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Cats don't sing.
猫は歌わない

 とある街の広場で、とある少女が1匹の猫を拾った。少女はリラという名前で、猫に名前をつけた。
「そうだ、お前の名前はティコにしよう。ね、いいでしょ、ティコ? ねえ、お前はどこに住んでるの? あたしはねぇ、父さんと母さんと一緒に住んでるの。でも、いつもふたり喧嘩ばかりしてるんだ」
リラはため息をついて、ティコを抱き上げた。ティコは不思議そうな顔をしてリラの顔を見上げた。
「昔はね、父さんも母さんも仲が良かったんだよ。それに、2人とも歌が大好きで、家族みんなで素敵な歌を聴きに行ったりしたんだ。ティコ、お前の名前もね、この国いちばんの歌手の名前からとったの」
リラはため息をついて、秋晴れの空を見上げた。
「あーあ、あたしが歌が上手だったらなあ。きっと父さんや母さんを仲直りさせるような素敵な歌を歌えるのにね、ティコ。それとも、お前が歌ってくれる?」
突然、ティコが一声高く鳴いた。そしてティコは、リラの腕の中から飛び出し、町外れに向かって走り出した。リラはびっくりしてティコの後を追った。
「ティコ! どうしたの、ティコ! あたしをおいてっちゃダメだよぅ」
ティコはときどき立ち止まって、リラが追いついてくるのを待っていた。そしてリラを誘うように、すこしずつ森の奥に入っていった。次第に日が傾き、もうすぐ山の陰に入ってしまおうかという時になって、リラは大きな崖がそびえる岩肌に出た。ティコはそこに座って、リラを待っていた。
「どうしたの、ティコ。さ、帰ろう?」
リラがティコを抱き上げようとすると、ティコはひらりと身をかわして、崖のそばに立った。そして、突然語り始めたのだった。

「私は歌うことができません。しかし、代わりに素敵なものをお聞かせしましょう。」
ティコが人間の言葉を話したのでリラはもちろんびっくりした。しかし、それほど不思議なことではないような気もした。どっちつかずのまま、リラは聞き返した。
「なに? ティコ、何を話しているの?」
「ん、ん。お静かに、お静かに……我々猫は歌うことができません。しかし人間には無い力をいくつか持っています。そのひとつは記憶に関するものです。つまり、我々は“歌の化石”を呼び出すことができるのです」
「歌の化石?」
「そうです。遥かな昔、人が歌った場所にはその歌が刻まれています。それは何万年もたつ間に純粋になり、歌の化石となるのです。人間にはそれが見えませんが、我々猫だけが、歌の化石を呼び出すことができるのです」
「歌の化石……ホントにそんなのがあるの?」
「お静かに、お静かに。日の光が翳るとき、歌の化石が歌い出します」
リラが太陽を見上げると、ちょうど太陽は山の影に沈むところだった。そして辺りの光が弱まるにつれて、ゆっくりと、小さな小さな歌が聞こえはじめた。
「3万2千年ほど昔の歌です。当時、この辺りでは最高の歌い手、アルランナの歌の化石であります」
ティコはリラに近寄ると、そのひざの上で横になって目をつぶった。リラは、耳をすまして“歌の化石”に聞き入った。それは彼女のまわり全体から響いてきた。岩肌も、森も、地面 も、あらゆるものが太古の歌を歌っているかのようだった。辺りが暗くなるにつれて歌声は強まり、よく聞こえるようになってきた。
「きれい……」
その歌声は力強く、美しかった。太古に生きた少女の歌声が、何万年もの時間を経てあたりに響き渡った。
「父さんたちにも聞かせてあげたいな」
「残念ながら、大人の人間にこれを聞かせることはできません。彼らの耳には、聞こえないのです」
「そうなの……」
「そして猫は歌いません。リラ、あなただけが、この歌をお父さんたちに聞かせることができるんです。あなたはきっと上手な歌い手になります。この歌をよく覚えておいてください。歌の化石を一度開放してしまったら、次に聞けるのはいつになるかわかりませんから」
「わたし、上手に歌えるようになるかしら」
「なりますとも。そうしたらまた、私がその歌を化石にしてとっておきます。実は、私は、この街の化石管理人なのです」
ゆっくりと、歌の化石は小さくなって消えた。ティコはそっとリラのひざから下りて鳴いた。
「ありがとうね、ティコ……ティコ? もう話さないの? そっか……ありがとう。さ、戻ろうか。父さんたちが心配してるかもしれないもんね」
 暗くなってしまった夜道を、ティコとリラは戻り始めた。ティコはもう二度と喋ることはなかったが、リラはこの日のことを一生忘れなかった。

Fin
Special Thanks to Kawa(for his concept "歌の化石")
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