Solitaire's Company//essays/he knew it.//bottom/
仮に(純粋に仮定上の問題として)、一人の男がいたとしよう(若者と書くのもなんだか気がひける歳になってきた。まして少年とは)。こいつが、あるジャケットと運命的な出会いをした。彼にしては珍しいことだ。服をめったに買わない彼にしては。しかも今回は、それが売られている売り場まではっきりと分かっている。どっかのビルの、紳士服売り場だ。そのフロアで友人がジャケットを買っている間に、ぶらぶらしていて見つけたのだ。まあそんな出会いがあってもいいだろう? 出会い方は問題じゃない……問題は、つまりハートがひかれたってことだ。
男は考える。これはつまり、買ったほうがいいってことだろうか? そしてDr.Counsellorに相談する。
Dr.Counsellorは誰にでも一人いるような、いないような、そんななんでも相談できる友達のことだ。すべての悩みはDr.Counsellorのところに行く。あっちの悩みがこちらに来る時にはこちらがDr.Counsellerの名で呼ばれるのだ。だからDr.Counsellorは人名でもあだ名でもなくて、役割を表す名前だと思ってもらえばいい。
そのDr.Counsellorは、ジャケット購入を強く勧める。最近Dr.Counsellorはいつも、服の購入を勧めているのだ。当たり外れはともかく、まず、服を買う習慣をつけなくてはね、とDr.Counsellorは男を励ます。
男はたっぷり1週間考える。そして、ついに決心する。買おう。今日(2月21日水曜日)はずいぶん陽気もいい。絶好の買い物日和だ。仕事の手も空いた。そういうわけで、男はついに駅へ向かい、ガタゴトと電車に揺られて買い物にいく。駅から出た彼は、抜かりなく銀行に寄る。普段よりもちょいと高めの服だから、金を下ろしておかないとな。そうして彼は、ついにそのデパートへ向かう。
外れっこなし。水曜日には、町田の多くの店は定休日なのだ。そうだろう? しかし、それだけではなかった。丸井は、大改装中だった。売り場を全部ひっくりかえすほどの大改装だ。この改装が終わった後、あのジャケットがどこにあるか、誰に分かる?
運命の神様は、すでに男がよくよく知っている、先人の言葉の本当の意味を教えてくれた。「幸運の女神に後ろ髪はない(ダ・ヴィンチ)」。あるいは、辞書に載ってるような、もっと短い単語の本当の意味を。つまりこれがまさに「タイミング」ってことなのだ。(2001.2.21)
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