、その仕事を引き受けることにした。

   <1.ラトルヘッド - Rattlehead ->

   アンデッドに占拠されたというディスコは、『サウンドハウス』といった。お化け屋敷と化しているはずだが、なぜだか、ディスコとしての体裁を保っている。受付には、チケット売りの女の子までいる。こいつもアンデッドなのだろうが。
「『サウンドハウス』へようこそ。会員証、または、今月発売の『燃えろ〜!』はお持ちでしょうか?」
「いえ……何も」
「では、お一人様、銀貨6枚頂戴します」
   料金など払わず、入り口を魔法でぶち壊してやろうかとも思ったが、建物に被害を出さない、という条件を思い出し、やめにする。
   仕方なく、あたしたちは料金を払って入場した。
   階段を降りたところの防音扉を開くと、景気のいいロックン・ロールが大音量で流れていた。ディスコと言ってもライブもできるように、一段高くなった小さなステージがある。そのステージに向かって、左手にはバー・カウンターがあり、ドリンク類が売られている。ステージ前のフロアには、お立ち台が二箇所。それを取り囲むように、ソファや机が並んでいる。
「リナ、何かいるぞ」
   ガウリイがバー・カウンターを指さす。バーテンだろう。アンデッドに違いない。
   どんなアンデッドか見極めようとバーに近付いた。天井に『Nightmare(悪夢)』のネオンが点滅している。バーの名前らしい。バーテンはあたしたちに挨拶した。
...Welcome to my nightmare(悪夢へようこそ)
   見た目には人間と変わらない。中年の男で、目の周りと口から顎にかけて、黒い化粧をしている。黒い髪は肩にかかっていて、体型はスリム。
「あなた方も、ここにロックを楽しみに来た、って感じではありませんねぇ。例の二人組に雇われたんでしょう?」
「あら、あなたが今までの魔道士や僧侶を、やっつけたヤツなの?」
   これはあたし。しかし、バーテンは首を横に振る。
「いいえ。この『サウンドハウス』で一番最初にお客をもてなすのは、マノウォーの役、と決まっているんですよ」
「マノウォー?」
   バーテンはニヤリと不気味に笑った。その途端BGMのロックが消え、重々しい鐘の音が鳴り響き、それに続いて、地響きのような音楽が始まる。
   ステージにスポット・ライトが点く!見ると、腰の周りに動物の皮をぶらさげただけ、のマッチョな男が、ドでかいハンマーを持って立っている!これがマノウォー?
   一昔前のバーバリアンそっくり!髪を振り乱して、てかてかと肌を光らせている。
   彼は何事かつぶやきながら、フロアに降りてきた。あたしとガウリイは、迎え撃つ態勢で左右に散る。
Death to the false metal(えせメタルに死を)....death to the false metal..
   何を言っているんだ?こいつ。
Death to the false metal! Wooooooooaaahhh!
   マノウォーが、ハンマーを振りかぶった。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
   あたしの呪文と同時に、マノウォーの身体が塵と化す。ハンマーだけが、音を立ててフロアに転がった。
「きえぇぇぇぇぇいっ!」
   バーテンが肉切り包丁を片手に、カウンターを飛び越えて来る。
   ガウリイが、剣を抜いて応じようとする。が。
「やめろ、アリス。マノウォーを倒したほどのヤツだ。俺が挨拶しよう」
   声はあたしたちの上からした。見上げると、ソファが並んでいる一角に、細い螺旋階段があり、一段高いフロアがあった。そこにもソファが並んでいる。おおかたVIP席だろう。そこから、ソイツがあたしたちを見下ろしていた。
