りとる・ぱーとなー
〜イヌも歩けばネコに当たる?〜
「え〜と、以上で図書委員会定例会議を終了します。では、解散。」
眼鏡をかけた、いかにもっていう感じの女子生徒(委員長)がそう告げる。
「よっしゃ、さーて帰るとするか。」
そう言って、席を立とうとした時だった。
「ちょっと、徳永君。悪いんだけど、先ほど提出してもらった報告書。誤字脱字ばかりよ。
次からは気をつけてください。」
どうやら俺が苦労して書上げた報告書がお気に召さなかったらしい、委員長は不満げだ。
「はい、これからは気をつけまーす。それじゃぁ、失礼します!」
さわやかに微笑みながら、逃げるように教室から出ていく。
実際、逃げているのだが。
後から委員長の罵声が飛んでくるがいつもの事なので慣れっこだ。
俺の名は「徳永裕介(とくながゆうすけ)」。
実は高校2年生であったりする。
どうやらこの高校はかなりの難関校らしいのだが、なんとなく試験を受けたら合格してしまったのである。
無論、もともと頭はそれなりに良い方だと自負しているつもりだ。
そんな俺でも入試問題を見て泣きそうになった。
だが、テスト時間終了間際に勘で塗りつぶしたマークシートが、何故か正解だったらしい。
中学3年の時の担任や友人、もちろん母親も驚いただろう。
自分でも信じられないぐらいなのだから…。
えっ?父親はどうしたって?
実は父さんはすでにこの世を去っているんだ。
俺が小さい頃、交通事故で死んでしまったそうだ。
と言っても、俺は父さんのことをほとんど覚えていない・・・。
話が逸れたけど、学校は別の県にあったので下宿しなければならないことになったが、母親は快く送り出してくれた。
よほど嬉しかったのだろう。仕送りもちゃんとしてくれるのだから。
だが、合格すればこっちのものだ!
バラ色の高校生活をエンジョイするぜっ!
と意気込んだものの、現実は厳しかった…。
運と偶然で合格したものだから、授業についていくのが精一杯だ。
……………。
訂正、全くついていけてないと思う…。
ま、テスト前には豊富な人脈(大抵はモノやカネを握らせる)の情報のおかげで、卒業はなんとかできそうなので心配はしないでくれ、母さん。
そんな俺が何故図書委員なんぞをやっているかって?
そりゃ、簡単なことだ。
忙しい仕事はほとんど無いだろうと予想していたからだ。
だが、やはり現実は厳しかった。
図書室の管理、書籍の整理整頓、その他もろもろ。
意外と忙しい役柄なのである。
その上、あの委員長がいる。
さっき、俺のことを遠まわしに「馬鹿」と言っていた人物のことだ。
何故か彼女は俺のすることにいちいち文句をつけてくる。
ひょっとして、俺に気があるんじゃないか?
