3ワインの飲み頃とは?

 ワインにたずさわる仕事をしていてもっとも多く尋ねられる質問が「このワインの飲み頃はいつでしょうか?」といった飲み頃に関わる質問です。
 そしてこれほど単純な質問でありながら奥の深い課題は無いのではないでしょうか?

 

飲み頃に関する一般論

 一般にいわれていることをまず列記してみましょう。
  • 辛口の\3,000以下の白ワインはすぐに飲んだ方が美味しい。特に\2,000以下程度では3年以内に飲みきる方が良い。

  • ロゼワインも同様に3年以内に飲むべし。

  • ボルドーの赤ワインで特に樽熟成をしたワインは軽い年(例えば97年)でも最低3年後のビンテージを飲む方が良い。良い年ほど熟成させて少なくとも5年程度は経過した方が良い。

  • ただし最近はボルドーも若くても楽しめるタイプに変わりつつある。

  • 偉大な年ほど寿命が長く、良くないビンテージは短命である。

  • ブルゴーニュの方がボルドーより早く飲み頃を向かえ、寿命も短い。(ただし特級畑は除く)

  • 偉大なワインでは3〜5年後に若さに満ちた第1期の飲み頃を向かえ、その後5年ほど休眠期(閉じた状態)を経て熟成感に満ちた偉大な飲み頃を向かえる。

  • カリフォルニア・ワインは\10,000以上するスーパープレミアム・ワインでも出荷後すぐに飲んで充分に楽しめる。

  • ノン・ビンテージのシャンパンは製造者から出荷後は早く飲んだ方が良い。

  • ブルゴーニュの一部の古典的な醸造法でしっかりと造るワインは10年以上たたないとその真価を発揮しない。

  • モンラッシェ(ブルゴーニュ最良の辛口白ワイン)の10年たたないワインを飲むことは神への冒涜である!

  • シャトー・ディケムを代表とする甘口の貴腐ワインには100年以上の永遠の生命がある。

 これらのことは、ある意味全て真実と言えると思います。ただし、飲み頃というのは本当に飲む側の個人的な嗜好が出てくる問題なので、本当に一概に処理できないものだと思います。
 とくに、20年以上熟成したワインの熟成香の好き嫌いには好みのはっきりと出る物もあります。

若いワインと若すぎるワイン(特に酸とタンニン)

赤ワインのタンニンに対する慣れ

 若い赤ワインの特徴はフレッシュな果実味です。ボジョレ・ヌーボーに代表される若飲みタイプのワインは、ぶどうをそのまま飲んでいるような爽やかな飲み口があります。

 しかし、ボルドーの特級クラスのように最初から10年以上瓶熟成させることを前提としているワインのぶどうはとても果皮が厚く、糖も多く様々なエキス分が含まれている上に、内側を焼かれた樽の中で1年以上の熟成をさせます。

 シャトーマルゴーやラトゥールのような超一流のシャトーのワインでも樽熟成中などは特にワインは酸とタンニンが荒々しく、一般の愛好家が美味しいと感じるのは難しい状態です。収斂性を持った舌をしぼめるような苦みを伴うことがあるからです。

 ただ、その酸がそのワインの寿命をしっかりと支え、タンニンが柔らかくなり、様々な香味の成分に変化をしてワインを素晴らしい味わいへと変えていくのです。

また、コーヒーなどと同様に苦みの成分、タンニンには慣れと個人的な好みがあり、特に赤ワインになれていない人ほどこのタンニンによる苦味が厳しく感じられ、ワインになれた人ほど、タンニンをつらく感じにくくなります。
 僕自身も、最初にワインの修行を始めた頃、ブルゴーニュ地方コート・ド・ボーヌの赤ワインの試飲会がありましたが最初の5本を過ぎたところで舌がタンニンにやられて麻痺してしまい、どうしようもなくなった経験があります。
 今にして思えば、とてもタンニンの軽いワインのはずですが、それまでの日本人の普通の生活の中でそれほどタンニンの多い飲み物を集中して飲む習慣がなかったからだと思います。ただし、その後3ヶ月ほどで2時間にボルドーワインを30本テイスティングする事も可能になりましたから、慣れるのはさほど辛いことではありません。

また、タンニンになれてくると、同じタンニンのなかでもまろやかで質の高いタンニンとゴツゴツした荒々しい低質のタンニンの違いがわかるようになります。
 赤ワインにはまっていく多くの人はこのタンニンの違いがわかってきて面白さを感じるようになるのです。

