3 テロワール(土壌と風土)

1990年代を醸造技術の向上に注目された時代だとすると、2000年代に入り、今最も注目されているのは、ブルゴーニュの流行と共に訪れた、「テロワール」注目の時代です。
 
テロワールとは?
  僕が、留学をしていた1990年以前から、フランスでは「テロワール」という言葉を使用していましたが、カリフォルニアのワイン生産者までもが「テロワール」を使い始めたのは、1990年代後半以降だと思います。いずれにしても、まだ定義がしっかりと固まっていないように思えます。
 ここでは、「テロワール=ワインの味わいに影響する土壌、地層、地質、立地条件」と定義づけます。
 今日、ビオ・ディナミ(天体運動も含めた有機自然農法)を提唱する生産家たちの間を中心に、「テロワールこそがワインの多彩さの源泉であり、ぶどうの根が数メートルと地中に深く伸びることにより、様々な地下地層の岩盤などから、様々なミネラルを吸収することによって、複雑な香りが生まれることになる。」と強く主張しています。
  実は、粘土質や砂利質など、水はけに関する部分のぶどうに対する影響はかなり実証されていますが、石灰岩や花崗岩など、地質的な組成が味わいや香りにどのような影響を与えているのか、ということに関して科学的な実証は現在のところまだ至っていないそうです。 そのために、「日照と水はけを理想的な環境にすれば、どんな地層でも、美味しいワインが出来る」と公言する専門家もいます。
 しかしながら、未だ科学的に実証されていないけれど、確かに存在する現象というのも多くありますし、ワインの味わい自体が、それそのものであると僕は感じています。そこで、この章では、ブルゴーニュを中心に、テロワールの味わいとして認識されていることをご紹介します。
 
 
 
ブルゴーニュのテロワール
 
ピュリニーモンラッシェ村のシャルドネ
(ピノ・ノワールの畑より土が白い)
土壌(地表の表土)
  ブルゴーニュの土壌は、氷河期以前であるジュラ紀に海であった部分の魚介類の死骸を組成とする、石灰岩が多く含まれ、そこに泥が混ざり合った、泥灰岩、そしてその上を覆う石灰粘土といった組成が中心です。この石灰質の土壌と冷涼な気候がピノ・ノワールとシャルドネに理想的な影響を与えています。
 そして、この地質が火山活動による隆起と、氷河の溶解で粘土質土壌が高地から低地に流れることによって、村ごとの立地や、同じ村の中でも、高地、中腹、低地の違いによって、表土の厚さに違いが出てきます。
わかりやすく話をすれば、ブルゴーニュでは、表土(粘土)の厚いところほどふくよかな味わいとなり、表土が薄くなると、繊細でミネラル質な味わいになります。また、表土の石灰分が多い白っぽい粘土質では、より繊細な性格となり、白さが目立ってくるとピノ・ノワールよりも、シャルドネに適した土壌となります。同じ生産家のワインであれば、この原則を把握すると、ブラインドで2本のワインを味わった違いで立地条件が想像できることになります。
たとえば、ボーヌから標高の高い村であるサヴィニー・レ・ボーヌの丘では、表土が薄く繊細な味わいとなり、表土の粘土が流れてたまるアロックス・コルトンの村では、よりたくましいワインが生まれます。(ドメーヌ・シモン・ビーズにて、マダム・千砂さん談)

 

 


高低の違い
 ブルゴーニュの中心、コート・ドールは東向き丘陵(コート)の斜面に沿って北から南に細長く伸びています。 冷涼なブルゴーニュの気候と繊細なピノ・ノワールの関係で、僅かな高低差でもプルミエ・クリュやグラン・クリュになったり、ACブルゴーニュとしか認められなかったりと、ワインの価格に数倍以上の開きが出てきます。断層による地下の地層などの違いも多いようなのですが、明らかなのは、丘の中腹が最適の場所で、ほとんどのグラン・クリュが丘の中腹にあることからも証明されています。上の地図上でも濃いオレンジ色の部分が特級畑。特にヴォーヌ・ロマネで顕著ですが、最上部が村名、中腹の特級を囲むように1級が存在しています。中腹部は、水捌けが良く、日照と気温のバランスがよいことで、最高の条件を満たしています。また、ロマネ・コンティやリッシュブールなどでは、表土の30cm程下には既に石灰質土壌が現れるそうです。(アンリ・ジャイエのワイン造り)
 それと逆に、コート・ドールの丘陵を越えた、隣の標高の高い丘の上にある畑は「オート・コート」といわれる部分で、繊細ですが、凝縮感に欠けた軽快なワインが生まれることになります。