ゼルガディスの病気の日

作:ハイジ / 翻訳:キューピー/DIANA


「うわっ!」
   ゼルガディスは階段から地面にまっさかさまに転げ落ちた。
「…………」
 彼は立ち上がったが、目には涙が浮かび頭には大きなコブができていた。レゾが走り寄って来る。
「ああっ、ゼルちゃん!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ」
「本当に?どこから落ちたんです?」
「階段から」
「あああああっ!どこを打ったんですか!?」
「…う……頭だが……」
「あああああああああっ!ゼルガディスちゃん!脳がやられたに違いない!」
 ゼルは顔をしかめた。
「-_-;;;……祖父さん……俺は別に脳にダメージを受けちゃいないよ。そんなことになっていたら、あんたとこういう風に話したりしていない」
「あなたは分かっていないんです!あなたは何もなかったように私と話しているでしょう、そして翌日になるとまるでゾンビのようにしか話せなくなる!いや、悪くすれば死んでいるかもしれない!!」
 レゾの目にも涙がにじんだ。ゼルガディスはそれを見て、また顔をしかめる。
「^^;;;;……あの…俺は本当に大丈夫だから、祖父さん……本当だって…」
「ほら!!あなたはもう、いつもと様子が違う!まるっきり親切で行儀がいい!
ああ!いつものあなたじゃない!」
「-_-;; あのなぁ……俺だって成長するだろ?」
「違う!」
 背景があわ立つ景色に変わり、レゾは劇的な仕草でハンカチで目をぬぐった。
「あなたは脳をやられてしまったんです!ああ、あなたのお父さんになんと言っ
たらいいのか?」
「あのなぁ……俺には父親はいないぜ」
「ええ?じゃあ、あなたはどうやって生まれたんです?空から落ちて来たとか?」
「-_-;; いいや……俺が言いたかったのは、親父はここにはいないってことだ」
「そう……そのことは忘れていました……」
 レゾはゼルガディスの様子を心配そうにうかがった。孫の頭に手をやり、ゼルがよけようとするよりも早くそのたんこぶに触れた。まだ痛むところに触られ、ゼルも思わずひるんでうめく。
「おぅっ! Xp(訳注1)
「何です!何が?痛みますか?ああ、私はなんてことを!」
「いや……大丈夫だ……」
「いいえ!あなたは今まさに脳にダメージを受けたんです!私のせいで!」
「いや……俺は大丈夫だって」
「いいえ!あなたはきっと死んでしまう!私は人殺しだ!私は自分の孫を死なせ
てしまうのだ!!!」
 レゾは地面に崩れ落ちた……ゼルガディスは盛大な汗のしずくを垂らす。
「おい……俺がうめいたのは、あんたの手が、階段から落ちたときにできたコブに当たったからだ。あんたも分かっただろう?」
 レゾは何も聞いていないようだ。彼は立ち上がって言った。
「愛しい子よ。私はあなたが病気であると告知します」
「はあ?どういう意味だ?」
「病気、病、不健康、感染、気分が優れない、加減が悪い、体調不良、虚弱、衰弱、なんと言葉を並べようと、病気は病気です」
「おい、待てよ!俺は病気なんかじゃない!」
「(ため息)あなたの看病をすることは私の義務です」
「しかし、俺は病気じゃないぞ!」
「しーっ、病人はそんなにしゃべってはいけません。体に障ります」
「しかし、俺は病気じゃない!」
「静かに」
 レゾは身をかがめ、ゼルガディスが動くよりも早く、彼を腕に抱き上げ、屋内へ運び込んでしまった。
「俺は病気じゃない、って言っているだろう!なんだってそんなバカげたこと、考えるんだ!?」
「あなたは病気に見えます」
「俺が……見えるだって! @_@」
 ゼルガディスは固まって何も言えない。
 レゾはゼルガディスの部屋にたどり着き、彼をそっとベッドにおろすと、かけ布団をかけた。
「ここから動かないで……少し休みなさい……休む、というかお眠りなさい」
 レゾは部屋から出て行き、ゼルガディスはそれをただただ驚きのまなざしで見送った。
「いったいレゾはなんだって俺が病気だなんて考えたんだ?」
