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what literal man knew
天国に一番近い宝島
文学者に何が起きたのか
 あなたが気持ちのいい無人島に降り立ったのだとしよう。ここはとても素敵な島である。風はさわやか、日差しも穏やか。あなたは伸びをして、バカンス気分を胸一杯に吸い込む。
 ああ、なんて素敵な小島なんだろう。散歩に持って来いじゃないかしら。もちろんあなたは散歩する。砂浜では裸足になって、白い砂の感触を楽しむ。パームツリーによっかかって日差しを避けながら、ぼんやり海を眺める。ちょっとくらいは裸足になって、波に足をつけてみるかもしれぬ。草っぱらではごろりと寝そべって、これがまた眺めのいいこと。小高い丘の上で眺める浜辺は、小さく見えて、そう、箱庭のような……。

 ここまでは、誰もが同じ道をたどる。

 ところが、この小島に滞在するうち、あなたは何か奇妙な“兆し”に気付くはずだ。この島には何かがある。短い滞在ならなんとも思わず見過ごしていたはずのものが、あなたの頭に奇妙にひっかかって離れない。
 たとえば、あの砂浜だ。たしかに、歩いている時にはなんの変哲もない気持ちのいい砂浜に思える。だけど、なんだろう? 何か自然じゃない。どうして、あのパームツリーはあんなに一直線に並んでいるんだろう? 小高い丘の上から見ると、2列のパームツリーがまるでハの字みたいに……いや、3列だ。ハの字というよりは、むしろ、矢印のように見える……矢印?
 思わず知らず、あなたはそのへんてこりんな矢印の先に目をやって、ドキリとする。今まで何とも思わなかった、岩山の中腹の模様が、なにか人の顔のように見えたからだ。たしかに、そう見えないことはない。あそこが額、あそこが鼻で、あそこが……そう、あそこの目が何かを示しているみたいじゃないか? その視線の先を見ると……おや、森の中で何かが青く光った。ガラス? それにしても、そんなに大きなガラスがあるだろうか。あれはいったい……。
 天啓のように、誰かがあなたの耳にささやく。
この島には、秘密が隠されている

 さあ、あなたはもういても立ってもいられない。この島の秘密を解き明かさずにはいられないのだ。のんびりした平穏な散策の時間は過ぎ去ってしまい、ここから先は冒険と謎解きの時間である。知恵と推理を駆使し、慎重に、大胆に、謎を探して島中を巡るのだ。もしかしたら、あれは空耳だったのか? この島には秘密なんてないのかも。それでももうあなたは、あちこち掘り返してみずにはいられないだろう。「もう何も見つからない、自分には何も探し出せない!」とはっきり悟るまでは、あれこれほじくりまわしてしまうはずだ。あるいは穴は掘らないまでも、ちょいとつぶやいてみるわけだ。
「あの洞窟は、たしかにあやしいな」
「まてよ、この木に彫られてる模様は……」
「この入江の潮の流れから考えて……」
 そんな生活が一度始まってしまったら、この宝捜しから逃れるのはなかなか難しい。すべてがアヤシく思えるんだもの。

 これが、文学者に起きてしまったことである。

 小説というのは、ただ読んでも面白いものだ。それはもちろんそうなのである。普通に筋を追いかけるだけで、面白いのだ。そうでなくちゃいかん。ただ、往々にして、そこには秘密のメッセージが隠されている。時には作者が自分でそう認める場合もある。ヒントまでくれることもある。あるいは自分の作品についてまったく語らない人もいる。
 ともかく、そうした秘密があると一度知ってしまうと、いても立ってもいられない。すべてアヤシく思えてくる。そうして、あれこれほじくりかえしてみたくなるのだ。文学にハマっちゃった人というのは、もう普通にただ素で読むだけではなかなか満足がいかなくなってしまう。
 中には、声高に宝捜しの楽しさを主張し始める人もいる。「こんな秘密が埋まっているのに、掘り出さないなんてもったいない! 散策するだけなんておよしなさい!」それはしかし余計なお世話というものだ。散策するもよし、宝を探すもよし、それは人それぞれの楽しみというもので、宝探しがよりいい趣味だというわけではない。

 文学部というのは、トレジャーハンターのスクールである。そこには何十年となく宝を探してきたプロのトレジャーハンターたちが、今も小説の中に秘密を探っている。しかも、その探求はいくらやってもキリがないのだ。まずそもそも、島自体が無限にある。何千何万という小説が世界にはあふれかえっている。主要なものだけに限ってみても、その秘密を解き明かす試みはいつまでも終わらない。
「まてよ、ヘミングウェイのこの部分を、こちらのコンテクストと組み合わせて比較すれば……」
「この単語の当時の意味からすれば、この章句が指している主人公の心情は……」
「この部分と似た文句がたしかグレアム・グリーンの小説に……」
「この反復が読者の印象にもたらす効果は……」

 最近村上春樹を読んでいて、文学論の要不要云々といった話題が出た。それに対する解答がこれである。我々はトレジャーハンターであり、あちこち掘り返さずにいられない。どうか、散策の邪魔だと邪険にしないで、暖かく見守ってやっていただきたい。我々は共に同じ小島を愛していることには違いないのだ。
 あなたが散策するその素敵な島は、我々の胸を躍らせる宝島なのである。

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Mogami Takafumi / もがみたかふみ
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