「寝たきりゼロ」に向けて、日頃の診療を通して思うことを、3つお話させていただきます。
一つは、寝たきりの方の往診をさせていただく中で、寝たきりの原因として閉じこもりが大きいということに気づかされたということ。もう一つは、障害があって出かけようとした時に壁があるということです。第3に、寝たきりを防ぐ介護の工夫についてです。
なぜ寝たきりになるのか、もうひとつよくわからない方に出会います。脳卒中で右半身が麻痺になった。でも今は、全身の関節が固くなり、褥瘡ができています。会話も成立しません。家族の方に、お聞きしてみると、脳卒中で入院、それから退院。最初は家族の方がリハビリを手伝っていたが、本人が嫌がる。外にも出ない。もう年だし、いいか、と思っていたら10年近くの寝たきりになってしまったとのこと 閉じこもると、心も体も使いません。残された機能もさびついてきて、心も体も固くなり、寝たきりの状態になっていかれたのです。
なぜ、閉じこもってしまうのでしょう。自分で自分に引導をわたしてしまわれるようです。年をとった、病気になった、心や体が思うように動かなくなった。もう、おしまいだ。後は、お迎えを待つばかり。ところが、なかなかお迎えは来ない。10年、寝て、やっとお迎えが来た。やれやれ、というわけです。
閉じこもり予備軍もだいぶおられます。
80代の女性の方です。外来に来ても、ほとんどしゃべられません。はい、はいといつも上品な笑顔です。ずいぶん、おしとやかな方だなと思っていました。でも、ちょっと耳が遠いのかな、と、ある日、もしもしフォンを使ってしゃべりました。そしたら、どうでしょう。途端に、堰をきったように、話だされました。
「この間の敬老会は出なかった。遠方の子どもの所に行っていた。帰ってから、近所の人が、”なんで、敬老会にきんちゃらんかったか”と聞いてきた。私は、子どもの所に遊びに行っていたから、と答えたが、本当は、敬老会に出たくなかったから、子どもの所に行ったんです。私、障害者になっちゃったんです。目もみえないし、耳も聞こえない。敬老会に出ても、つらいし、おもしろくない。周りの人の反応を見て、おかしそうなところで笑わないといけない。
家の中でもそうです。テレビを見て、みんなが笑う。私も、おかしくはないんだけど、笑う。聞こえないので、なんでおかしいのか、わからないんです。家族みんなの中にいても、私はひとりぼっちなんです。補聴器は2個あるんです。でもビービー音がしてつけう気になれないんです。」
耳がそんなに遠いとは、これまで思っていませんでした。聞こえるふりをして通院しておられたのです。すごい役者だな、と感心しました。
耳の聞こえないことがばれてしまって、でも会話が成立して、とてもすてきな笑顔でした。
障害があるから、やりたいこと、楽しみたいことはあってもあきらめなければならない、と思っておられるわけです。障害があるから、ひとりぼっちになっても仕方がない、と思っておられる。障害があると、みられたくない、と思っておられる。
障害があるから控えめにと思っておられる方に多く出会います。障害があっても、人生を楽しんでいいんだ、と自分に言っていただきたいと思います。それなくして、閉じこもり、寝たきり防止はできないように思います。
二つ目の外に出ようとした時の壁について、いろいろ話を聞きます。
第1の壁は、「まあ、おかわいそうに。お気の毒に。」と近所の人から言われることのようです。言っている本人に悪気はないのですが、障害のある相手を傷つける言葉のようです。
第2の壁は、外出する時の不便さ、ということです。段差は大きな外出の壁ですが、高齢になったり、障害があったりすると、トイレの問題も重要です。脳卒中予防のためには水をしっかり飲んだほうがよい。ところが、そうでなくてもおしっこが近い、外出先でどうトイレを見つけるのか切実な問題です。
バス旅行に誘われたが、トイレが近い、さいさい言うのは嫌なので、用事があるからと断った。本当は行きたかった。でも、みんなに迷惑はかけたくない。それで、バス旅行をあきらめているわけです。
第3に寝たきりを防ぐ介護の工夫についてです。排泄に自立は、大切です。そのために電動ハイローベッド、移動用バー、ベッドと同じ高さのナーセントトイレは不可欠です。
また、座るということがとても大切です。10年寝たきりの方の往診をすることになりました。体は固まり、会話も成立せず、顔つきも無表情です。すわろうくんという座りを支える道具をもちこんで座っていただきました。すると、どうでしょう、顔つきが変わったんですね。引き締まった実にいい男なんですね。「美男子だったんですね」というと、ニコッとされました。笑顔の出たことに、もう一度びっくりしました。座って足を床につけるだけで、こんなに人の表情は変わるのかと感動しました。車いすで散歩にも出かけてもらうようにしました。でもまた、だんだん表情が元に戻っていきます。すわること、車いすで動くことから、人との出会いを広げきれなかったからだと思います。生活の楽しさを支える福祉につないでいくことの大切さを教えられました。
長年寝ておられると、座っていただいた時に、「やめてくれ、めがまわる」と、おっしゃられます。数日、寝ただけでも、座ってふらつきます。そこで、まだ、体調が悪いんだと誤解して寝てしまうと、座れなくなってしまいます。体調が悪いのではなく、長い時間寝ていたために、座るとふらつくようになったのです。調子の悪い時も、座る時間をとっていただきたいと思います。
病院に勤務していた時に、受け答えのしっかりした70代の患者さんに検査目的で入院していただきました。ところが、入院した日から、「となりの人がさいふを盗った」と詰め所にどなりこんできたり、夜、トイレに行ったら、自分の部屋がわからなくなって、深夜、病棟や他の部屋をウロウロされます。あわてて退院していただきました。家に帰ったら、また、元通りしゃきっとされました。環境の変化が、人の心にこんなにも強い影響を与えるのかとびっくりしました。
介護に携わる人からも多くのことを教えられました。エアーマット、ギャジベッドの問題点です。エアーマットは、ブヨブヨしていて不安定です。座ることはできません。また、褥瘡の一番できやすい場所は、座るだけで予防できます。ギャジベッドは、足の裏が床につかない座りです。足を地につけて生きる、とよく言いますが、とても大切なことだと思いました。また、ギャジベッドで起こして、「はい、口を開けて」と、さじで口の中に水気のものを入れると、必ずむせます。むせるのが、ふつうです。自分でやってみると、よくわかります。顎をひいて、うわくちびるに水のあたりを感じて、人は初めてむせずに水を飲み込めます。座ることで、顎は自然に引けます。
最後になりますが、「車いすで歩く」というすてきなメッセージがあります。車いすで歩く勇気と、車いすで歩き、人との出会いを楽しめる生活環境づくりが、閉じこもりを防ぐために大切なのではないでしょうか。これを、まとめの言葉とさせていただきます。