 ゼルは考え込み、やがてため息をつくと頭までかけ布団にくるまった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 ゼルガディスは眠らなかったが、「休み」はした。祖父がこの部屋に彼を置き去りにしてから数時間は経っただろう。彼は耳をそばだてていたが、何の物音も聞こえなかった。この家ではいつもこうだ。彼の祖父は大変に静かなのだ。誰かが踏むと必ずきしむ木の床を歩くときさえ、足音を聞き取ることはまれである。
「あいつは幽霊なのかもしれないな」
 ゼルガディスがそう心につぶやいたとき。
「ゼルちゃ〜ん、起きなさ〜い?」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ゼルガディスは思わず飛び上がり、天井に頭をぶつけてベッドの上に落っこちた。彼の目には今日2度目の涙がにじみ、頭には二つのコブが並んだ。
「ああっ!ゼルガディスちゃん!大丈夫ですかっ!?」
「ああ……大丈夫だ。しかし、(驚いて)心臓が止まるかと思った」
「すみませんでした」
 レゾは謝ったが、突然、いぶかしげな表情に変わる。
「あなた……眠りませんでしたね?」
「え……あ……」
 ゼルガディスは顔を赤らめ、後ろめたそうにレゾを見上げた。
「あの……」
 レゾは腰に手を当てて言う。
「正直に答えなさい」
「--;;; ……ああ……実際のところ……眠らなかったよ」
「ほう?」
「だけど……だけどそこらをぶらついたりしていたわけじゃない、何もしてないさ!」
「ほう?」
「『ほう?』って言うのはやめろ!本当さ、俺は嘘なんか言ってない!だいいち、俺が嘘をついたところで、あんたはどっちみち見抜くだろうさ!」
「ほう!?(そうですか?)」
「あ、そうだよ!」
「ふむ……(眠らなかったのなら)もうベッドに入るべきでしょうね」
「俺がさっき眠っていたなら、何がどうなったっていうんだ!」
「私には分かりません」
「なんで!?」
「私は目が見えませんから」(訳注2)
「じゃあ、何がどうしただろう、と考えてるんだ?」
「ふむ……」
 レゾはベッドの端に腰を下ろし、しばらく考え込み、やがてゼルガディスの方を見て(?)肩をすくめる。
「たぶん、あなたがよく眠ったらもう眠たくなくなるでしょうね、それで私の目をかすめて一晩中ほっつき歩くでしょう」
「(今、眠らなくても)たいして状況が変わるわけじゃなかろう」
「-_-+」(おいこら)
「^^;;;;」(口は災いの元)
 レゾはいずまいを正して背筋を伸ばした。背中の筋肉がぱりぱりとひきつり、彼は顔をしかめる。
「@_@ ……あ……と」
 彼はいつもの表情に戻ると、ゼルガディスに話しかける。
「そうだ、ゼルちゃん!何か食べるといいでしょう!」
 ゼルガディスの目は大きく見開かれ、部屋の空気は劇的な音楽のようにとどろ
く雷鳴と暗雲を駆け巡る稲妻とに占領された(ばん、ばん、ばぁぁぁぁん!!!)
 レゾの頭にでっかい汗のしずくが浮かぶ。
「食事をとることは、何も世界の終わりではありますまいに」
 レゾがなだめるように言う。
 ゼルはようやっとのことで声を出した。
「俺にとっちゃ終わりのようなもんさ」
「は?そうですか?おしまいだと?」
 レゾは皮肉っぽく問い掛ける。
「あなたのダイエット・ワールドのおしまいじゃないですか?」
 返ってきた答えは。
「いいや、食べると死んじまう。俺の胃袋は食事を受けつけるほど大きくない」
「なるほど、確かに」
 レゾは物音も立てずに部屋から出て行った。
 ゼルはかんぬきをかけようと考えた。しかし、ベッドから飛び出そうと、かけ布団をはねのけたとたん。
 レゾがまた物音も立てずに入って来て、ゼルガディスは再び度肝を抜かれた。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! o_o」
 ゼルは叫び、天井めがけて飛び上がりかけたが、届くより前にレゾが彼の足を捕まえ、ゼルはベッドの上に落っこちた。
「おいっ!あんたのおかげで俺は死ぬかと思ったぞ!どうしてこんなに早く戻ってくるんだ!」
「こんなに早く、って……どういうことです?」
「あんた(俺に何かを食べさせようっていうなら)、まず階段を降りて台所に行
って、何か料理を作ってから階段を上がってくるはずだろう!?」
「そんな必要ありません。もう持って上がって、扉の横に置いておきましたから。私はただ戸口まで行けば済んだんです」
「-_-;;;」
「さあ、お食べなさい、ゼルちゃん」
