| QPハウス1周年記念作品 ゼロスの秘密の物語 ティルトさん作 |
| 「ふう、ようやく見つけましたねぇ」 異界黙示録の写本らしき本を手にして、ゼロスはつぶやいた。 それを消去するのが仕事とはいえ、不確実な情報をもとに探し出すのは、かなり面倒くさい。ときどき、もっと簡単に見つけられたら、どんなに楽な事だろうと思うこともあるが、異界黙示録の写本の数がどのくらいあるか分からない以上、結局は地道にやるしかないのである。 もっとも彼の場合、獣王ゼラスからも情報をいただけることがあるため、ゼルガディスに比べればまだましなのだが、だからといって彼がゼルガディスと手を組むという義理も筋合いもなければ、そのつもりもない。 一般に異界黙示録の写本というものは、断片的な紙切れで残っている事のほうが圧倒的に多いのだが、ごく希に、ある程度の厚さの冊子形態になっている事もある。今回ゼロスが見つけたのも後者の方だったが、これほどまでに厚いものに巡り合えるの事は滅多にない。 ともかく、彼は手にした物が本当に異界黙示録の写本かどうかを確かめなければいけなかった。 ゆっくりと、表紙の端に手をかけ・・・ おや? 何か違和感を感じた。厚さの割に、重さがあまりないのである。 しかし、ここで手を止めていても仕方が無い。 「では、拝見しましょうか」 つぶやきつつ、ページを開いてみる・・・と、 見開きの間から、厚紙で出来た馬や木や、お城や王子様といった仕掛けが、待っていましたとばかりに立ち上がった。 「・・・飛び出すえほん?」 ガセネタだったらしい・・・ ☆ ☆ ☆ 「ふう」 つい、ため息が出てしまった。いくらタフな魔族といえども、こういう時の精神的ダメージとストレスはかなりなものだ。特に今回は、見つけ出すまでに、かなりの時間を要したから。 もちろん、このくらいのことで、獣王のお叱りを受けることはないのだが、それがかえって申し訳なく思えた。何しろゼロスにとっての獣王ゼラスは親にも等しい存在である。何とかしてお役に立ちたいと思うのは、当然のことだといえよう。 まあ、何だかんだといっても所詮は悲しい中間管理職。こう、何もかもが空振りに終わった時なぞは、つい人生の悲哀なんてものを味わった気になってしまう。 ・・・って、いけませんね。魔族が暗い気持ちになっていては。 ゼロスは、心の中でつぶやくと、近くの村に足を踏み入れた。 リナではないが、こういう時は食べて発散させるのが一番! ふと見ると、とある建物の前に、ひとだかりが出来ていた。どうやら食堂のようだ。大きな花輪がたくさん飾られているところからすると、オープンしたばかりのようだ。 ただ問題なのは、その前にできている長蛇の列。 やはり、誰しも新しいことには好奇心がわくのだろう。こういう光景は、どこの町でも目にすることができる。 これではならべそうにないですね・・・仕方ありません、別の店をあたりましょうか。 心の中で言いつつ、きびすを翻そうとしたゼロスは、その瞬間、その店の看板に目がとまった。 『活き魚、海鮮料理』 ・・・・いきうお? かいせん? こんな山奥の村で? 「あのー、つかぬことをお聞きしますが?」 ゼロスは、その辺にいた男を捕まえて、尋ねてみた。 「この店、踊り食いもありますか?」 「は、はあ?」 「聞こえませんでした? この店には『踊り食い』はありますかと聞いたのですけれど」 「いえ、別に聞こえなかったわけではありませんが・・・」 男は明らかに困惑していた。 「たしかに、この店の目玉料理ではありますけれど、まさか神官様もお食事に?」 ゼロスはその問いには答えず、微笑みを浮かべつつお辞儀をし、彼から離れた。 ああそういえば、人間の神官は生臭ものを食することはタブーでしたねぇ。 心の中で、舌を出しつつ、ゼロスはそれでも列の最後尾に並んだ。 やはり、名物とまでいわれる踊り食いを、みすみす見逃す手はないと思ったのである。 ☆ ☆ ☆ ☆ ゼロスがテーブルについたのは、それからほどなくしての事だった。 外の行列の長さとは裏腹に、客の回転率は良いらしい。 「お待たせいたしました」 どういう輸送の仕方をしたのかわからないが、運ばれてきた白魚はかなり活き活きとしていた。海辺から離れたこんな土地で、これほどの物にありつけるとは、正直思ってもみなかった。 小さな器の中に満たされた水の中では、十数匹の魚たちは、これから何が起こるかも知らず、泳ぎまわっている。 