 

カリフォルニア赤ワインの柔らかいタンニン

ボルドーよりも温かく雨の少ないカリフォルニアでは、完熟したぶどうが安定して収穫できる強みがあります。ぶどうが完熟すると、酸やタンニンが柔らかくなる傾向があります。ボルドーワインに比べてカリフォルニアワインが色がとても濃くヴォリュームがあるにも関わらず、まろやかで柔らかい新鮮な果実味に満ちているワインが多いのはこの事によります。

また、ワイン醸造学の学術的研究の進んだカリフォルニアでは、タンニンの質が柔らかいぶどうを造るクローンの研究が進み、その観点からも若い間からとても飲みやすくリッチなワインが造られています。

このように若くして飲みやすいスーパープレミアムワインの開発は世界的にワイン愛好家に受け容れられ、カリフォルニアワインこそが世界最高峰のワインだ、と主張する愛好家も日本を始め多く現れています。 また、味わいの国際化の中でフランスの専門家の中でもカリフォルニアワインが無視できない存在になっていることは事実です。

また、ヨーロッパの伝統的なワイン愛好家は、カリフォルニアワインの酸の少ないことがその寿命に対する疑問符と微妙で複雑なニュアンスに欠ける点が料理に合わせたときのバランスに問題があると主張しています。

白ワインの爽やかな酸味

白ワインのフレッシュな酸味は魅力的です。

特にソーヴィニヨンブランやミュスカデ種の持つリンゴ酸に由来する酸味は軽く、心地よい新鮮味があります。これらの酸味は5年ほど経過するとほとんどがぼやけてしまい、疲れたのペリとしたワインになってしまいます。試飲をしたときにリンゴの香りのするワインは今が一番の飲み頃、という根拠もここにあります。酸っぱすぎるワインには問題がありますが、酸味が信条のワインほど酸が足りないときは面白みのない物になりがちです。

ただし、シャルドネやリースリングのワインには酸味だけではない複雑なエキスが多く含まれているので熟成した変化をゆっくりと楽しむことが出来ます。

 

熟成したワインの楽しみと老ね香(ひねか)

 熟成したワインには若いワインにはないとても素晴らしい香気があります。それはとても複雑で香木や土、なめし革や動物バラなどの様々な花などが幾重にも現れてきます。

味わいも柔らかくしなやかで、とてもバランスが良くなり後味も長い余韻が続くようになります。

そのような熟成香と同じ様でもあり、またとても個人的な嗜好の差の出る香りが「老ね香」です。

 白やシャンパーニュに現れるシェリー香

 わざと酸化をさせて独特の香味を持つ酒精強化ワインがスペインのシェリー酒です。このシェリーの独特の酸化臭と共通の香りが疲れの見え始めた白ワインにも出てきます。人によっては極度にこの香りを嫌いますが、シェリー同様あまり強すぎなければ熟成による個性的な香り、としてとらえることもでき、ワイン愛好家の中にはこのタイプの香りが好きな人も多くいます。 また、シェリー同様生ハムやオリーブオイルの強い料理とこの老ね香は良い相性を見せるので試してみて下さい。

 

 赤ワインに出るマデラ香

 ポルトガルのマデラ酒もワインをわざと暑い部屋に放置して強制的に酸化させた状態を造る個性的な酒です。酸化に由来する独特の芳香があります。これもかなり嗜好性の強い香りなので、この香りのあるワインは「もはや死にかけている」として、嫌う人もいますし、「これこそが熟成の極み」として好む人もいます。(特にヘビーな愛好家に顕著)
 あまりにこれが強すぎると、プラムが腐ったような感じの香りとなり2杯以上は飲む気になれないと思うのですが、若干であれば強いウォッシュ系のチーズと合わせてみると美味しいと思います。
 

結論になりにくいのですが...

このようなことでワインは若いワインから完全に死ぬまで様々な変化を遂げていきます。

どのような状態が最良なのかは人間同様難しい、というかそれぞれの楽しみ方、としかいいようのないものなのかもしれません。

ただ、どのような状態のものをどのような食べ物と合わせて、ということであればそれぞれ答えが出てくると思います。新しいワイン、古いワイン、それぞれ楽しんでみてはいかがでしょうか?