ゲーリー・カー講演会

「音楽を学ぶすべてに人のために」

 
2001年5月12日(土)
泉佐野市泉の森ホール

【挨拶】
 今回のこの講演をさせていただきますことはとても光栄であると同時に少し気恥ずかしい思いをしております。といいますのも、今回の審査員のなかのどなたをとりましても私よりもずっとすばらしい講演をしていただけるのではないかと思っておりますので、とても謙虚にこの講演をさせていただきたいと思います。

 私と同じく今回審査員をされておられるメンバーがこちらにもいらっしゃいますので、今回私がお話いたしますことは、音楽家にとってはとても重要だと思うのですが、あまり音楽家のあいだでは頻繁に話題にのぼらないのではないかと私が個人的に考えているいくつかのことについてお話したいと思います。その事柄をみなさんと分かち合うことはとても重要ではないだろうかと思います。

 それでは今日お話することについて紹介させていただきます。まず最初にみなさん立ち上がって体を動かして少しだけエクササイズをしていただきたいと思います。それからその次に音楽家として私達が耳を傾けなくてはならない「音響効果(acoustics)」についてお話したいと思います。

それからその次に少し変わっているのですが、私のメトロノームの使い方を御紹介したいと思います。それから、口論になるほどではない程度ですがフレージングのことについて少しお話をして、コントラバスプレーヤーにとって重要だと思われる主にボーイングについてのテクニックのいくつかについてお話ししたいと思います。これはおそらくチェロを演奏なさる方にも共通していることがあるかと思います。

それからみなさまから質問があるかと思いますので質疑応答を最後にしまして、それから最後にJim Hamさん製作の2本のベースを使って、奥田さんとデュエットをデモンストレーションとして演奏したいと思います。


【2.エクササイズ】
 みなさんにご紹介したいエクササイズがたくさんあるのですが、時間に限りがありますので、特に重要だと思われる体の部分を選びました。それは肩と首です。

 この二つの部分についてですが、私が思いますに、ほとんどの演奏家が演奏中にあまり意識をしていないのではないかというふうに思います。

なぜかといいますと、脳に結びついている肩の神経の数が少ないためで、演奏家は演奏中に肩の存在をあまり意識していないように思います。 あまり肩への意識がないために肩の辺りが緊張して固くなってしまうことがよくあります。そのために背中からの力を弓を持つ腕や左手にかけるのが不可能になってしまいます。

 首の部分はとても重要で、首の筋肉が肩の後ろや背中の筋肉をうまく使うのに大きな役割を持っています。首というのはからだ全体の姿勢のバランスをとるためのドアのようなものだと思います。
 これからご紹介するエクササイズは、それほど広い場所を必要としませんので、この場でみなさん立ち上がって一緒にやってみましょう。このエクササイズはみなさんの練習前と後にされることをお勧めします。

以下、エクササイズの内容

1.肩の回転
*右肩で前から後ろへできる限り大きな円を描く。10回。
*逆回転。後ろから前へ10回、できるだけ大きな円を描く。
*続いて左肩。同様に両方向に10回ずつ回転。
*さらに両肩を同時に回転。両方向に10回ずつ。

2.肩の上下運動
*両肩を上に上げたり下げたり。(首をすぼめるような感じ)10回。

3.腕のストレッチ
*両腕を前に伸ばし手を軽く組んで伸ばす。
*次に背中で手を組んで後ろに腕を伸ばす。
*前後に伸ばすこの動作を10回繰り返す。

4.腰のストレッチ
*後ろで手を組んだまま、つま先に体重をかけながら前かがみの姿勢をとる。
*上体を90度前に倒し、腕は組んだまま真上へ伸ばす感じ。
なるべくこのポジションを長く保つ。
前に体重をかけることが腰の筋肉を伸ばすのにとても重要。

5.肩から上腕のストレッチ(その1)
*右手で背骨の上の方をさわるようにして右腕を背中側に曲げる。
*右腕を曲げた状態で、左手を右ひじにあて後ろへ引く。
*30秒そのままの姿勢を続ける。
*同様に左腕も30秒。
*このとき肩の状態を意識する。

6.肩から上腕のストレッチ(その2)
*右腕で首を巻くようにして左肩の後ろへ右手をまわす。
*そのままの状態で左手で右ひじを持ち、後ろへ押す。
*30秒そのままの姿勢を続ける。
*同様に左腕も30秒。
*腕や肩が硬直していそうだったら腕を振るなどしてリラックスさせる。