ゼロスは、そのうち特に元気に泳いでいる魚を一匹つまみあげると、テーブルの上に転がしてみた。 そいつは、しばらくテーブルの上でピチピチと跳ねていたが、次第にその動きが鈍くなってくる。 『ううううっ・・・』 苦しそうな魚の思念が、ゼロスの心に中に流れ込む。 うーん、美味!! こんな小さな魚でも、生きたいと思う生命力は人間のそれと大差がない。 もちろん、人間の負の感情の方が、怒りや悲しみといった物が更に大きくて美味しいのではあるが、魚にはまた別の味がある。 時間を追うごとに身体が乾き、魚はいっそう苦しそうにもがき始めた。 だが、ここでとどめをさしてしまってはもったいない。 ゼロスは、そいつを再び器の中に戻した。 『助かったと!』という魚の喜びの感情が体に流れ込む。ちょっと不美味いが、これはより美味しく食べるためのエッセンス。 今度は一匹とは言わずに、一つまみ分の魚を器から出し、テーブルに置いてみる。 『うぐっ・・・』 そいつらの苦しみの感情はもちろんのこと、器の中に残っているその他の魚たちからも『次は俺では?』という恐怖の感情が、ゼロスの爪の先から髪の毛一本にいたるまで、怒涛のごとく体に押し寄せる。もっとも精神体である魔族に爪や髪の毛があるわけではないのだが。 ふふふ、至高の瞬間! 存分にその味を楽しんだゼロスは、もう一度魚たちを器に戻した。 さて、いよいよメインディッシュ! ゼロスは、他の客には見られないように、左手の中に小さな火を生み出すと、そっと器に近づけてた。こうして、じわじわと水を温めることによって、少しづつ絶望していく魚の味は、格別である。 喩えて言うなら、人間の食べるカツ丼。 ふっくらと炊いたご飯の上に、カリッとあげたカツを玉ねぎと一緒に卵でとじたものをのせ、蓋をしてしばらく待つ。 そうすると、このしばらく寝かせている間に、カツや卵からあがる湯気が器の中に充満し、ご飯と具とが渾然一体となってすばらしいハーモニーをかもし出す元となる。 腹を空かせた人間たちは、これを今か今かと我慢した後、ようやくその蓋を取ることが許される。その瞬間に立ちのぼる、ほわっとした香りが五臓六腑に染み渡り、なんとも食欲をそそるのだ。 もちろん、魔族であるゼロスにとっては、カツ丼の味など良く分からないことと思われるが、今、彼が味わっているのはこれとほとんど同じと言ってよい。 わくわくする、という形容を魔族に当てはめることはできるのだろうか? と、その時、 「ゼロスっ、何やってんのっ、こんなところでっ!」 ズべっ ゼロスは思わず、つっぷしてしまった。そこにはリナを始め、ガウリイやゼルガディスたちがいたからだった。 「な、何って別に、僕はただここで食事を・・・」 とっさのことに、正直に答えてしまう・・・が、 「へぇ、魔族が食事ねぇ」 リナは、上目遣いにゼロスの顔をのぞきこんだ。 「あうう、そんな探るような目つきで僕を見ないで下さいよ。照れるじゃないですか」 冗談めかして答えると、リナはややげんなりと、 「相変わらず、ばかなこと言ってるわねぇゼロス」 「・・・ば、ばかなことですか・・・?」 「だって、魔族のあんたがこんな所で食事だなんて、どうみても不自然だもの。今度は一体、何を企んでいるの?」 単刀直入に問われても、答えようもない。 ゼロスにしてみれば、その前に踊り食いをニコニコしながら楽しんでいたのを見られてしまったんじゃないだろうかという、一抹の不安があったためあまり下手なことは言えない。 ま、まさかリナさん。僕のこと、からかってるんじゃあないでしょうねぇ。 高位魔族にしては珍しく、ゼロスは変な脅迫観念にとらわれていた。 まさか、好物が魚の躍り食いだなんて、知られてしまっては、今後の仕事にも障りがでてきてしまう。特にリナの場合は、それをネタにして、しつこくいじめてくるかもしれない。 「い、いやだなあ、みなさん。企みなんて何もありませんよぉ」 冗談めかして言ってみたが、もちろんこれは真実。 「どうだか・・・」 しかし、リナはやはり信じない。 それにしても本当のことを言って信じてもらえないというのも、なかなか悲しいものがある。 「そういえば、ゼロス、いいもの食べてるじゃない。あたしにもちょうだい」 へ? 反論する隙はなかった。リナは、テーブルの上にあった器を取り上げると、その中身を一気に口の中に流し込んだ。 