| 作者より:これは短目の暗いスレイヤーズ小説です。私がこれを思いついたのは、ちょうどフロリダ旅行から返って来たある夜のことで、泣き喚いてうるさい妹たちや追試でうんざりしていた頃のことです。落ち込んだ雰囲気が作品にも影響していると思いますが、ご勘弁を。それから、私はゼルアメ派なのですが、これはゼルリナ小説になってしまいました。このプロットが生きるのは、この設定しかなかったもので‥‥私はゼルリナ派なのではなく、ただ、偶然こういう作品になっただけです。 |
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いつもながらの夕暮れ。 日の光が徐々に弱まり、夜霧と夜行性の虫が空気中に渦を巻き始め、名残の茜色がやがて衰え赤紫がかった影となり、ついには紫紺が月光に照らし出される。風がしなやかに、春の芽吹きにたわわにしなる木の枝の間を駈け抜ける。 オークの木は、太古の昔からそこに立っていたかのようにそびえ立ち、幹の北側で深々と生い茂るコケも風になぶられる。 静かな木立の中で終わることの無い平和を貪り眠るものたちは、風の巻き起こすざわめきに、心乱されて行く。 その森で二人の人物が、永遠に及ぶかと思われる時間、動かず、思うことも語ることもせず、ただ立ち尽くしていた。 どちらも、言葉を必要としなかった。彼ら二人の間にあるものは、ただの語り口が伝えられるものではなく、思いとして伝えられる。言葉はただ虚ろで無用、意味の無い存在。 二人は互いの思いを無意識に抑えこみ、沈黙に押し殺して来た。それでも、彼らの魂の絆は、まるで大地の核もかくやというほどしっかりと、人知れず結びついていたのだ。 それが今、地獄の炎に投げ込まれた枯れ枝のごとく味気なく、脆いものに成り果てている。 二つの魂のきしむ感情の痛みは、あまりにも強烈で生々しく、森全体が二人のために沈黙を守るかのように静まり返っていた。 灰褐色のマントがそよ風になびき、合成獣の背後に舞い上がる様は、あたかも日夜の別なく荒涼とし、人を寄せつけない砂漠の砂丘を思わせる。 もう一つのケープが反対側にたなびき、赤と黒の裏地で主の腿の形を、不器用な筆運びで描き出した。 二人とも、目の前に迫った不可避の未来から叫んで逃げ出したい衝動が脳内では最高潮に達していたが、かつて仲間だったどちらも、それをできないことを承知していた。 「‥‥で」 冴え冴えとした沈黙を破ったのはゼルガディスだった。 「こうしてお前さんとまた敵味方になったのも運命というヤツだろう。残念ながら、今回ばかりは俺なりに信じるモノがあるんでな、それを放棄してあんたにツく、というわけにはいかない。俺にとっちゃ信じるに足るものだし、そのために命令には従う」 彼の前に立つ彼の『敵』は、ゼルガディスの目に見たこともない悲しげな色が浮かぶのを見極めた。 「だから、リナ、俺はお前を殺さなければならん」 リナはゼルガディスの悲しい瞳を見つめ、問うた。 「どうしてそこまでできるの? あたしが知っているあなたは、人間の身体に戻る方法を見つけることだけを大切にしていたのに」 「それは俺の立場になってみないと分からないことだ。あんたにだろうが他の誰にだろうが、口で説明できることじゃない」 「だけど、その『あなたの信じるモノ』のためにあなたは、あなたがたどって来た道から大きく外れてしまった――」 リナの声が一瞬、のどに詰まる。 「アメリアがあなたにたどって欲しい、と願っていた道から。あなたは彼女を裏切ったのよ。彼女に何も告げず『あなた信じるモノ』に彼女を差し出した――あなたは彼女を殺したのよ? 彼女はあなたを愛していたわ」 リナは静かな声で言った。 「言うな!」 ゼルガディスが叫んだ。 「アメリアのことは言うな! 彼女は夢物語でしかない、正義に満ちた理想の世界のことだけを考えていたんだ! それに彼女は俺が信じるモノの領域を侵し、混乱を招いた! それが愛か、リナ? それが愛なのか?」 リナの目に宿る悲しみは、ゼルガディスの悲しみに劣らなかった。 「あなたが本当の愛が何なにか分からない以上、あたしがあなたを理解させることはできないわ、ゼルガディス」 リナはともすれば口ごもりそうになる唇をこらえて、なんとか彼の名前を愛称でなく呼んだ。自分はもう彼の仲間ではない。そう思うと心が痛んだ。 しばらく、沈黙が落ちた。もはやそれ以上の言葉は必要ではなかった。 「崩霊裂(ラ・ティルト)!」 ゼルガディスは、以前のような前触れも挨拶もなく、いきなりを呪文放った。 リナは済んでのところでそれを屈折させてよけたが、その強力さに、改めて合成獣の実力の程を思い知らされる。 「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」 リナも呪文をお返ししたが、ゼルガディスは難なくそれを打ち払うと、矢継ぎ早に呪文で攻撃してくる。 