などと恐ろしい考えが頭に浮かんだ時だった。
「徳永君…。」
不意に俺を呼ぶ声がする。
見ると一人の女生徒が立っていた。
「あ、冬川さんじゃないか。久しぶり!」
「さっき、一緒に会議に出席していたわ…。」
俺のフレンドリーなジョークをあっさりと返す冬川さん。
冬川(ふゆかわ)やえ。
俺と同じクラスの図書委員だ。
非常に無口で、何を考えているのかよくわからない。
黒くて長い髪が印象的だと思う。
そんな性格だからクラスでも独りでいることが多いみたいだ。
ま、彼女とこんなにフレンドリーに話ができるのは、この学校で俺ぐらいのものだろうな。
いつもあっさりと返されるが。
「徳永君、何をぶつぶつ言っているの?少し言っておきたい事があるのだけれど。」
「あ、あぁ、ごめん。ごめんですんだら警察いらないけどな(笑)。」
「次からの報告書は私が書くから。委員長に怒られるのは嫌でしょう?」
(笑)マークまでつけて、白い歯をキラリとさせたジョークもあっさりと流されていく。
次はどんなジョークを言おうか悩んでいる俺を尻目に、冬川さんは続けていく。
「たかが報告書。されど報告書。提出する書類はわかりやすく丁寧に。いいですか?」
「はいはい、わかりましたよ。今後気をつけますって。」
「はい、は一回でいいの。」
なぜか委員長に怒られているような錯覚におちいった。
実は姉妹だったなんてベタな設定じゃないだろうな…。
「まさかな。」
「 ??? 」
いきなり俺が変なセリフを口走ったので、彼女の頭には疑問符が浮かんでいた。
普段は無口な彼女も、俺の前ではほんの少しだけ明るくなってくれているみたいだ。
淡々とした口調は相変わらずなのだが。
ま、これもひとえに俺の人当たりの良さの賜物だね!と一人納得する俺。
「じゃぁ、言いたい事はそれだけだから。私、もう帰るから。」
「あ、ちょっと待った、冬川さん。」
「え、どうしたの?」
「あのさ、良かったら途中まで一緒に帰らないか?」
「どうして?これ以上話すことはないから。」
「………。」
何も言えなかった。
そりゃ、そうだ。
冬川さんはあくまでも事務的に俺に話しかけてきたのだから。
それ以外のなにものでもないのだから。
でも、そんなことじゃ、くじけないよ。
見ててくれ、母さん。
「なぁ、冬…。」
顔を上げてそう言いかけた俺の目の前にいたのは、頭から湯気が出そうなほど怒っている委員長だった。
「と、く、な、が、く〜ん。」
かわいらしい口調とは裏腹に、目が怒っていた。
「報告書、しっかり直しましょうね。」
「はい…。」
しぶしぶ頷く俺。
気が付くと冬川さんはいなかった。
酷過ぎる…。
運命とはこうも残酷なのか。
助けて、母さん。
「くっそー、あんの委員長め。ついでに図書室の掃除までやらせるなんてよ〜。」
面と向かっては命がいくらあっても足りないぐらいのヤバイ台詞を連発する。
「あー、思い出しただけで腹が立つ。」
放課後の会議を経て、報告書の手直し及び掃除をしたため、もう辺りは薄暗くなっていた。
「ぐ〜〜〜、きゅるきゅる〜。」
腹が立ったら、腹減った。はらたいらに5000点。
などとわかりにくいボケをかましつつ、腹ごしらえのためにコンビニへ。
ついでに晩飯になりそうなものを買いこむ。
レジのオネーチャンがちょっと好みのタイプだったので、ちょっと気が晴れた。
買い物袋を片手に、鞄をもう片手に持ってコンビニを出る。
その時なぜかいつもと違う道で帰ったんだ…。
少しでも近道しようと思って、近所の怪しい森(歩道らしきものはある)を抜けたんだ。
変なおじさんとかが出そうな雰囲気だ。
ま、男を襲う変なおじさんはいないだろ。
そんな軽い気持ちで森の中に入っていったんだ。
それが大きな災いを呼ぶとは、その時の俺は思いもしなかったんだ…。
森の歩道を走る俺。
ふと足を止める。
何故足を止めたのかはわからない。
本当にわからないのだ。
木々に覆われほとんど周りが見えないほどの空間で。
犯罪の巣窟になってるんじゃないのか?と思うほどの怪しい森の中で。