   そいつは――平たく言えば、スケルトンなのだが、普通のスケルトンとは違う。まず、目。普通のヤツはただの穴があいている目が、そいつはアイマスクのような形の金属のバイザーをしている。しかも、ビスで直接、ドクロに止めてあるのだ!
   耳にも、金属のイヤー・カフをし、そこから重そうな鎖が肩に伸びている。イヤリングの替わり?あんなんじゃ、音を聴くことなんてできないだろうに。
   あたしが一番たまげたのが、口。普通は歯がむき出しか、欠けて顎骨だけなのだが、こいつは上顎と下顎が、何本ものU字型の金属のボルトで、けして開かないように固定されている!どうやってしゃべっているんだ?
   つまり、このスケルトンは「見ざる言わざる聞かざる」なのだ。
   普通のスケルトンは、身に何も着けないものだが、コイツはスーツを着込み、ネクタイまでしている!ただ、袖口から出た手は、もちろん骨だけ。
「ようこそ。俺はヴィック・ラトルヘッド。ラトルヘッドっていうのは、この脳みそがガラガラなる頭のことさ。『サウンドハウス』のオーナーだ。あんた方はマノウォーを倒した初めてのヤツだよ。それなりに、できるようだね」
「そんなところにいないで、降りてらっしゃいよ。挨拶するって言ったでしょ?次の相手はあなたってことじゃないの?」
「俺が言った挨拶は、まさに言葉の挨拶のことさ。あんた方の相手は別にいる」
   ヴィックとやらはそう言うと、骨の右手を上げる。
   ステージから、乱杭歯をむき出しにした異様に顔のでかいオヤジが、スケボーに乗って現われる!何じゃこりゃあ!
   そいつに続いて、精神病院の拘束服を来たり病院のパジャマを着た、見るからに頭のイカれた連中が、踊るように飛び出して来る。連中は、あたしとガウリイの周りを、輪になって走り回りながら、踊り狂い始めた。
Madhouse(精神病院だよ〜ん)!」
Mosh up(モッシュしよう)!」
Pit! Mosh!(ピットだ、モッシュだ)
「やれ!ノット・マン!」
   ヴィックの命令が下った。だが、先手を取らせるかっ!
「ガウリイっ!剣をっ!」
「おうっ!」
   あたしの言葉に、ガウリイが魔剣、斬妖剣(ブラスト・ソード)を構える。が、斬りかかりはしない。今、あたしたちの周りで踊り狂っている連中は、凄まじい勢いであたしたちの周囲をグルグルと走り回っている。その輪に、彼は剣を差し出しただけ。連中は、自分からその剣に飛び込んで来るのだ。
   バタバタと倒れる連中に、あたしが振動弾(ダム・ブラス)でとどめを刺した。
「スカルウィング!」
   ヴィックの声に応えて、ステージから、コウモリの翼をつけた、角のあるドクロが飛んで来た。鋭い犬歯をむいて、襲いかかって来る!
「Kakakaka! I hate(でぇっきれえだぜっ)!」
「氷の矢よ(フリーズ・アロー)!」
   あたしの呪文で、ドクロ・コウモリは空中で凍りつき、フロアに落ちて粉々に砕ける。ヴィックは次のヤツを召喚した。
「エディ・ザ・ヘッド!」
   今度のは、ドクロになりかけ、という感じで、鼻や唇はかけているが、頬や額の肉は残っている、というヤツ。顔の周りは、髪、というよりたてがみ、という感じの毛で覆われている。身体は動物のような筋肉だが、形は人間。そいつが叫ぶ。
Running free(束縛なんかされねえでいくぜっ)!」
「とぅっ!」
   ガウリイの剣が、そいつを脳天から二つに断ち割った。
No more Mr.Nice guy(ミスターいい人は返上だ)!」
   さきほどのバーテンが、肉切り包丁で襲い掛かってきた。あたしが迎え撃つ!
「誰がナイス・ガイじゃぁっ!青魔列弾波(ブラム・ブレイザー)!」
   あたしの手から伸びた、青い一直線の光に貫かれ、アリスはフロアに倒れ伏した。
   あたしはヴィックを、びしぃっ!と指さした。
「いい加減にしなさいよねっ!アンタの底は知れてんのよ!」
