これが元祖博多ラーメンの味!「博龍軒」

(ラーメン・ファイルNo.0021)

 

 博多ラーメンといえば白濁トンコツスープに細麺であるわけだが,そもそもこの原形となるものは何時頃,誰が作り上げたものなのだろうか?昨年発行された「福岡・北九州・久留米のラーメン」(プランニング秀巧社刊)という文献の一節によると,戦後間もない1948年に「赤のれん」(このコーナー第8回で「元祖赤のれん 節ちゃんラーメン」として紹介)の津田 茂氏と今回紹介する「博龍軒」の山平 進氏が合作で作ったものだという.津田氏が戦時中に中国で食べたトンコツスープを再現し,山平氏がカン水で麺を打ち上げ,そうして完成したラーメンは博多ラーメンのベーシックとして現在も受け継がれているわけである.もしもドラえもんが実存し,タイムマシーンで当時の博多に連れて行ってくれるとしたならば,このラーメン界のレノン&マッカートニー級の黄金コンビが創造した逸品を是が非とも食してみたいという猛烈な欲求に駆られる次第であるが,せめてその片鱗だけでもよいから体験出来ないものだろうか….ならば行くしかない!さすがに約50年前に開業した初代の味と同じというわけではないだろうが,博多ラーメンのルーツを探るヒントを得るためには現存する「博龍軒」のラーメンを実際に味わう以外に考えられない….

 福岡の地下鉄「馬出九大病院前」駅で下車する.これまで博多には何度も足を運んできたが,この周辺を訪れたことは数える程しかない.地上に出ると九州大学医学部の東門方面に向かい,門の前を右折して箱崎宮方面へ2分ほど歩く….大学の傍ということで飲食店が多いのが目に付くが,休校日である土曜日の夕方とあってか学生の姿はなく閑散とした様相を呈している.ちなみにここから数分のところに,格闘家の西 良典(和術慧舟會)の道場があることも付け加えておこう.「アカマツ電器」を左折してちょっと歩くと,ポツンと「博龍軒」の看板が目に止まった.カウンター12 席ぐらいしかない平凡な小さな店で,私の他に客は一人しかおらず,はっきり言ってマスコミ等で「元祖博多ラーメン」として取り上げられているような老舗店独特のカリスマ性は感じられない.少し拍子抜けした感があったが,気を取り直してチャーシューメン(600 円)を注文する.他のメニューはワンタンメン,もやしラーメン,メンマラーメン等があるが餃子はなく,純粋なラーメン専門店であることに元祖としてのプライドと意地のようなものは何とはなしに感じ取れた.以前紹介した片割の「赤のれん」が半ば中華料理店に変貌してしまったこととは実に対照的である.

 厨房内では若い兄ちゃんが注文したラーメンを拵えていたが,麺の湯切りの段階になると突如として一人の腰の曲がった老婆が奥からモソ〜ッと登場してきた.彼女は無表情でじっと鍋の中の麺の湯で具合を観察すると,タイミングを計ったように素早い手付きで麺を掬い上げて,ポンポンと湯切りをして最終的にラーメンを仕上げて「はい,どうぞ.」と私に手渡してくれたのである.最初の兄ちゃんはというと,神妙な顔で傍にじっと立って老婆の一挙手一投足を凝視している….「こ,このお婆ちゃんは,いったい何者なんや?」出来上がったラーメンを受け取りながら,そのような疑問が涌いてきた.比較的コンパクトな丼の中に,きくらげ,ネギ,そしてチャーシューが盛られた,見た目はシンプルなラーメンである.箸で麺を解しにかかると,これは珍しい,平麺であることに気が付いた.そう言えば「元祖赤のれん 節ちゃんラーメン」も平麺であったが,全体的にゲル度が高くてベチャ〜とした感じであった.ところがここの麺は,まるでうどんのようにツルツルしたものでコシがあるのだ.麺にスープを絡ませてファースト・サッピングに入る…ズズズ〜ッ,チュルチュルッ!「…ほばっ!コクがあり,深みのある感じだ!」スープはコッテリ系であるが,平麺の口当たりが新鮮で何とも言えない感覚に囚われてしまった.現代の博多ラーメンとは少し異なる独特の食感は,絶対に他の店では体験出来ないものであろう.「これが元祖博多ラーメンの源流となる味なのか?」…どこまでオリジナルの味に忠実なのかは分からないが,五右衛門風呂で豚骨のだしを取る点や,自家製平麺を作る点は50 年前に開業した先代の意志を引継いでいるとのことである.そして気になるのは,先程の謎の老婆である.私が思うに,彼女は先代の主人と近しい人で(もしかしたら奥さんかもしれん)「博龍軒」開業当時に重要な関与をした「生き証人」的人物であるとみた.私がラーメンを食べ終えて店を出ると,彼女は表で一匹の猫と遊んでいた.こうして見ると普通のお婆ちゃんなのだが,麺の湯切りの際に垣間見せたプロフェッショナルな風貌は正に王道!どことなく晩年のジャイアント馬場を連想せずにはいられない私であった.


[お店のデータ] 住所 福岡市東区馬出2-5-23
         TEL 092-651-3502
         
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