No.007
新しい世界を覗いてみること
2000.12.20
text by RB(あーるびー)

 

 

その球はまるで生きているかのようであった。互いの選手がそれぞれに、直径40mmの球に命を吹き込み、自らの意志をそこに託していた。

私は、初めて日本のトップクラスの卓球の試合を見た。全日本選手権男子シングルス決勝。何気なくスイッチを入れたテレビに映し出された光景は、私の想像を遥かに超えたものであった。サッカー狂である私が、同時刻、他局でサッカー天皇杯の中継が行われていることを知っていながらもチャンネルを変えることはなかった、と言えば、私が受けた衝動というものが伝わるだろうか。

卓球選手も、様々なタイプに分類されるらしい。この試合も、全くタイプの違う2人の闘いであった。1人は、卓球台の近くで積極的な攻撃を仕掛けていく選手。そしてもう1人は、相手の攻撃を、台から離れたところで拾い続けてチャンスを待つ選手。前者には驚異的な反射神経が求められ、後者には、相手の攻撃を拾い続けられるだけの“カット”と呼ばれる技術が高い次元で必要とされる、とテレビ解説者が言っていた。

この“カット”という技術に、素人の私が驚かされたことは言うまでもない。どうすれば、たかが直径40mmの球にそこまでのスピンをかけられるのだと思うくらいに、放たれた小さなボールは回転し、次の瞬間、卓球台の上で躍動していた。もうそれは、普段私たちが目にする所謂“ピンポン球”ではなくなっていた。自らの意志を持ち合わせているかのように、そして相手コートに吸い付けられるように、美しい弧を描いていた。

しかも、相手の攻撃を利用して放たれるこのカットボールを打ち返すには、「スクワットをしながら7kgの鉄アレイを持ち上げるような力が必要。それだけの力がないと、球が上がらないんですよ。」(テレビ解説者)というではないか。そんなバカな、と私は思った。しかし、序盤、相手のカットボールを何度もネットに引っ掛けていた“攻撃型”の選手を見ていると、あながちウソではないと思い始め、3ゲーム目ともなった頃には、その言葉を信じるほかなかったのである。

確かに、この試合で目にした2人の選手の体格は、私がこれまで想像していた卓球選手のそれとは大きな隔たりがあった。サッカー選手にも負けぬ劣らぬ程に発達した太股の筋肉。太くがっちりとした腕。なるほどと納得するしかないくらいに、その姿には説得力があった。

誰もが1度はやったことがあるはずの卓球。しかし、いざトップクラスの試合となると、一気にマイナースポーツという枠に追いやられてしまう。今まで知らなかった世界を覗いてみることは、心踊ると同時に新しい発見がある。

あぁ、久しぶりにピンポン球を打ちたくなった。

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