Solitaire's Company/essaysThe Invisible Tie/
うちの塾は、男性講師に対してネクタイ着用が義務付けられている。
僕はネクタイが相当嫌いな方だと思う。まず生理的に苦手だ。話は小学校までさかのぼるのだが、体操帽の、あのゴムの首紐が苦手だった。首の周りに圧迫を感じると首をしめられたような閉塞感を覚え、吐き気がしたものだ。長いこと、あの首紐をくびにかけるということができなくて適当に処理していた。ネクタイも同様で、あれを首の周りにつけるとどうも辛い。首周りがキツイものは嫌いなのである。
大人になって肩凝りなどという悪い遊びを覚えてしまったので、いっそうネクタイが苦手になった。ネクタイをしめるには衿のきちんとしたシャツを、一番上のボタンまで留めて着る必要があり、それは首の可動範囲を狭めることになる。自由に首が巡らせないというのは、肩凝り悪化の原因だ。
そもそも、ネクタイを締めるというあの特殊技術に秀でていないので困ってしまう。僕は高校時代が学ランだったので、ネクタイを締めるということがほとんどなかった。塾の他の講師はみんな塾に来てスルスルとネクタイをしているのだが、僕は鏡がないと締められないのだ。締め方も、自分のやり方が正しいのかどうだか実はよくわからない。
ことほど左様に、ネクタイが苦手な自分である。しかしながら、塾がはっきりと「男性講師にはネクタイ着用を義務付ける」としているのだし、それを知った上で契約したわけだから、ま、割り切ってネクタイをしているわけだ。
それなのに、最近、ネクタイをしてこない講師が一人いる。毎回してこないというわけではないが、ここ5回のうち3回ほどはノーネクタイで授業していたようだ。要領がいいのか、僕以外の人はあまり気付かないらしく(うちは研究者みたいな上っ張りをはおるので、真正面から見ないかぎり意外と分からないものなのだ)、正社員の人からもなんとも言われていない。単にネクタイを忘れてきたからそのまま、ということなのかもしれないが、しかし3回連発は他の講師の手前もあって、マズイんじゃないかと思う。特に僕の手前、マズイんじゃないかと思う。こちとら、こんなに苦労してネクタイしてるっていうのに。
そういうわけで、考え直した。彼はネクタイを締めていないのではない。ルールなんだから、締めていないわけがない。締めているのだ。ただ、バカには見えないネクタイなのである。今度見かけたら「それ、いいネクタイですね」と誉めておこうか。見えてないと思われたらヤだもんな。だけど「えっ? なんのことですか?」と聞き返されたらどうしよう……彼自身には、あのネクタイが見えているのかな。
(1999 10.19)
先日、授業が終わって気付いた。上であれだけ酷評しておきながら、今度は自分がネクタイを締め忘れていたのである(ネクタイは持参していたのだが、教室で締めるのを忘れた)。まさに「バカには見えない」……自分の格好を省みる知恵が無ければ、自分のネクタイが見えるはずがない。聖書に「他人の目の塵を取る前にまず自分の目の梁をどけなさい」とある通りである。反省。
(1999 11.8)
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Solitaire's Company
もがみたかふみ
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