 これらはとても単純なエクササイズですが毎日やっているという人はまずいないと思います。でも今、自分の肩の状態をより感じやすくなったと思います。

7.首のストレッチ(その1)
*顎をひいて、両手で後頭部を押さえ下へぐっと押す。そのままの姿勢で30秒。
*リラックスさせるために顎で円を描く。時計まわり反時計まわり両方。
*顎で円を描くときは頭が後ろへ倒れないように注意する。これは脊髄を痛めるのを防ぐため。
*前と同じように後頭部を押さえ、今度は右下、右脇の下を見るようにして
首を右にひねる。そのままの姿勢で30秒。
*顎で円を描く。
*同様に左側も30秒。その後、顎で円を描く。

8.首のストレッチ(その2)
*左腕を頭の上からまわして左手で頭の右側を押さえる。
*頭を左に倒すようにして左手で頭を押さえる。
*右手は床を押さえつけるような感じで伸ばす。そのままの姿勢で30秒。
*終わったら先ほどと同様に顎で円を描く。
*同様に逆側も。右手を頭の上からまわし頭の左側を押さえる。
*終わったら同様に顎で円を描く。

 もう一つ簡単なエクササイズをご紹介します。
 チェロもベースも、演奏中はほとんどの時間を前かがみの姿勢を続けます。練習など演奏の後は、腰をストレッチするために親指で腰を押しながら、上体を後ろへそらすようにするといいと思います。


【 3.音響(acoustics)について】
 それでは次のお話に入りたいと思います。まず最初にお話したいのが「音響」についてです。これはとてもすばらしいトピックだと思っております。

ほとんどの楽器奏者は、ほんとうにほとんどそうなのですが、私たちの耳や集中力は、たいていすぐそばの楽器が生み出すその音を意識しています。唯一そうではない楽器奏者はオルガニストです。オルガニストだけが唯一、部屋のなかの音響というものに耳を傾ける能力を発展させてきた人たちだと思います。

 指揮者というのも本来はそういった部屋の全体の音を聞いていると思われていますが、指揮者の歴史の中でほんとに数える程しかそのような能力を発達させてきたひとはいません。オーケストラのバランスをとる能力、そしてユニークなサウンドを創り出す能力を持つ人として知られている指揮者のなかで興味深いのが、レオポルド・ストコフスキーです。その理由というのはレオポルド・ストコフスキーがオルガニストだったからです。

 このことについてお話ししたいのは、すべての楽器奏者にとって、楽器のすぐそばの音に意識を集中させるのではなくて、楽器が部屋中に創り出している音がとても大切なのではないかと感じているからです。音楽的な観点からいいますととても重要なことで、演奏者は極端に大きな音で演奏したり、柔らかい音で演奏することができますが、その場合アーティキュレーションをホールの音響に従って調節していくことが必要になります。

 例をあげてみますと、このホールのように反響がとても大きいところでは、短い音を弾くのはとても難しくなります。自分が欲しいと思っている効果を得るためには、ふだん弾いているよりも、より短い音で弾かなくてはならないと思います。オルガニストがこのようなホールで、例えば下降の音階を弾く場合には、聴衆に同じ長さで演奏しているように感じさせるために、高い音を低い音に比べてより長く演奏します。

結局はそうすることによってホールが音響をつくって同じ長さの音にしてくるれるというわけです。

 このようなホールでは私たち、弦楽器のなかでも低音部の二つの楽器を演奏するものは、低い方の2本の弦を演奏するときは高い方の2本の弦と同じようには演奏できないので、特に気をつけなければいけません。

というのは、下のほうの弦の方がクリアでない、アーティキュレーションのはっきりしない音になってしまうからです。これが音響をよく知っておくことが大切だと思う理由です。今のお話で、みなさんがどのように演奏するかということに関して効果が上げられると思います。

 このことについて少しくどくどとお話しているように思われるかもしれませんが、なぜこれほどまでに強調してお話するのかその理由をお話したいと思います。 演奏中に自分が出している音を楽器のすぐ側で聞く場合に、ホールではなくて、手元に意識が集中しているので音量の50%は失われてしまうことになると思います。

 自分の手元に思考を保ちと続けるということは、心理的な面でもやめた方がよいと思います。客席にいる聴衆に向かって演奏しようと思うのなら、聴衆やホールの音響に対して演奏してみて下さい。そうすれば、本当にすばらしい結果がすぐに得られると思います。

 みなさんが演奏しているところを見ますと、ほとんどの場合、客席からは頭のてっぺんしか見えなくて、みなさんがどのようなの顔をしているのかわからないような状態です。

みなさんが顔をあげてホールにむかって演奏しても、演奏が大きくが変わらないようであれば今日お支払いいただいたお金をお返してもよいぐらいです。ずいぶん長くお話ししましたが私のとても大好きなトピックスなのです。

大川宏明記





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