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著者紹介
 著者の前田恵學氏は、大正十五年十一月、名古屋の真宗寺院に生まれ、昭和二十六年三月、東京大学文学部印度哲学科を卒業した。昭和三十七年『原始仏教聖典の成立史研究』によって、弱冠三十五歳で文学博士(旧制)の学位を得、さらにこれを出版して、昭和四十一年日本学士院恩賜賞を受賞、学者として最高の栄誉を荷った。
 昭和三十八年、名古屋に根據を移し、南アジア、東南アジア等における上座仏教の現地調査をくり返し、アジア・エートス研究会で会長を努めるなど、学際的、国際的な共同研究を行った。その成果『現代スリランカの上座仏教』(編著)は今だかつて仏教学の中で論ぜられることのなかった「現代仏教」を主題とし、仏教の実態を過去から現在まで、その生きた全容を根こそぎ取りあげる方法論を確立し、仏教の研究史上、未曾有の金字塔を打ち建てた、と評された。
 海外に出張すること四〇回を超え、欧米や旧ソ連から南北アジアの諸地域を限なく見て回り、初めてユーロブッディズム」を紹介した。韓国、中国、モンゴル、ヴエトナム、台湾にも足を延ばし、世界各地の現代仏教に対する該博な識見を有する。韓国仏教に造形深く、中国仏教に対しても従来の定説を改める斬新な主張を展開している。
 ただに仏教のみでなく、仏キ親善使節団の一員(報道担当)として北欧三国で、各国プロテスタント教会の最高位であるビショップの歓迎を受け、またヴァチカンを訪問、ローマ法王に閲見。スイス・ジュネーヴの全プロテスタントの連絡組織WCC観察等、北欧デンマークからはじめて世界を一周し、キリスト教界との交流に尽した。またイスラム圏では、インドネシアやバングラデシュ等で現地の調査や講演をして、広く世界の宗教を見る目は確かである。
 さて、前田氏は、つとに東海地域の印度学仏教学の研究者を中心に呼びかけて、「東海印度学仏教学会」を創設していたが、スリランカの現地調査、共同研究を契機として、上座仏教ないしパーリ学に関心を有する研究者が、全国学会として「パーリ学仏教文化学会」を組織し、前田氏はその初代会長となり、学問の視野をひろげ、その発展をはかっている。この学会では機関誌を発行し、「前田基金」を設けて、現地調査と海外の外国人研究者の招へいに努めている。
 国内では東京大学、名古屋大学、金沢大学、広島大学、九州大学等で講師(非常勤)を努め、名古屋では、同朋大学、名城大学、東海学園女子短大、等で教鞭をとった。平成三年から二期六年、日本学術会議会員を努めた。また海外では、トロント大学で客員教授を努め、ソウル東国大学校、バングラデシュのダッカ大学、スリランカのジャヤワルダナ大学、コロンボ大学等で講演を行なった。昭和四十七年より愛知学院大学に新設の文学部に勤務し、人間文化研究所初代所長、文学部長、大学院文学研究科長などを歴任し、平成十四年名誉教授に退いた。
 平成十年には文化功労者として顕彰せられ、翌十一年には勲二等瑞宝賞を受けるなど、国内外数々の栄誉を受け、文字通り今日日本の仏教学界の最高峰である。『前田恵學集』は、氏の半世紀にわたる輝かしい研究成果を集成した。尚、東京大学名誉教授(印度哲学)の前田専學(せんがく)氏はその令弟である。