No.025
視聴者が本当に見たいものとは
〜世界水泳福岡2001〜
2001.08.06
text by RB(あーるびー)

 

 

福岡で行われている世界水泳選手権。連日、独占放映権を手に入れたテレビ朝日が午前、午後と競技の模様を伝えている。今日のテレビ業界では、スポーツは最も魅力あるコンテンツとして、その放映権の獲得競争が激化しているが、今回の世界水泳も、シドニーオリンピック終了直後からテレビCMの放送を開始するなど、テレビ朝日のこの大会に賭ける意気込みがひしひしと伝わってきた。それだけに、見る側のこちらとしても、白熱するであろう競技内容と同時に、その放映姿勢にもおおいに期待していた。

しかし、である。いざ大会が始まってみると、テレビ朝日の放映姿勢に関しては疑問に思わざるを得ない点ばかりが目につく。

まず1つ目に、リアルタイムの放送ではないという点。決勝レースを中心に行われる午後の競技は、実際には連日18時開始である。しかし、テレビ放送は19時から。録画放送で見るスポーツ程味気ないものはない。18時放送開始よりも、1時間遅らせての19時放送開始の方が、テレビ局にとっては様々なメリットがあるが故にこうした事態になったということは容易に推測できる。『放送を見る前に結果を見なければ良いではないか』という問題ではない。もう既に結果は出ているということを知っているだけで、その臨場感は半減するものである。さらに、現在は一昔前のように、情報発信源が新聞やラジオやテレビに限られているというような時代ではないのである。情報発信源はそれこそ無数にあり、インターネットに接続し、Yahoo!に代表される検索ページのトップページを開けば、嫌でも結果が目に入ってくる時代なのだ。スポーツのコンテンツとしての魅力は、何もテレビ業界のみに訴え掛けるものではないのであるから、結果を目にしないでいるという方が難しいかもしれない。

さらに始末が悪いのが、録画放送を行っている当のテレビ局が、録画放送であるという事実を全くアナウンスメントしていないのである。それどころか、競技の模様をあたかもLIVE中継かのように見せかけて放送しているのだ。実際の会場ではなくスタジオで一喜一憂している面々は、本当に結果を知らないでカメラの前に座っているのであろうか。実際に行われている競技順すら変え、日本人選手やイアン・ソープなどの注目を集めるであろうレースを最後の最後まで引っ張ってから放送するというような“小細工”までやっていながら…。おそらくは、少なくない人があれは生中継であると思い込んでしまっているに違いない。そんなに視聴率が欲しいのであろうかと思ってしまう。絶対に、『LIVE or 録画』のアナウンスメントは必要である。

また2つ目は、コンピュータ技術を駆使したバーチャルな映像の挿入の是非である。スタート直前や選手のターンの時などに映し出される“バーチャル”な国旗。ゴール近くになると突如としてコース内に現れる、これまた“バーチャル”な世界記録を示すホワイトライン。視聴者は本当にそんな現実感の欠片もないものを見たいと思ってチャンネルを合わせているのであろうか。少なくとも私が見たいのは、実際の福岡の水泳会場で何が起きているのかということである。言うなれば、“リアル”な世界を見たいのだ。「テレビで見た方が、選手の国籍も分かるし、世界記録との比較も簡単だから、会場に足を運ぶよりも面白いよね。」なんて時代が来るとでも思っているのであろうかと理解に苦しむばかりである。スポーツにおいて、会場に足を運んで生で観戦することに勝るものはないと私は信じている。これらバーチャルな世界は、シドニーオリンピックの時にはなかったものである。テレビ朝日としては良かれと思ってやったこととは思うが、はっきり言って力の入れ所を間違っている。私の目には、ただ技術力を披露したかっただけとしか映らなかった。

視聴者が本当に求めているものは一体何なのか。それは、他ならぬ“現実”である。遠く離れた会場で、“今”“何が”起こっているのか。それを、如何に現実感を損なわずに視聴者に届けられるか。それがメディアとしての最重要事項であると思うのだが。

最後に、話が逸れてしまうが、前述したことに関連することで気になることを。スタート直前にバーチャルな“国旗”を挿入したテレビ朝日 = 日本のメディア。「個人」よりもまず先に「国家」が来てしまう悲しさ。今大会、その国籍よりも個人が先に認知されていた唯一の選手は、イアン・ソープくらいであっただろうか。日本のスポーツ界も世界に追いつけ追い越せの気持ちで頑張って欲しいものだが、それと同じことを日本のマスコミにも期待したい。

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