| 名称 | 聖十字架 |
| 種別 | 聖遺物 |
| 出典 | ヨーロッパの伝承 |
ヨーロッパ中世にはいろいろな聖人の遺物が功徳のあらたかなものとされていました。勿論、キリストに直接ちなむものが一番価値が高いわけです。仏舎利と同じように、キリストが架けられたという十字架のかけらも、大変珍重されました。
この十字架は、中世の民間伝承によると、アダムの息子セトが、エデンの園を守る天使からもらった楽園の木の種三つを、父の口に入れて埋葬しました。すると、その髑髏から三本の樹が生えてきました。この髑髏が埋葬された場所が、かのゴルゴダの丘です。三本の樹は切り倒され、ソロモンが神殿の建材として用いようとしたのですが、どうしてもそうする事ができず、ずっと後になって、キリストのための十字架に用いられる事になったのでした。
この伝承に従えば、十字架のかけらは、単にキリストがその上で死んだものというだけでなく、エデンの園にもつながる樹だったという事になります。
初期のキリスト教は、キュベレ信仰やミトラ信仰から大きな影響を受けたと言われています。特に、キュベレ信仰では、植物神(死ぬ事で大地=世界を豊饒にする役割を果たす神)であるアティスが樹にかけられて供犠にされたといい、これが十字架上で殺されたイエス・キリストと共通点を持っていたわけです。キリストは、人間の原罪を購うために自ら供犠となって十字架にかけられたので、その意味では、アティスと同様、世界をリニューアルさせる役割を負っていました。とすれば、アティスの架けられた樹がそうであったように、十字架もまた、一種の聖木、宗教学的な意味では世界樹の一種であったわけです。
ところで、全く別の伝説によれば、キリストの十字架は、ポプラで作られたという話もあります。このため、ポプラは今でも体を震わせるのだとか。
〔参考〕
「金枝篇」フレイザー(岩波文庫)
「ヨーロッパの神話伝説」ジャックリーン・シンプソン(青土社)