「ほう、どう知れているのか、聞かせてもらいたいね」
   ヴィックはくぐもった笑いを漏らしながら、あたしを見下ろす。
「あんたが召喚したヤツ、み〜んな、ヘヴィ・メタルのアルバム・ジャケットなんかに出て来るモンスターを、実体化しただけじゃない。オリジナルのかけらもありゃしない。そろそろネタも尽きた頃でしょ?この辺で覚悟を決めてもらいましょうか!」
「確かに、あんたの言う通り。だけど、覚悟するのはそっちだね。
   イーヴィル・アーニー!出番だ!」
「おうっ!」
   ヴィックの呼び声に応えたのは、ステージ上からではなく、VIP席から現われた、カールした黒髪の男だった。レザー・ジャケットにデニム・パンツというメタル野郎のファッションに身を包んでいるが、こいつもアンデッド。顔つきはエディとかいうヤツに似ているが、目は吊り上がり、口は耳まで裂けて恐ろしい笑いをたたえている。身体はヴィックに近く、骨が見えているが、肉の代りにスライムのような蛍光グリーンのジェリー状のものが、もやもやとたゆたっている。
   そいつは両手に、大型ナイフを持っていた。こんなヤツ、見たことないぞ!
   実はここに来る前、ゼロスにどんなアンデッドがいるのか聞き込ませ、ヘヴィ・メタル関連のモンスターらしい、と分かってチェックしておいたのだ。なのに、こんなヤツに出くわすとは!珍しくオリジナルかっ?
「何、あんた?まさか、オリジナル?」
「失礼なことをぬかすなっ!俺様はれっきとしたchaos!(混沌)の出だ!」
   そいつはナイフで切りつけて来る。ガウリイが応戦し、あたしは思わず叫ぶ。
「混沌の生まれだっての!?まさか金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)の?」
「何を訳の分からんことを!chaos!ってったら、アリゾナよ!」
   訳の分からないのは、そっちの方だ!
   ガウリイがふりかぶった一撃を、アーニーは交差させた二丁のナイフで受け止める。つばぜり合いだ!
   ぎいんっ!ガウリイの剣とヤツの大型ナイフがきしんだ。互いに飛びすさる。ガウリイが距離を取ったのを見て、あたしがすかさず呪文を放つ!
「炎の矢よ(フレア・アロー)!」
   イーヴィル・アーニーのジェリー状の身体が、炎に包まれた。
「彼が言ったchaos!というのはね」
   ヴィックが、相変わらずあたしを見下ろして話しかけてきた。
chaos! comicという、ホラー・コミックの出版社のことさ。彼はそこからシリーズ化されたヒーローなのさ。アリゾナってのは、その会社の所在地だよ」
「だから、どうだって言うの?」
   あたしはヴィックに向き直った。
「分からないかい?出版社に一つしかシリーズがない、なんてことはないんだよ。ヒーローがいればヒロインもいる。レディ・デス……」
   ヴィックがVIP席を振り返った。美しい女性が現われた。プロポーションはバツグンと言っていいだろう。露出度も高いが、その肌は死人のように白い。豊かな髪も純白に輝き、手首や首もとのアクセサリーの金色にも負けない、豪華な感じがする。彼女は、天使のような優しさと、悪魔のような恐ろしさをあわせ持っていた。
「わたしは、天の祝福を受けた血を引く母と堕天使の血を受け継ぐ父から生まれ、魔女として処刑された。そして地獄に落とされ、私を天との戦争の道具にしようとした魔王ルシファーを倒し、その力を得た。だから人はわたしをLady Death(死の淑女)と呼んでいる……」
   彼女は、フロアに降り立つと大鎌(シックル)を振り上げた!死神の使うヤツだっ!
「地獄へ帰れ!冥壊屍(ゴズ・ヴ・ロー)!」
   フロアを黒い影が走った。レディ・デスの足元に届くと、彼女はビクン!と身体を硬直させる。精神(アストラル)を食われた彼女の身体がズタズタになる。
   おーしっ!これで残るはヴィックのみ!