 レゾはタオルをかけてフタをしたボールをお盆に載せて差し出した。
「う……これは何だ?」
 ゼルは疑わしそうに尋ねる。
「いや……分かりません」
 レゾは頭を掻く。
「3週間前に食べ残したチーズ料理か、今朝芝生で見つけた何やらよくわからないモノか……」
「うええええぇぇぇぇぇっ!」
「いや、どちらでもないかもしれません。たぶん……」
「いや、もうたくさんだ!もうそれ以上言うなっ!」
「いいでしょう……落ち着きなさい」
 レゾは意地悪くにやりと笑って言う。
「しかし何であれ、食べなくてはいけませんよ」
 ゼルガディスの顔色は、紫、緑、黄色がごちゃまぜになった。彼はぼうっとした状態のまま、お盆を受け取り、タオルのフタをどかし……
「スープじゃないか!?」
「そうですよ」
「しかし、さっきあんたが言っていた、吐き気をもようしそうなモノは?」
「ええ?ゼルガディスちゃん、あなたは私が本当にあなたにそんなゴミを食べさせると思ったんですか?さあ、お食べなさい」
 ゼルガディスはスープを全部たいらげた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 ゼルガディスが食事を終えて一時間後。レゾはその間ずっと、ベッドの隣の椅子に腰をおろしていた。
 ゼルガディスはベッドから出て、祖父に近寄り、間近で観察した。彼は顔を相手の寸前まで寄せ、目を細める。
「ふむ……こいつは……」
 彼は考え込み、やがて青白かった彼の顔色が、さらに白い陰を帯びる。
「こいつは、まるで死んでいるみたいだ!」
 そのとき、レゾが手を伸ばし、ゼルガディスの肩をつかんだ。彼は驚きのあまり、声も出せなかった。
「何をしようとしていました?」
 レゾが警戒するように尋ねる。
「お……俺は……」
「言いなさい!」
 ゼルガディスはなんとか言葉を口にしようと努力する。
「俺は……俺は何か具合が悪いんじゃないかと思ったんだ」
「具合が悪い?」
「ああ。そんな風にぴくりとも動かずに座っていると、まるであんたがゾンビみたいに見えたんだ!」
「ゾンビですって?」
 レゾは顔をゆがめて立ち上がると、ゼルガディスの方へ、ぎごちなくよろめきながら歩み寄った。ゼルガディスが目を見張っていると、レゾは変な歩き方を止め、顔つきも元に戻った。
「ゾンビとはこういうものでしょう……あん?ゼルちゃん、大丈夫ですか?」
「あ……ああ……平気だ……」
 ゼルガディスが呆然としている。レゾは急に明るく言った。
「さて、何の時間でしょう?」
 レゾの声の明るさに、ゼルは正気を取り戻す。
「え?え?何だって?」
「おねんねの時間です!」
「-_-;;;; ほうぅぅ、いいじゃないか」
 ゼルガディスは皮肉たっぷりに言う、レゾは驚いたようだった。
「おや?ベッドに入りたくないんですか?いいですか、あなたは病気なんです。病人はたくさん眠らなくては」
「しかし、俺は病気じゃない、って言っただろう!」
「そんなこと言っても駄目です。口をあけてみなさい」
 ゼルガディスは言われたとおりにした。彼が口を閉じると、レゾはさも合点したようにうなずいている。
「ははあ……思ったとおりです」
「はあ?」
「あなたの舌の色を見て、結論を得ました」
「どういうことだ?」
「あなたは病気だと」
 ゼルガディスは床に倒れ伏す。
「は…………あ…………--;;;;;;;;;;;」
「おねんねの支度をしなさい、ゼルちゃ〜〜ん!!」
 レゾは踊るように部屋から出て行った。ゼルガディスは汗をにじませながら、寝る支度をする。
 しばらくして、戸口にレゾの顔がひょいと現れた。
「準備はいいですかぁ〜?ゼルちゃ〜〜ん?」
「ああ…いいよ……」
 ゼルガディスは顔をしかめ、同時に汗をにじませる。
「その猫なで声は何なんだ?」
「なんでもありませんよ〜」
 レゾは上の空で答え、さらに興奮した声で続ける。
「さて、これから何の時間でしょう〜?」
「え……-_-;;; 知らないな…何の時間だ?ベッドに入る前のお仕置きの時間か?」
「いいえ……ベッドタイム・ストーリーの時間です!」
 レゾは勝ち誇るようにでっかい本を取り出した。
「げ……o.O!ベッドタイム・ストーリー???」
「そうです!」
 ゼルガディスは本に目を走らせた。タイトルは『退屈な話ばかりの分厚い本』。