「うっ」 思わず声がでてしてしまった。 おそらく、魚たちは先ほどからのゼロスのいたぶりに耐え切れず、どうせならいっそ殺してと思っていたのだろう。彼の身体に流れてきた、最期の瞬間の思念は、死ぬことの恐怖ではなく、ようやく死ねるという安堵感。 不味い・・・吐き気がするほど。 「何よ、その嫌そうな顔は」 思わず顔をしかめたゼロスに、リナが追い討ちをかける。 「い、いや別に・・・」 何とかしてこの場をごまかそうと笑うゼロスだったが、これがかえって良くなかった。その笑顔は、どこかひきつった物になってしまった。 「やっぱり怪しいですね」 「そ、そうですか、アメリアさん。別に僕は何もしてませんよ」 「ふーん」 横合いから、意味ありげなリナの声。 「じゃあ、あなたはここで何をしていたというの?」 「へ?」 「もう一度言おうか? あたしは『ここで何をしていたのか?』って聞いたのよ。そんなに難しい質問じゃないでしょ?」 いや、それが簡単に答えられるものじゃないのですが・・・ 正直に言っても疑われるし、かと言ってこの場をごまかす嘘も思い浮かばない。 ゼロスはしかたなく、その場をごまかすため、指をぴっとたてた。 「それは、秘密です」 もちろん、リナさんたちがげんなりとした表情を浮かべたことは言うまでもない。だが、ゼロスにしてもても、踊り食いの事は秘密なわけだから、嘘は言ってないのである。 ただ、これ以上ここにいると、どうなることやら。ともかく、今は一刻も早くこの場を去るべきだ。 「それじゃ、僕はこのへんで・・・」 言って、何やらわめいているリナやゼルガディスたちのの声を背にうけつつ、ゼロスは店を出た。 店の脇に飾ってあった、大きな花輪に目をやってみると『祝・1周年』とかかれていた。 「ああ、オープン記念ではなかったのですねぇ」 とりあえずつぶやいてみたが、だからどうだということもない。客たちにとっては、店がよければ、どちらでもかまわないことなのだ。 今日は予想外のことがあって、あまり楽しめなかったが、確かにあの魚の活きの良さは抜群だった。 今度、リナさんたちがいないときに、また来てみよう。 そう思いつつ、ゼロスは振り向いて、店の看板をもう一度みた。 『キューピーハウス』 1周年おめでとう! おわり |
あとがき私は一度だけありますが、あれほど精神衛生に悪い料理はないでしょう。 なにしろ、まだ生きて動いている魚をそのまま食べるわけですから、口の中に入れた瞬間、舌の上でのたうち回るって気持ちが悪いわ、思い切って飲み込んでみれば、まだ胃袋の中で泳いでいる気がするわで、とても美味いとかまずいとかいえるシロモノではなかったです。 さて、今回のお話、事の発端は、キューピーさんのHPが1周年を迎える数日前、ニフティのチャットルームでキューピーさんとお話をしている時に、たまたま1周年の話題になり「じゃあ、何か書きましょうか?」と言ってしまったのが運の尽き(^^;;; 言ったはいいが、何もネタが浮かばない。 ゼロスを書いてというリクエストだったのだが、何しろ私ゼロスを書いた事が一度も無い。 こりゃやっぱり何も無かったことにして、しらばっくれてやろうかしらって思ってた矢先、たまたまTVの旅番組が目にとまった。これを何となく、眺めていたら、活きのよさそうなエビがピチピチと跳ねている映像が映っていた。で、その跳ねている様を見ているうちに、なぜか『踊り食い』の事を思い出して、で、こんな変な物ができてしまったのでした。 1周年記念なのに、しょーもない話でごめんなさい。 ティルト 謝 辞一度も書かれたことが無いゼロスねたで、というわがままなお願いに快く応じていただけて感謝至極でございます。 ティルトさんの軽いお話には、お食事がらみのストーリーが多い、と思うのは私の偏見でしょうか?しかもそのどれもが、食事の持ち味を十分に生かしての筋になっていて(おでんの話とか……)、とても面白いんです。 とても楽しく読んでいて、そして最後に出て来た「1周年おめでとう!」を読んだ時には、「本当にホームページをつくって良かった!」と感激しました。心から感謝します。 どうもありがとう! キューピー/DIANA(2000年4月9日)
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