   <2.ウェイク・アップ・デッド - Wake up dead ->

   手駒を潰されたヴィックは、今度はステージに向かって、骨の手を上げた。
「プリースト!ザ・メタル・ゴッド!」
   ヴィックの言った「プリースト」という言葉に、あたしは緊張した。まさか?
   ステージには、黒のレザー・ベストに黒のレザー・パンツ。黒いポリス・キャップを被り、目にはレイ・ヴァンのサングラス。腕には鋲打ちのされたリストバンド。そして、黒の革手袋の手に皮のムチを携えた、「いかにも」な兄ちゃんが現われる。
   そいつは、ステージ中央のマイク・スタンドに歩み寄る。マイクに口を寄せ、
「ぺいん……」
   あたしとガウリイが身構える。
「きらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
   凄まじい超高音パワーー・ヴォーカル!思わず耳を抑えてあとずさる。しかし、こいつのこの声は、あたしたちへの攻撃が目的ではなかった!
   そいつが吠えると、さきほどあたしたちが倒したアンデットたちが、次々と蘇生して来るではないか!こいつはっ?アンデッドを復活させる能力を持っているのか!?
   こうして、再び混戦が始まった。

「ええいっ!うっとーしぃっ!」
   何度よみがえろうが、ここにいるアンデッドはあたしたちの敵ではない。
   しかし、しつこい!いい加減腹が立つぞ!
   ああっ、またあの復活超高音男が出てきたっ!またアンデッドを蘇生させる気かっ?
「俺にまかせろっ!」
   ガウリイがステージに駆け上がる。
   剣で斬りつける!が、プリーストは、見事なムチさばきでその剣を、ガウリイの手ごと絡めとってしまった!
「ガウリイ!」
   ガウリイは手の自由を失ったまま、プリーストに向かって体当たりをぶちかます!
   ポリス・キャップが吹っ飛び、プリーストがステージに倒れた。毛のない頭の後頭部にドクロの刺青が見える。
   おろ?プリーストのヤツ、倒れたまま、もだえているぞ?
「しまった、プリースト!」
   ヴィックがうろたえる。
「ああ、ご主人様……これで、もっと」
   と、プリーストはムチをガウリイに差し出す。ガウリイはムチを受け取ると。
「お〜ほほほっ!女王様とお呼びっ!」
   叫んで、したたかにプリーストにムチをくれる。
   こらっ!ガウリイ、その気になるんじゃないっ!
   打たれるプリーストは、もう恍惚としている。
   コ、コイツら……阿呆らしくてやってられんわっ!
   とうとうあたしは、ヴィックと直接対決することになった!
「俺を、他のヤツらといっしょにはしないでくれよ」
   ヴィックはフロアに降り立ちながら、あたしに言う。懐から青い石を取り出して構えている。彼は続けた。
「俺もノット・マンやスカルウィング同様、ジャケット・デザインが実体化した存在さ。だがな、俺はジェネラル・デイヴに作られただけでなく、chaos!でさらに命を与えられた。一味も二味も違うぜ」
「ジェネラル?さっきは、プリースト、ってヤツもいたし。まさか海王(ディープ・シー)ダルフィンのジェネラルとプリーストのことっ?」
「違うね。ジェネラル・デイヴが身も心も捧げているのはメガデス……大量死王とでも言うかね。そろそろ遊びは終わりだ……逃避陣(ア・シークレット・プレイス)!」
   彼の言葉に呼応して、手に持つ石が鋭い光を放つ!何だ、これは?
   あたしは妙な感じがしたが、こいつをやっつければ、とにかく終わり!
「氷の槍(アイシクル・ランス)!」
   だが、呪文は発動しなかった。ヴィックが笑う。
「さっきの呪文は、この『サウンドハウス』を、俺の内宇宙と同化するものだったのさ。ここでは、あんたたちの言葉は通用しない。俺の言葉だけが力を持つのさ」
「なんですって!」
「試してみようか?落雷術(サンダー・ストラック)!」
   ばちばちばちぃっ!
「うげっ!」
 ステージでプリーストをいたぶっていたガウリイが、雷に撃たれた!あ、焦げてる。
「破滅響振(シンフォニー・オブ・ディストラクション)!」
   壁に埋め込まれたアンプから、轟音が炸裂した!あたしはフロアに転がる。
「決死法呪(ナインティ・ナイン・ウェイズ・トゥ・ダイ)!」
   四方八方から、銃弾が飛び交う。いけない!このままじゃなぶり殺しだ!
   あたしはソファの影に飛び込み、銃弾を避ける。
「爆滅令(シーク・アンド・ディストロイ)!」
   空気の塊がソファを蹴散らし机を押しつぶす!あたしはフロアに飛び出した。
   その時、あたしは一つのことを思いつく。試してみるっきゃないっ!
   あたしは、魔力増幅の呪符(タリスマン)『魔血玉(デモン・ブラッド)』を胸の前に構え、呪文を唱え始める。ヴィックの言葉で!
The dark lords who rule the darkness of four worlds
   I pray to you for I have your parts
   That together you four all
   Give me more power to play the magic

   あたしの言葉に応えて、四つの『魔血玉』が輝く。あたしの呪文が発動したのに、ヴィックがうろたえて呪文を放つ。
「圧風魂(ト−ネイド・オブ・ソウルズ)!」
   室内だというのに、すさまじい風が巻き起こる。が、あたしの呪文障壁に阻まれて効果がない。あたしは続いて、神滅斬(ラグナ・ブレード)の呪文を唱える。
That which is set free from the power of the sky
   Ice-cold dark empty blade
   Be my power, be my arm
   And walk with me on the way of destruction
   Together we will destroy the souls of the gods
   Ragna Blade!