「分かったぞ!」
 彼は叫んだ。
「俺を退屈させて眠らせようって魂胆だな?」
「とんでもない。この本が何か?」
 レゾが尋ねた。が、この質問はゼルの脳裏で何かをひらめかせた。
 レゾは肱掛椅子に腰をおろし、自分の膝に孫を招く。ゼルガディスは一飛びでそこにたどり着いたが、祖父が老眼鏡をかけているのに気がついた。
 彼は驚いて言う。
「祖父さん!あんた、目が見えないのに!お休み前の本は読めないはずだ!」
「何を的外れなことを言っているんです!私は読めますとも!」
 レゾは最初の物語のページを開き、読み始めた。
「むかしむかし……」
「…………」
「……………………」
 レゾはしばし黙り込み、ゼルガディスが尋ねる。
「どうかしたのか?」
「ふむ…………この本に何とあります?」
「--;;;;;; あるところに……」
「そう!あるところに…………に……-_-;;;;;;;」
「退屈な男がいた」
「退屈な男!?」
「退屈な家に退屈な妻と住んでいた」
「退屈な家に?退屈な妻と!?愛しい子よ、何を言っているんです?」
「祖父さん!俺は物語を読んでいるだけだよ!」
「ああ!そうですか……面白くない物語ですね。こんなどうしようもない本など無しにお話をしてあげましょう」
 レゾは本を肩越しに投げ捨てた。ガラスが割れる派手な音がして、誰かが叫んでいる。ゼルガディスはまた汗をにじませ、ハンカチで顔をぬぐった。
「OK!むかしむかし、あるところに、Aという男がいて、彼にはBという名前の孫がいました」
「AとBだって?Bの父親の名前は?AとBの間には誰が?」
「はあ、父親はいないんです」
 レゾは残りの話をしたが、それはその日に起きた出来事そのものだった。
「そうして、Aはお話を終え、孫にこう言いました。『愛しい子よ、あなたは病気などではありません』」
 レゾはこう付け加えた。
「愛しい子よ、あなたは病気などではないのですよ」
「はあ?じゃあ、なんだってあんたは俺を病気だと決め付けたんだ?」
 ゼルガディスは尋ねた。レゾはお話を続けた。
「BはAに尋ねました。『じゃあ、なぜ僕を病気だと言ったの?』」
「おい、あんたは起きたことをそのまんま言わなくちゃならないのか!?」
「『お祖父さんは、起きたことをそのまんま言わなくちゃならないの?』とBは言いました。Aは質問を無視してこう答えました。『エイプリル・フールだよ、Bちゃん』」
 そしてレゾが「エイプリル・フールですよ、ゼルちゃん!」と繰り返すのを、ゼルガディスはただ目を見開いて見つめていた。
「え……あ……」
 レゾはさらにお話を続ける。
「Bは咳こみ、ぶつぶつと何か口篭もっていました。そこでAは孫をベッドに入れました……おしまい」
 レゾはそのとおりにゼルガディスをベッドに入らせた。
「おやすみ、ゼルちゃん」
「o_o.....」
「おや?本当に具合が悪いんですか?」
「o_O.....」
 レゾは手を孫の額に当て、すぐに引っ込めた。
「ああ!!すごい熱です!最近はやっているインフルエンザにかかったに違いありません。なんてことに……どうしましょう?ゼルちゃん、薬をあげますからね」
 レゾはゼルに薬を飲ませた。
「さて、それでは……おやすみなさい……明日、もう一度熱を計ります。たいした事が無ければいいんですけれど……」
 レゾはゼルの頭を軽くたたいて、部屋から出て行った。
 ゼルガディスはため息をつく。
「こいつは作者のかけた罠だな……明日になったら確かめてやる」
 そうして彼は布団にくるまり、寝付いた。

作者「お〜ほほほほ!明日になったら何が起こるでしょうね〜?」


 はは……ばかばかしかったでしょう?  私はこれを半分眠りながら書いていました。おかげでばかばかしさ爆発……

訳注1=「Xp」は横向きに見ると、しかめた目と口を表す。 訳注2=この3行前のゼルの質問は、"see"=見る、分かる、という単語を含んでいた。

注)現在、スレイヤーズの小説の英語版は出版されていません。従って英語のパロディ小説は、アニメから得た情報やインターネット上の噂などをもとに書かれているとご承知ください。

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