彼らは、草の茎が風に揺られて左右に振れるように、互いに呪文を応酬したが、直撃するものはなく、互いに相手の魔力を少しずつ消耗させていくだけ。それはいわば互角の戦いで、どちらも相手の陣地を取ることができない状態だった。 突然、呪文を唱えるのを止め、ゼルガディスが剣を抜く。無慈悲な刃は、鼓動を刻んで膨らみつつある闇の中でさえ銀色に輝き、リナは背筋が寒くなる恐怖を覚えた。魔術では相手を凌駕できても、ゼルガディス相手に剣では勝ち目がない。 ゼルガディスはリナの周りを円を描つつ、彼女の感覚を狂わせて精神集中を乱し、動きを読まれないよう、複雑な動きで移動する。 永遠に続くかと思われる死の舞踊をふいに中断し、ゼルガディスはリナの防御がお留守になった瞬間に、疾風の速さで襲いかかった。リナに生来の敏捷さがなかったら、胴体を腰で両断されていただろう。致命傷は避けられたが、彼女は腹に傷を負ってしまった。 傷口の熱く跳ねるような痛みに悲鳴を上げ、リナは短剣を抜いた。ゼルガディスの武器と腕に対抗するには、お笑い種でしかないオモチャだということは分かっている。しかし、何かがなくてはどうしようもなかった。 それはまるで無限の戦い。終わることなく、互いにいつ始まったのかも分からない。片方が呪文を放ち、あるいは斬撃を加え、他方はそれを受け流し、攻撃に失敗することの繰り返し。二人の戦士がせわしくなく足場を求めて移動し、身を翻し、またステップを踏んで移動するさまは、さながらダンスをしているかのようである。 リナの背後から不意をついて攻撃がきた。対した防具もない、膝の後ろをやられる。傷口から血がほとばしり、彼女は無様につんのめってうつぶせに倒れた。リナの全身に痛烈な痛みが駆け巡り、思考さえ麻痺しそうだ。 ゼルガディスは彼女の上に立ちはだかり、剣を構えている。その目は火打石のように確固として、人間性は半分ほどしか感じられない。 リナは自分が敗れたことを悟った。しかし、その訳が分からない。 彼女は全力を出さなかった。が、ゼルガディスは全力を出した。 決定打となるはずの呪文を使おうとするたび、リナの心の中か頭の中か、何かが彼女の意気を失わせ、呪文を唱えられなくなったのだ。 「殺るがいいわ、ゼルガディス」 彼女自身の耳にさえ、自分の声が荒っぽく投げやりに聞こえた。 「あなたの勝ちよ。殺りなさい」 リナは思いの丈を封じるように目を閉じ、その時を待った。 木の葉のざわめきと、木から舞い落ちる花のささやき以外、何も聞こえない。舞い散る花の下、二つの人影は動かなかった。 リナは目を開きたくなったが、ゼルガディスがまさにそれを待っているような気がして怖かった。 いつ彼が行動を起こすのか、分からないのは狂いそうなくらいにじりじりとする。彼女は胸中で、さっさとやってよ、と叫んでいた。 死が怖いわけではない。目の前で多くの死を見て来たのだから。 しかし、仲間だと思っていた者のの手にかかるのは――その者を、彼女自身、仲間以上の存在であって欲しいと望んでいた時には‥‥ ふと、リナは何が自分を押し止めていたのか、理解した。 金属がこすれる音に、リナは目を開く。合成獣の男は、剣を完全に鞘に収めるとそっぽを向いていた。 リナには、彼の表情に、自分と同じ深い悲しみが見て取れた。 ゼルガディスは語り始めた。彼女に告げるというより、彼自身に言い聞かせるように。 「できない‥‥俺にはできない。どうしたっていうんだ? 俺はあんたを信じちゃいない。だが、俺の主人も信じられない。人ひとり殺せない‥‥もう、俺には‥‥何も無い」 ゼルガディスは呆けたように、主人の元から追放されることを嘆き、わめき続けている。が、突如、自身の言葉を初めて自覚したのか、我に返った。 「俺は何を馬鹿げたことを言っている? これじゃ、お涙頂戴の芝居をやってる大根役者じゃないか! 俺はやれる。やらなければならん。リナ、俺はお前を殺す!」 しかし、ゼルガディスが自分ひとりでしゃべり続けていた間に、リナは無言のまま呪文を唱えていた。 再び、剣が鞘走った時、リナは頭の中で呪文を唱えていた。こうして口に出さずに詠唱することで、呪文のパワーを増すことができる。 ゼルガディスが剣を振りかぶったのと、リナが顔を上げたのは同時だった。そしてリナは両手を前に差し出した。 「あなたを愛してる」 優しい声で告げる。 彼は目を見開いただけ。 「竜破斬(ドラグ・スレブ)」 リナがささやくように言った。 世界が二人もろとも爆発した。 |
| 後書き:感想をお待ちします。もしも誰も感想を送ってくれないと、私の作品は下手なのかと思って、もう筆を折ることになるかもしれません。 |
| 翻訳者注:アメリカでは、スレイヤーズの小説は発行されていません。そのため、いろいろと作者の想像が入っていますが、割り引いてお読みください。 |
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