俺は見てしまったんだ。
OOOが※※※で×××いるのを…。
さー、考えてくれ。
などと冗談を言える状況ではなかったのだ。
というか、妙に視界が暗いんですが。
何か温かいような気も。
爪でひっかかれてるような気も。
つまり、顔に何かが貼りついたのだぁ。
「ぞわっ!」
かつて味わったことが無いほどの怖気を感じ、無意識に顔に貼りついたものを引き剥がす。
ぽふ。
意外と柔らかかったそいつは地面に落ちた。
というか、見事に着地した。
ウルトラCというやつである。
「……………。」
一瞬、妙な空気が俺とそいつとの間を流れた。
「んにゃ〜。」
やる気のなさそうな声でそいつは鳴いた。
その声でふと我に返る。
「なんだ、ネコか…。」
安堵のため息をつく俺にそいつは近寄ってきた。
正確に言うと、俺自身ではなく俺の持っていた買い物袋だった。
「腹減ってるのか?」
「んにゃ。」
即答である。
「欲しいのか?」
「んにゃにゃ。」
自称動物愛護家の俺はそいつの首をひょいっとつまみあげ、鞄の中に押しこむ。
「んにゃ〜。」
首輪がついてないみたいなので、飼いネコではなさそうだ。
「仕方ねー。俺の家まで連れていってやるよ。それまで辛抱してろ。」
こんな怪しい場所に、こんなやる気のないネコを放っておいたらかわいそうだ。
それに俺自身、早く家に帰りたかった。
変に膨らんだ鞄と買い物袋を抱えて走った。
「俺っていいやつだよな。」
などと自画自賛。
「でも、何故空から降ってきたんだ?木に登っていて落ちたのか?」
「…………。」
鞄の中からは返事がなかった。
「ま、いいか。」
下宿先のアパートに着いた時、辺りはもう真っ暗だった…。
「…………。」
俺は唖然とした。
拾ってきた珍客の食べっぷりに…。
コンビニで仕入れたものをほとんど食べてしまったのである。
おかげで俺の晩飯は、非常用のカップラーメンになってしまった。
辺り一面を散らかした後は、気持ちよさそうにあくびをしている。
冬川さんなら、ネコにでも「散らかさないでください。」って淡々と言うだろうな。
そんな事を考えていた。
「んにゃぁ〜〜。」
そこで、ネコと目が合う。
結構可愛いかもしれないな。
ちなみに俺の住んでいるアパートは現代では珍しく、ペットOKなのである。
「しばらくここに住むか?」
「んにゃ。にゃ。」
気持ちいいぐらいの即答ぶりである。
「そっか、じゃぁ、名前を決めないとな。ネコじゃ不便だろ?」
「んにゃ。」
「とりあえず、俺は徳永裕介。よろしくな。」
「んにゃん。」
自己紹介してから、適当に名前を挙げてみる。
「委員長。」
「んにゃ〜。にゃっ!」
どうやら嫌がっているらしい。
「やえちゃん。」
「んにゃ?」
冬川さんの下の名前を言ってみた。
が、本人にばれたらまた説教される…。
それに、恥ずかしいしな。
やめとこ。
「ト○。」
「ん〜。にゃっ!」
あまりお気に召さないらしい。
「何故だ!巷で流行っているのに!著作権にひっかかるのか?どこでも○〇しょだぞ。」
「にゃ?」
わからないらしい。
そりゃそうだ。
「んー。どうしようか。」
その後えんえんと夜中まで語り合ったが、結局決まらなかった。
「ふぁ〜。今日は疲れたし、もう寝るか…。」
風呂から上がった俺は、マグロ(ト○がだめなら、これでいいや)に話しかける。
ちなみにマグロは仮の名前だ。
良い案が浮かんだら、そっちに変えるつもりである。
そう言えば、先ほど風呂に入るときに一緒にマグロを連れていった。
「裸の付き合いをしようぜ、マグロ。」
と笑顔で話しかけたら、マグロは逃げ出した。
尋常じゃないほどの嫌がりようだった。
「ま、ネコは水を嫌うって言うしな。」
なーんて事を考えながら布団に潜り込む。
「んにゃ。」
マグロも一緒に布団に潜り込む。
「甘えんぼさんだな。」
マグロを見ていると自然と笑顔になる俺。
「おやすみ、マグロ。」
「んにゃ。」
マグロの頭を撫でながら、深い眠りに就く。
おやすみ…。
こうして波乱万丈な一日は終わるのであった。