【 3.音響(acoustics)について】
それでは次のお話に入りたいと思います。まず最初にお話したいのが「音響」についてです。これはとてもすばらしいトピックだと思っております。
ほとんどの楽器奏者は、ほんとうにほとんどそうなのですが、私たちの耳や集中力は、たいていすぐそばの楽器が生み出すその音を意識しています。唯一そうではない楽器奏者はオルガニストです。オルガニストだけが唯一、部屋のなかの音響というものに耳を傾ける能力を発展させてきた人たちだと思います。
指揮者というのも本来はそういった部屋の全体の音を聞いていると思われていますが、指揮者の歴史の中でほんとに数える程しかそのような能力を発達させてきたひとはいません。オーケストラのバランスをとる能力、そしてユニークなサウンドを創り出す能力を持つ人として知られている指揮者のなかで興味深いのが、レオポルド・ストコフスキーです。その理由というのはレオポルド・ストコフスキーがオルガニストだったからです。
このことについてお話ししたいのは、すべての楽器奏者にとって、楽器のすぐそばの音に意識を集中させるのではなくて、楽器が部屋中に創り出している音がとても大切なのではないかと感じているからです。音楽的な観点からいいますととても重要なことで、演奏者は極端に大きな音で演奏したり、柔らかい音で演奏することができますが、その場合アーティキュレーションをホールの音響に従って調節していくことが必要になります。
例をあげてみますと、このホールのように反響がとても大きいところでは、短い音を弾くのはとても難しくなります。自分が欲しいと思っている効果を得るためには、ふだん弾いているよりも、より短い音で弾かなくてはならないと思います。オルガニストがこのようなホールで、例えば下降の音階を弾く場合には、聴衆に同じ長さで演奏しているように感じさせるために、高い音を低い音に比べてより長く演奏します。
結局はそうすることによってホールが音響をつくって同じ長さの音にしてくるれるというわけです。
このようなホールでは私たち、弦楽器のなかでも低音部の二つの楽器を演奏するものは、低い方の2本の弦を演奏するときは高い方の2本の弦と同じようには演奏できないので、特に気をつけなければいけません。
というのは、下のほうの弦の方がクリアでない、アーティキュレーションのはっきりしない音になってしまうからです。これが音響をよく知っておくことが大切だと思う理由です。今のお話で、みなさんがどのように演奏するかということに関して効果が上げられると思います。
このことについて少しくどくどとお話しているように思われるかもしれませんが、なぜこれほどまでに強調してお話するのかその理由をお話したいと思います。 演奏中に自分が出している音を楽器のすぐ側で聞く場合に、ホールではなくて、手元に意識が集中しているので音量の50%は失われてしまうことになると思います。
自分の手元に思考を保ちと続けるということは、心理的な面でもやめた方がよいと思います。客席にいる聴衆に向かって演奏しようと思うのなら、聴衆やホールの音響に対して演奏してみて下さい。そうすれば、本当にすばらしい結果がすぐに得られると思います。
みなさんが演奏しているところを見ますと、ほとんどの場合、客席からは頭のてっぺんしか見えなくて、みなさんがどのようなの顔をしているのかわからないような状態です。
みなさんが顔をあげてホールにむかって演奏しても、演奏が大きくが変わらないようであれば今日お支払いいただいたお金をお返してもよいぐらいです。ずいぶん長くお話ししましたが私のとても大好きなトピックスなのです。