   あたしの手に闇の刃が生まれる。魔力が吸い取られる!あたしはヴィックに向かって、闇の剣をふりかぶった。
「守護祝福(ザ・チョーズン・ワン)!」
   ヴィックは叫びながら、青い石を持つ手で刃を受けようとする。防御呪文なのだろうが、そんなもの!
GYAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!
   闇の剣は、青い石もろともヴィックの手を打ち砕き、脳天から腰までを両断した!

   やっと終わった――金貨千枚、という条件が、もっともらしく思えるほど、やっかいな仕事だった――
   あたしは、フロアに転がり落ちているガウリイを治癒(リカバリイ)で治療した。
   ガウリイがようやく回復した時、あたしの耳に奇妙な音が届いた。
   防音扉の向こうから、たくさんの足音らしい者が聞える。防音されているのに?
   ばあんっ!
   扉が派手な音を立てて開くと、百人はいるかと思われるロック・キッズがなだれ込んで来る!あたしもガウリイももみくちゃだ!
   キッズたちはステージに殺到する。見ると、ステージにはフロアとの間に、金網の仕切りが降りている。その仕切りの向こうに見えるのは……
   ヘヴィ・メタル・バンドとおぼしきメンバーを背にして、仁王立ちになっている影。ヴィック・ラトルヘッド!
「やった!やったぞ!俺はとうとう死んだぞぉ!」
   彼の歓喜の叫びに、キッズたちが狂乱する。
「これで、とうとう、この歌を歌うことができる!みんな!聞いてくれ!
   Wake up dead(ウェイク・アップ・デッド)!」
   ステージで激しいロックの演奏が始まった!キッズたちは、金網をよじ登り、フロアで押し合い、中には人垣の上を転がっていくヤツもいる。あ、こっちじゃ、バク転やってる。おお〜、とうとうステージの金網が破れたぞ。キッズがステージになだれ込んでいく。
   その時、あたしの頭の上に、人垣の上を転がってきたヤツがまともに落ちてきた!あたしは何も分からなくなった。

   気がついた時、あたしもガウリイもボロボロになっていた。どうやら彼も、あたし同様、もみくちゃにされて気を失っていたようだ。
   あたしたちがいたのは、『サウンドハウス』の外のベンチ。身を起こすと、『サウンドハウス』から、景気のいい音楽が流れている。ちっ、仕事は失敗か。
「なんだ、あれ?結局、前より元気になったじゃないか?」
   ガウリイがあたしに尋ねる。そんなこと、あたしに聞かないで欲しい。
   黙ったままのあたしを振り返ったガウリイが、すっとんきょうな声を上げた。
「おい、リナ。それ、なんだ?」
   あたしは自分の胸を見下ろして、びっくりした。胸の谷間に、何やらメモのようなものが挟まれている。あたしはそれを手に取り、広げて読み上げた。
「お二人とも、ご苦労さん。あんたたちを雇った二人組のスポンサーは、実は俺だったんだよ。俺は"Wake up dead"という歌を歌いたかったんだが、これは俺自身が一度死なないと歌えない。アンデッドである俺が死ぬなんて、人から殺してもらうしか方法がなかった。だから、あいつらに魔道士や僧侶を雇わせて、俺たちを殺させようとしたのさ。あんたたちは、見事に俺を殺してくれた。約束の礼金を支払う。 ヴィック・ラトルヘッド」
   そのメモといっしょにあたしの胸に挟まれていたのは、『サウンドハウス』の五年間有効のフリーパスが十枚だった。ヴィックの血文字サイン入り。ご丁寧に、ヴィックがサインした「発行証明書」までついている。あのなぁ。
   こんなのが礼金?金貨千枚の話はどうなったのよ!
   しかし、以前にもまして盛り上がっている『サウンドハウス』に踏み込むには、あたしたちの受けたダメージは大きい。くっそ〜、いつかぺち倒しちゃる!
   あたしは心に誓って中指をおっ立てると、その場を後にした。

   <エピローグ - Epilogue ->

「あんたねぇっ!ヴィックを殺したらああなること、知っていたんでしょっ!」
   あたしは、ゼロスの襟首を締め上げている。
   ゼロスには情報収集の報酬として、あたしたちの礼金から分け前を渡す約束をしていた。彼はそれを受け取りに現われたのだ。
「そ……そんな……知りませんでしたよっ……誓って」
「ほんとう?あんたには、いっつも利用されてばっかりだから。まあいいわ。あんたがウソを言ったためしはないものね。
   でもね、分け前は払えないわ。だって礼金って、これしかないんだもの」
   あたしはゼロスを放し、パスを出す。ゼロスはそれを覗き込んで言った。
「これ……ねえ……。ねえ、リナさん、これをマニアに売ったらどうです?」
「こんなもの二束三文でしょうよっ!」
「いえいえ。ほら、血文字のサインまで入っていますから、案外、いい値段で売れるかもしれませんよ。前に情報収集した時、こういうものをマニア向けに委託販売をやっている店がある、って聞いたんです。だめでもともと。行ってみましょう」
   ゼロスはあたしとガウリイを連れて、ウェスト・ニュー・インという界隈へ向かった。なるほど、その手のマニアが闊歩している町だ。
   目指す店はすぐに見つかった。が、店主はあたしたちが売ろうとしているのが、『サウンドハウス』のフリーパスと知って、委託販売を断わった。そして、その界隈の顔役を呼び出したのである。
   顔役いわく。このフリーパスは大変貴重な品なので、下手に委託販売をすると、早い者勝ちのパニックが起こる。ここは公平に、セリにかけるべし。
   こうして、その日のうちに『サウンドハウス』のフリーパスのセリの話は、ウェスト・ニュー・イン全体に告知された。ヴィックの血文字サイン入り、発行証明書のお墨付き、という情報も添えて。また、発行の日付が、ヴィックが"Wake up dead"を初めて歌った日である、という、どうでもいいようなことまで、付け加えられていた。
   いや〜、マニアっつーのは、度し難いね〜。金貨百枚から始まったセリは、またたくまに値が上がり、結局、一枚につき金貨三百八十枚出せる人間が十人になったところで、セリ落とされた。
「ありがとう、おかげで予想外に高く売れたわ。約束の情報料よ、ゼロス」
   あたしはゼロスに分け前を渡そうとして、彼が落ち込んでいるのに気がつく。
「ゼロス?」
「ゼラス=メタリオム様が……いました……」
「は?」
「パスを買った十人の中に……獣王様はあのパスを手に入れたいがために……あのラトルヘッドに協力を……僕には何も知らせないで……」
『ええーっ!』
   あたしとガウリイの声がハモる。
   さっきの十人の中に獣王が混ざっていたとは、まるで分からなかった。あの異様な雰囲気の連中に、違和感なく溶け込むなんて……獣王の趣味って?
「知っていたら……知っていたら、あんな『サウンドハウス』、叩き潰してやったのにっ!獣王様は、僕が反対するのを嫌って、それで僕には何も知らせなかった!獣王様は、あんな下賎な連中と同じ格好したり、同じ音楽を聴いちゃいけないんですっ!ぜったいに!」
   あたしは呆れ返った。ゼロスの言い分は、まるで「憧れのマドンナは焼き芋食べたり、毛糸のパンツをはいたりしちゃいけない」と、だだをこねているのと同じ。
   こいつと獣王の関係は、絶対服従の上司と部下じゃないのか?
「ゼロス、お前の気持ち、よく分かるぞ。俺もリナから、な〜んも説明されんと、こき使われてるからなぁ」
   ガウリイが、ゼロスの肩に手をかけながら、慰めの言葉をかけている。
   何を言う。あんたには説明したって、覚えていないだけじゃないか!
「ガウリイ……さん……うっ、く」
   ゼロスが、のどにひっかかったような声を出した。
   がばっ!
   えっ!?
「お〜いおいおいおい!お〜いおいおいおいおい!」
   あろうことか、ゼロスはガウリイに抱き着き、盛大に声を上げて泣いている!
   今度の『サウンドハウス』の事件で、一番大きなダメージをうけたのは、コイツらしい……やはり、魔族は精神攻撃に弱いな、ふっ。

   あれから、あたしもガウリイも『サウンドハウス』には行っていない。だが、今でも元気よく、ロックが流れているという噂を聞いた。
   どうやら『サウンドハウス』は、あのヴィック・ラトルヘッドとともに不滅らしい。

   『不滅のサウンドハウス』<終わり - The end ->

このページの壁紙はの素材をお借りしました。      


メール
トップページへ スレイヤーズページへ書庫へ